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 足をプラプラ、縞々のしっぽをゆらゆら揺らめかせながら、子供版小虎は嬉しそうにフォークを握りしめていた。


 あれ以来一度も姿を変えなかったのに――、小虎ってばよほどイチジクのタルトが食べたかったのかしら?


 小虎は今、騒ぎを聞きつけたお母様のお膝の上にいる。


 子供の姿になった小虎を見た瞬間、お母様が小虎を抱きしめて離さなかったから、わたしたちはメインダイニングに移動した。


 テーブルの上にイチジクのタルトと紅茶が並ぶ。


 お母様はさっきから小虎の髪や頬にすりすりと頬ずりをしていた。


「かわいいわぁ、かわいいわぁ! このしっぽはどうなっているのかしら? セルマ、紅茶よりオレンジジュースの方が好きかもしれないから用意してあげて」


 ……お母様、でれっでれね。


 小虎はどれだけお母様が頬ずりしようと、気にしたそぶりもなくタルトにフォークを刺している。


「聖獣って人の姿になれるんですね」


 フィリップ王子たちはまだショックから立ち直れないみたい。


 そうよね、大きくなることも、もちろん驚くけれど、動物が人になったらもっとびっくりよね。


 小虎って今までご飯と言えばお肉ばっかり食べていたんだけど、どうやら甘いものも好きみたい。新しい発見だわ。口いっぱいにタルトを頬張る小虎がかわいいったら!


 小虎はお母様の分のタルトももらってご満悦。


 自分とお母様の分のタルトを食べ終えて、満足した小虎が、お腹がいっぱいになったから眠たくなったのか目をこすりはじめたときに、執事のマーカスがキャロラインが来たと伝えに来た。


 キャロラインはお母様の膝に座っている小虎を見つけて目を丸くした後で、ぱあっと顔を輝かせて――、あとは言わずもがな。お母様と二人して、小虎にでれっでれになっていた。






 午後になってメイナードたちがやってきた。


 バーランド様とオルフェウスお兄様はメイナードと一緒の馬車で来て、ダニーさんがそれに少し遅れて到着する。


 フィリップ王子とマディアスさんにはお城で何があったのかを説明しているけれど、メイナードからダリウス王子の帰還の延期などいくつかの補足情報があった。


 そして――


「千年前のリアースの祟りだが、それは闇の力を封印したというルビーの影響から起こったことらしい」


 メイナードが教皇ユーグラシル様から聞き出したことを説明した。


 リアース教は光の聖女と闇の神子という二人の始祖から起こったということ。


 闇の神子の力が暴走して、光の聖女が命をかけてその力をルビーに封印したこと。


 そのルビーをおさめた箱の封印――光の聖女の棺からルビーが持ち出されて、それによりリアースの祟りと呼ばれる疫病が大陸を襲ったということ。


 千年前のリアースの祟りは、再度ルビーの封印がなされたことで収まったということ。


「千年前グーデルベルグの地で処刑された聖女の棺から、何者かによってふたたびルビーが持ち出されたのではないか、というのが教皇ユーグラシルの見解だ」


 メイナードが言えば、フィリップ王子は眉を下げた。


「……千年前に処刑された聖女の墓がどこにあるのか、王族はもとより、グーデルベルグにいるものは誰も知らないと思います。千年も前のことですし、処刑された人間がきちんと埋葬されたかも定かではありません」


「でも、棺って言うくらいだから、埋葬はされたはずですよねぇ」


 マディアスさんが口を挟むと、フィリップ王子は頷いた。


「調べるのには骨が折れそうだが、まずは聖女の棺のありかからたどって行くしかなさそうだ」


 棺をあけるなんてゾッとするけれど、まずはその中にルビーがあるのか、ないのならばその棺のあたりに近づいた人間がいるのかどうか――、地道に情報を折って行くしか手がないみたい。


「ルビーが発見したあとはどうするんだ?」


 オルフェウスお兄様が訊ねると、メイナードは一瞬言葉に詰まってから、小さく頷いた。


「再び封印する。……サーニャの棺に」

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