黒炎
「はぁ……いつまで続くんだよこれ?」
レウスがもう十分だと呟く先には、蛇のように胴体の長い竜が、水面から半分程体を出して大地に伏していた。
「そうね……もう100層なのに、60層から属性違いの知能のない竜ばっかり」
エリーは属性は違うが、知能がなく赤竜と同じようにブレスを吐くばかりの相手に辟易していた。
「いい加減慣れたよねー。どの程度の魔力込めれば倒せるかもう完璧だよー」
赤竜では魔力をありったけ込めたレーナも、余力を残して
「うん……ちょっと代わり映えしないね」
アリスは既にただ立っているだけになっていた。みんなの実力が上がっていることは勿論だが、アリスも慣れてしまったのだ。
「でもおかげで魔道具は全員分揃いましたよ」
マリーは飽きるというよりは、うっとりと自分の腕に装着された腕輪の魔道具を見つめている。
(マリーってアクセサリーが好きだったのか……それにしても見すぎだろ……)
「それはまぁ良かったけどな。ほら見ろよ! 俺のこの腕輪! 魔法効果上昇だぜ!」
レウスが笑みを浮かべながら腕を突き出して服を捲り、身につけている腕輪を見せる。
「はいはい。見せなくてもみんな魔道具はゲットしてるわよ」
エリーの首には、竜を模した首飾りが淡い光りを反射していた。
「まぁとりあえず降りてみようか。最下層って予想されてた100層を越えた先に何があるか気にならないか?」
「そうだねぇ……あたしはまた同じってほうに賭けるよ……っていうかなんでこんなにあっさり来れちまってんだよ」
イザベラがルシウスにつまらなそうに、そして達成した偉業に驚愕するように不思議な感情で答えた。
「じゃあ行こうか」
ルシウスについて皆が階段を降りていく。少し進むと、背後の100層へ続く通路が塞がれていた。
エリーが閉じた通路を振り返り「え……? こんなこと今まであった?」
「ううん……はじめてだよ」
不安そうに閉じた通路を見て、ルシウスの服の裾を掴むアリス。
「……行こう」
階下の明かりに向かって七人が下っていく。そして徐々に肌を焼くような熱気がに肌を焼くように強まっていく。
「おいおい……冗談じゃねぇぞ……」
イザベラの言葉に誰もが反応できず、眼前の光景に目を奪われている。101層に降りたその先には、溶岩が煮えたぎるエリアで、少ない陸地には赤竜の群れが悠然と歩いていた。
「さすがにこの数は無理じゃねーか……? 全部赤竜だぜ……」
レウスの剣の柄にかけた手が震えている。
「戻る道はない……進むしかないか」
「そうは言ったってよ、いくらなんでもありゃないぜ」
レウスがお手上げだと手を挙げている。
「全部相手にしてたら、さすがに魔力が厳しいだろうから、素通りさせてもらおう」
「そんなことできるのー?」
「あぁ。俺の周りに集まってくれ」
全員が集まったことを確認し、ルシウスが魔法名を紡ぐ。
『
七人を包むように黒い膜が包み込んだ。それは光を遮り、視界を完全に遮断した。
「この黒点の中にいれば、周りからは気づかれない」
「ちょ、ちょっとルウ? でも何も見えないわよ?」
「大丈夫だ。俺についてきてくれ」
ルシウスは魔力を薄く伸ばして周囲を把握し、溶岩と赤竜を綺麗に避けて進んでいく。
時折、赤竜のうなり声がすぐ側で聞こえるが、姿が見えず、何もできないことが恐怖を誘う。
ドォン! とすぐ側で巨大な衝撃が発生し、大地がグラグラと揺れた。
「うわわわ! やばいー!?」
「ルウ君……!」
(ア、アリスが俺の腕に! む、胸が……!)
「今のなんだよ!?」
レウスが周囲を見回すが、当然黒点に阻まれて何も見ることはできない。
「赤竜の尾が地面でも叩いたんじゃねぇか」
イザベラは自分たちが赤竜如きに害されないとわかっていた。それはこれまで倒してきたから、ではない。
黒点で視界が見えない中でも、ルシウスが無闇に進んでいるわけではないと確信していたし、仮に赤竜の攻撃があったとして、ルシウスが防げないはずもない。そこにはルシウスの力への絶対の信頼があった。
そしてそのまましばらく歩くとルシウスが歩みを止めた。
「ルウー? どうしたのー?」
レーナがルシウスをのぞき込む。
「悪い……
「え? どうしたの?」
「気づかれてる……あれは……」
ルシウスが感知した魔力は----
「くそ! 弾かれる……!」
次の瞬間--七人を包み込む黒点が消失した。
「なんで消えたのー!?」
「どうしたんだよ? なんで解除したん……だ……よ……」
レウスが黒点を解除した理由を問おうとして、前方の存在に気づいた。
視界の開けた先は赤竜がいた大広間の優に五倍はある巨大な空洞が広がっている。
そしてその中央には、黒炎を纏った絶望が浮いていた。
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