悪魔

「俺が探知できる範囲には何もないが、奴は見つけられるのか?」


 ティアーノは森の奥を見つめたまま、


「どうやってるのかは知らないが、奴には何故か分かるらしい」


(魔力探知の範囲が極端に広い……それか月の石の場所を探知する方法がある?)


「お出ましだ」


(……ホントに来たか。早いな)


 森の奥から見覚えのある少女が現れた。白髪赤眼の少女は、膨大な魔力を揺蕩わせていた。


「ん……? 君は……ルシウス?」


 珍しいものを見たといった様子で、ルシウスへ顔を向ける。


「あぁ。久しぶりだな」


「へぇ! 随分強くなったようだねぇ? やっぱり僕の勘は正しかったね!」


「おかげさまで、な」


 ルシウスを値踏みするように睨め付ける。


「ホントにすごいねぇ。この短期間でよくそこまで--」


「ベイ、君に頼みがある」


「何かな? ルシウスの頼みならできるだけ聞いてあげるよ? できるだけね」


 口角をあげてルシウスへと一歩近づく。


「協力して欲しいことがある」


 ルシウスはティアーノ達に説明した内容を、ベイへ再び説明をはじめた。







「ふーん。それで、僕の協力が欲しいって?」


 ベイは近くの木の葉を弄びながら問う。


「そうだ」


「まぁ別にいいんだけど……」


 ルシウスの顔が喜色を帯びる寸前--


「僕と戦ってよ」


「なんでそうなる!?」


「別にいいだろ? その月の石だって今は諦めなきゃいけないってことだろ。だったらせめて味見くらいさせてくれるよね?」


 ベイは先程より口角を上げ、小さな口が裂けるかのように笑みを浮かべる。


「まぁそうなるよな……分かった。ただ止めとどめは無しだ」


「もちろんさ! 協力の意味がなくなるし、何より君はまだ成長途中の果実だからね」


(嫌な例えしやがるなぁ。俺は餌か)


「あと場所も変えるぞ。こんなとこであんたとはやれない」


「好きにしなよ」


「こっちだ」


 駆けだしたルシウスをベイが追っていく。







「ここ、懐かしいねぇ」


 抉られ、荒れ果てた大地が続いている。はじめてルシウスとベイが出会った場所だ。森だった面影は残っていない。


「今なら分かる。あんた、前は相当手を抜いてたな」


 ニィっと口角を上げてルシウスを睨め付ける。


「それが分かるくらいになったんだねぇ。先手は譲るよ」


「そりゃどうも」


魔力炉アクティルス=臨界起動オーバーロード


 ルシウスの魔力が爆発的に膨れ上がる。魔力変換効率1:3の負荷が大きくルシウスへのし掛かるが、その魔力総量は700万を優に越えている。


 薄く笑みを浮かべたまま、ベイも魔法名を紡ぐ。


魔力マギカ形成フォルマーレ


 ベイの魔力が溢れ出し、禍々しい蜷局を巻く。その魔力は、竜王ネレイデスに比肩していた。


「ヴァレリアと差ありすぎだろ……」


 ルシウスが諦めのように呟くと、


「ん? ヴァレリアを知ってるのかい?」


「……あぁ」


「なるほど。最近あいつの魔力を感じないと思ったら、君が殺したんだね」


 ルシウスが警戒する。


「ああ、気にしないでよ。別にあんな雑魚どうでもいいよ。あそこが限界のただの出来損ないだ」


「……同じ真祖じゃないのか?」


「僕は一人目の吸血鬼、まぁ真祖ってやつだけど、ヴァレリアは確か三、四世代後じゃなかったかなぁ」


 三、四世代であれば、血はまだ色濃く受け継いでいる。だからこそヴァレリアは真祖と呼ばれる程の力を持っていたが、一人目--真の真祖であるカズィクル=ベイとは比べるべくもない。


(エリーの教えてくれたデータがいつのか知らないけど、随分成長なされてるようで……)


「さて、そろそろ始めないかい?」


「言われなくても……『--電光石火トニトルスエンハンス-黒炎=ニグレドイグニス!』」


 ルシウスを白雷が包み込み、その上を黒炎が揺らぐ。それに対抗するようにベイが魔法名を紡ぐ。


『--闇のテレブラールム絶望=ディスペアー


 ベイの全身を闇が這う。その闇は蠢いていた。莫大な魔力で象られたそれは、以前ルシウスが見たものとは別物だった。


(どんだけ手加減されてたんだか……)


 ルシウスは覚悟を決める。爆発的に膨れ上がった魔力を練り上げ、己の最強の魔法名を紡ぐ。


『--雷神化トール


 静かに紡がれた魔法名とは裏腹に、轟雷を響かせて体が白雷へと変質していく。そして追加効果の黒炎だけが、変わらず周囲を漂っていた。


「キャハハハ! まさか精霊化までできるとはねぇ! やっぱり僕の目は正しかったよ!」


(やつが精霊化できなければ俺の勝ちだが……)


『--闇の悪魔ベリアル


(ですよねー……)


 当然のようにベイの実体が闇へと変質していく。闇が更に深く、濃く凝縮されている。


「さぁ--やろうか」

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