嫁
「よっしゃあ! 楽勝だったな!」
レウスが自身の剣を掲げる。
「楽勝じゃないわよ。あの赤竜にもっと知能があったら通じてないわよ」
「わ、わかってるよ。ちょっとくらい喜んだっていいだろ?」
「ボ、ボクしばらく動けないかも……」
レーナが魔力切れで動けず、足を投げ出している。
「格上相手だったけど、チームワークでうまく合わせられてたな」
ルシウスが手を叩いて皆を賞賛する。それに照れるように隊員が笑みを見せる。
「ルウ君、撫でてほしいな?」
(またこんな状況で!? 嬉しいんだけどこれなんて罰ゲームなんだ……)
ルシウスは嬉しさと恥ずかしさが混同した不思議な感情に満たされていたが、過去にも経験しているため、覚悟を決めてアリスの頭を撫でる。
「えへへへ」
アリスの顔がにやけ、上目遣いにルシウスを見やる。
(うぉぉおお! なんだこの天使はー!)
レーナがにやけながら「アリスちんって結構大胆だよねー」と呟く。
「くそぉ! いちゃいちゃしやがってぇ!」
レウスは血の涙を流して二人へと視線を向けている。そしてエリーが何か言いたそうにしているが、踏み出せずに口を空けては閉じてを繰り返す。
「ルシウス!」
イザベラが叫ぶようにルシウスを呼び、アリスの頭に手を置いた姿勢のままルシウスが振り返る。
「ど、どうした?」
気恥ずかしい状況のまま、赤い顔をしたルシウスがアリスの頭から手を離し、その手をアリスが名残惜しそうに見つめる。
「ル、ルシウスは……嫁は何人つくるんだ!?」
「……はい!?」
「ちょ、ちょっと! 何言ってるのよイズ!?」
イザベラのぶっ込みにエリーまでもが混乱して乱入し、それをレウスが唇を血が出る程噛みしめて、これ以上は取り返しのつかないダメージを負ってしまうと目を逸らした。
「大事なことなんだよ! ルシウス! 答えてくれ!」
「いや……そんなの考えたことないけど……」
「貴族なんだろ!? それなら一人なんてことはねぇよな!?」
「えぇ……」
「確かに! 貴族は基本的に複数作るわね!」
最初はイザベラの暴走に、目を見開いて驚愕していたエリーだったが、イザベラの言に光を見出したのか、いつの間にか参戦していた。
「ま……まぁ一人だけと決めてるわけじゃあないけど……」
「よし! なら複数だな! ちゃんと席を空けとけよ!」
「アリス以外はちゃんと私たちに確認するのよ!」
そして突然のアリスとルシウスの仲は決まっているとばかりのエリーの言葉に、アリスの顔が真っ赤に染まり、ポフっと蒸気をあげていた。
「エ、エ、エリー?」
「アリスはいいのよ。二人ともバレバレだし」
「あたしもだ。アリスに文句はねぇ」
「ええーっと……? もうなんでもいいよ……」
状況がよく分からなくなったルシウスは、考えることをやめた。そしてエリーとイザベラが我が意を得たり、と小さくガッツポーズをとっている。
「人生ってなんでこんなに不公平なんだろうなぁ」
レウスが諦めの感情の上に悟りを開いたように黄昏ている。惜しむらくは、ここには見上げる空が無いということだろうか。
「ボクもルウの妾に立候補しようかなぁ。白雷隊隊長であの実力、実家も男爵だし、顔も悪くないし、ルウって良物件だよねー」
「あら、レーナもそういうことに興味あったんですね」
「まぁ一応乙女だからねー。まぁどっちかといえばルウならうちの実家も文句言わないだろーなーって」
「あぁ……それはそうかもしれませんね」
ルシウスについて女性陣が熱くなりすぎた頃、通路から声がかけられた。
「えーっと……お楽しみ中悪いんだけど、そろそろいいかな?」
通路から白銀が顔を出し、気まずいものを見てしまったという顔で問いかける。
「あ……うん……先にいくよ……」
この恥ずかしい状況を、白雷隊の隊員だけでなく、勇者連中にも見られていたことを思い出したルシウスは、遠くを見つめながら階下への階段へと向かっていく。
「あ、ルウ!」
隊員達もルウに続いて階段を下っていき、大広間が空っぽになる。そして、階下への階段が閉じると再び赤竜が大広間の中央に現れた。
「なぁ真也。あいつらが王国の要なんだろ? どうすんだよ?」
寝ていたはずの梔が、座ったまま白銀に声をかける。
「そうだね。ただ、あのルシウスはまだ底が見えない。今はまだ時期尚早……だろうね」
この世界の理の外、レベル上げで異常な早さで強くなっていく勇者をして、未だにルシウスの力の底は見えていない。お手上げと言った様子で手を挙げていた。
「まぁそれに異論はねーがな。そろそろあの王様も無茶言ってくるんじゃねーか?」
元々武道の道を歩んでいた梔から見てもそれは同じだった。技こそ大したことがないが、あれだけの速度と力を前に技など、どれほどの意味もないことを理解していた。
「まぁ大丈夫じゃないかな。あれも馬鹿じゃない。勝てないことが分かっていて、戦力を捨てるようなことはしないと思うよ」
「そうね。どう考えても
「私の鑑定も
「藤堂の鑑定が? そんなことあんのかよ?」
「分からない。見れなかったのはこれが初めてだから」
「私は王国との戦争はやっぱり嫌ですね……」
根っからの平和主義者である三枝は元々戦うということ自体に乗り気ではない。
元の世界に帰りたい一心でなんとかやってきているが、その気持ちもこの世界に長くいることで、人を殺してまで戻りたいという気持ちが薄れてきていることを感じていた。
「一旦忘れて、とにかく今は俺たちの強化を優先しよう」
五人が赤竜のいる大広間へと歩き出す。
「それは同意だ。こんな分かりやすく強くなれる環境はこっちの世界だけだからな」
「いくぞ」
これまで越えたものがいない赤竜の間は、この日二度も連続で主のいない空間となった
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