もう一人の真祖編
想定外の協力者
「ルウ君!」
ボロボロになったルシウスを見て、アリスが駆け寄る。
「ルウ! その傷大丈夫なの!?」
ルシウスの体は血で赤く染まっていた。無理を通した反動によるものだが、意識を失っていた間にネレイデスが治癒してくれたようで、既に傷は残っていない。
「あぁ。大丈夫。ただ……ちょっと魔力を使いすぎたな……」
魔法具の効果もあり、この瞬間も回復している魔力だが、ルシウスの魔力炉を満たすにはまだ時間がかかる。
「だけど、竜王の助力は得られた」
「まじかよ!?」
レウスが驚きのあまり、ルシウスの肩を強く揺らす。
「ちょっと! ルウは今疲れてるんだからやめなさいよ!」
エリーに引き剥がされながらも、既に聞いた答えを聞き間違いではないと確認するかのように待つ。
「本当だ」
「さすがですね……竜王まで仲間になるなんて……」
マリーも信じられないという様子だ。そしてレーナが「ふふんっ」と何か言いたげな様子で近づいていく。
「……? どうしたんだ?」
不思議に思ったルシウスが問いかける。
「ルウ、報告があるよ!」
「なんだ?」
「なんと……ついに私達は! 魔力炉臨界起動を修得したのです! ぱちぱちぱちー!」
その報告にルシウスは目を見開き、
「ホントか!?」
「えぇ、ホントよ。魔力を燃料にしてエネルギーを生み出すっていうのがよくわからなかったんだけど、薪を燃やして熱を得るって考えたらうまくいったの」
「やったな! これでみんな一気に強くなったぞ!」
「ふふーん! 今なら上位精霊くらいなら相手できる気がするよ!」
ふんぞり返るように胸を張るレーナだったが、その胸部は何の膨らみもなかった。
「ふむ。確かにその魔法を使えば、上位精霊に近い魔力になるだろう」
肩に乗るアグニが、冷静に魔力を分析する。
「だがまだ精々が一人一体ってとこだろ。上位精霊がどんだけいるのか知らねぇが、まだ足りねぇ」
イザベラが苦い顔で呟く。
「シルヴィラがある程度は相手にしてくれるだろうけど、まだもう少し戦力が欲しいところだな」
「どうするよ? 王国の魔術師団もいるとはいえ、奴らは下位精霊の相手だろ?」
「……もう一人あてがある」
気が進まない様子でルシウスが答えた。
「誰なの?」
「……もう一人の真祖……カズィクル=ベイだ」
「それって……」
アリスが不安そうに呟く。
「あぁ。前に一度戦ったやつだよ」
「仲間になってくれるの?」
ルシウスは少し悩んで顔をあげる。
「分からない……が、あいつは話は通じるはずだ。俺と戦いたがっていたしな」
「じゃあまたルウ君が一人で……?」
「あぁ。ごめん……」
「……いいよ。ルウ君にしかできないことだもん……でも、無理はしないって約束して」
アリスの瞳を見つめ、
「分かった。約束する」
「ルシウスは竜王だって仲間にして帰ってきたんだぜ! その吸血鬼だってきっと大丈夫さ!」
「そーだそーだ!」
笑顔に溢れる仲間たちを見て、ルシウスの顔が綻ぶ。そして、必ずこの世界を守るという意志が、より強固なものとなっていった。
◆
ネレイデスとの戦いから一週間、ルシウスの体は万全の状態に戻っていた。
「ルシウスよ。それでその真祖はどこにいるのだ?」
「うーん……どうも決まった場所にいるわけじゃ、ないみたいなんだよな……」
お手上げだといった様子で掌を返すルシウス。
「どうするのだ?」
「そうだなぁ……前に会った場所の周辺で魔力探知でもしてみるしかないかな……」
「ふむ。まぁまだ時間はある。とりあえず試してみれば良いだろう」
「あぁ、そうするよ」
風の翼を発動すると、帝国との間のかつては森だった場所へ降り立つ。
『
薄く広げた魔力が広範囲へと広がる。そして無数の動物、魔物の魔力を捉えた。
「やっぱりいないみたいだ……ん? すぐ近くに大きめの魔力が複数あるな」
荒野の端に見える森から、複数の魔力反応が近づいてくる。
「この魔力反応は……」
思い出そうとしていると、魔力反応の持ち主が視認できる距離まで近づいてきた。
「あ、勇者パーティか」
覚えのある魔力反応に合点がいったようにポンと手を打つ。
そして目の前まで来た勇者達がルシウスの前で止まる。
「やぁ。こんなところで何してるんだい?」
「ちょっと捜し物をしてるんだよ」
「こんな荒野で?」
白銀が不思議そうに辺りを見回す。
「まぁな。それで、どうしたんだ? わざわざ追いかけてきてくれたみたいだけど」
「君が帝国のほうへ向かって飛んでいるのを見つけてね。何をするつもりなのかなと」
(あぁ……帝国では前科っつーか皇帝やら殺してるからな……迂闊だったか)
「捜し物だって言っただろ? 他意はないよ」
「そうか。それならいいんだけどね」
ルシウスは思いついたように話し始める。
「なぁ白銀。お前ら、この世界をどう思ってる?」
「……? この世界、というと?」
「隠す必要はない。お前らが元々この世界の人間じゃないってことくらい分かってる」
「!?」
全員が目を見開き、警戒するようにルシウスを見る。
「あー、警戒させるつもりはなかった。悪い。それに異世界人かどうかはどうでもいいんだよ。この世界をどう思ってるかが聞きたい」
この言葉を信じたかは分からないが、一応警戒を解いて白銀が問いに答える。
「……俺たちは元の世界に帰るのが目的だ。だが、この世界にいる時間も長い。当然愛着も沸いてるさ」
「そうか。それで、帰る方法は分かってるのか?」
「……いや、まだだね」
白銀が目線を逸らす。
「それなら頼みがある。この世界に危険が迫っているんだ。王国と敵対している帝国にいるんだ。俺にいい感情は持っていないかもしれないが、協力してくれないか?」
「この世界にも愛着はあるって言ったはずだよ。それに、帝国は王国を敵視しているかもしれないけど、俺たちは帝国に思い入れがあるわけでもないし、元々国に尽くすって感じの世界にいたわけでもないしね」
「なら協力してくれるってことか?」
「もちろんさ。みんなもいいだろ?」
「構やしねぇよ。真也の好きにしろ」
梔が興味なさそうに答えるが、他の仲間も特に反対はしないようだ。
「ということだよ」
「そうか。助かる。実は--」
◆
「それは本当なのかい?」
「ちょっと、元の世界に帰る前にここが消滅したら私達どうなるのよ?」
白銀たちは、ルシウスの話を聞き、自分達の置かれている状況を理解した。
「本当だ。当然お前らも、俺も、この世界の全ては消える」
「何よ。そんなの協力も何もない。やるしかないってことじゃない」
「まぁまだしばらく先だから、その時になったら連絡するよ」
「連絡ってどうやって?」
『
「こうやって」
「な、なんだこれ? 頭の中に直接……?」
「電話みたいなもんだよ。白銀たちは使えないから俺からの一方通行だけどな」
「そうか。まぁ分かったよ。その時が来たら呼んでくれ。俺たちはもっと強くなっておくよ。強いんだろ? その精霊ってのは」
「あぁ……逃げ出したくなるくらいにな」
何かを思い出すように虚空を見つめる。
「君が逃げ出したくなる相手か……俺たちも遊んでいる暇はなさそうだ」
「それじゃあ俺は捜し物があるんで行くよ」
「あぁ」
風の翼を発動して、飛び去っていくルシウスを一行が見送る。
「聞いた? あいつ
「え? わかりやすかったよ」
「アホか。なんでこの世界の人間のあいつが、電話を知ってるんだってことだ」
梔が三枝に答えを返す。
「あ……」
「彼も、やっぱり普通じゃないようだね」
「でも……どう見ても私達の国の人には見えないよ?」
「自分で答えの一つ言ってんじゃねぇか。外国のやつかもしれねぇし、そもそも転移じゃなくて転生って可能性もある」
「なるほど……」
「とにかく、今はもっと強くなっておかないとね。彼はまた一段と強くなっていたようだし」
ルシウス消えていった空を見つめる一行は、帝国へと歩きはじめる。
その首筋には、以前より呪いが強まったことを示すように印が広がりはじめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます