悪魔
「俺が探知できる範囲には何もないが、奴は見つけられるのか?」
ティアーノは森の奥を見つめたまま、
「どうやってるのかは知らないが、奴には何故か分かるらしい」
(魔力探知の範囲が極端に広い……それか月の石の場所を探知する方法がある?)
「お出ましだ」
(……ホントに来たか。早いな)
森の奥から見覚えのある少女が現れた。白髪赤眼の少女は、膨大な魔力を揺蕩わせていた。
「ん……? 君は……ルシウス?」
珍しいものを見たといった様子で、ルシウスへ顔を向ける。
「あぁ。久しぶりだな」
「へぇ! 随分強くなったようだねぇ? やっぱり僕の勘は正しかったね!」
「おかげさまで、な」
ルシウスを値踏みするように睨め付ける。
「ホントにすごいねぇ。この短期間でよくそこまで--」
「ベイ、君に頼みがある」
「何かな? ルシウスの頼みならできるだけ聞いてあげるよ? できるだけね」
口角をあげてルシウスへと一歩近づく。
「協力して欲しいことがある」
ルシウスはティアーノ達に説明した内容を、ベイへ再び説明をはじめた。
◆
「ふーん。それで、僕の協力が欲しいって?」
ベイは近くの木の葉を弄びながら問う。
「そうだ」
「まぁ別にいいんだけど……」
ルシウスの顔が喜色を帯びる寸前--
「僕と戦ってよ」
「なんでそうなる!?」
「別にいいだろ? その月の石だって今は諦めなきゃいけないってことだろ。だったらせめて味見くらいさせてくれるよね?」
ベイは先程より口角を上げ、小さな口が裂けるかのように笑みを浮かべる。
「まぁそうなるよな……分かった。ただ
「もちろんさ! 協力の意味がなくなるし、何より君はまだ成長途中の果実だからね」
(嫌な例えしやがるなぁ。俺は餌か)
「あと場所も変えるぞ。こんなとこであんたとはやれない」
「好きにしなよ」
「こっちだ」
駆けだしたルシウスをベイが追っていく。
◆
「ここ、懐かしいねぇ」
抉られ、荒れ果てた大地が続いている。はじめてルシウスとベイが出会った場所だ。森だった面影は残っていない。
「今なら分かる。あんた、前は相当手を抜いてたな」
ニィっと口角を上げてルシウスを睨め付ける。
「それが分かるくらいになったんだねぇ。先手は譲るよ」
「そりゃどうも」
『
ルシウスの魔力が爆発的に膨れ上がる。魔力変換効率1:3の負荷が大きくルシウスへのし掛かるが、その魔力総量は700万を優に越えている。
薄く笑みを浮かべたまま、ベイも魔法名を紡ぐ。
『
ベイの魔力が溢れ出し、禍々しい蜷局を巻く。その魔力は、竜王ネレイデスに比肩していた。
「ヴァレリアと差ありすぎだろ……」
ルシウスが諦めのように呟くと、
「ん? ヴァレリアを知ってるのかい?」
「……あぁ」
「なるほど。最近あいつの魔力を感じないと思ったら、君が殺したんだね」
ルシウスが警戒する。
「ああ、気にしないでよ。別にあんな雑魚どうでもいいよ。あそこが限界のただの出来損ないだ」
「……同じ真祖じゃないのか?」
「僕は一人目の吸血鬼、まぁ真祖ってやつだけど、ヴァレリアは確か三、四世代後じゃなかったかなぁ」
三、四世代であれば、血はまだ色濃く受け継いでいる。だからこそヴァレリアは真祖と呼ばれる程の力を持っていたが、一人目--真の真祖であるカズィクル=ベイとは比べるべくもない。
(エリーの教えてくれたデータがいつのか知らないけど、随分成長なされてるようで……)
「さて、そろそろ始めないかい?」
「言われなくても……『--
ルシウスを白雷が包み込み、その上を黒炎が揺らぐ。それに対抗するようにベイが魔法名を紡ぐ。
『--
ベイの全身を闇が這う。その闇は蠢いていた。莫大な魔力で象られたそれは、以前ルシウスが見たものとは別物だった。
(どんだけ手加減されてたんだか……)
ルシウスは覚悟を決める。爆発的に膨れ上がった魔力を練り上げ、己の最強の魔法名を紡ぐ。
『--
静かに紡がれた魔法名とは裏腹に、轟雷を響かせて体が白雷へと変質していく。そして追加効果の黒炎だけが、変わらず周囲を漂っていた。
「キャハハハ! まさか精霊化までできるとはねぇ! やっぱり僕の目は正しかったよ!」
(やつが精霊化できなければ俺の勝ちだが……)
『--
(ですよねー……)
当然のようにベイの実体が闇へと変質していく。闇が更に深く、濃く凝縮されている。
「さぁ--やろうか」
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