第92話 身も心も浄化される庭園

「そういえば名乗るのを忘れておりましたね。

八千草家でお手伝いをしています

流川義健るかわよしたけ

と申します。」


「どうも」


初めて生で見るお手伝いさん。

学校にも事務の坂本さんはいるが、

どうも俺と同じように

保健室とかでサボっている・・・

いやいや、休んでいるイメージなんだよな。


お手伝いの流川さんだったか。

この人かなりのやり手だ。

通り道に落ち葉はおろか、砂利一つ落ちてない。

完全にプロの手が行き届いた庭園。

やはりさっき聞こえてきた水の流れる音は水琴窟だったか。

門をくぐってから明らかに空気のよどみが変わった。

身も心も浄化されていくようだ。



「どうされましたか?」


「あ、いや、その立派な庭園だなと思って」


「ありがとうございます!」


「何だか別の国に来たみたいです。」


「・・・・」


やばい、俺、何か変なこと言ったか!!

別の国っていうのはいい意味での表現で・・・


「はっはっはっはっ」



あれ?

笑ってる??



「それは、美悠お嬢様がお喜びになられるでしょうね。」


「美悠お嬢様が?」

どういうことだーー??



「美悠が何ですって?」


「これは、美悠お嬢様!!」


庭園の中から突然出てきた

八千草美悠。


「タロちゃん、いらっしゃい♪」


「先日はお世話になりました」


「いいのよ。今日は私に話があるって?」


「あ、はい」


「タロちゃんと咲苗ちゃんからどんな話があるのか楽しみだわ。」


「あはは」

楽しみって話違くないかーー。

下手したら嫌な顔されるかもしれない話だっていうのに。



「美悠お嬢様!!突然出てこられては

この流川、驚いて、驚いてぶっ倒れてしまいます!!」


「あら、そう?

私が知っている流川さんはどんな事態にも動じない

クールで凜々しいジェントルマンですけど。」


八千草美悠の一言に

おじさま、いやいや、流川さんの背筋がピンとした。

八千草美悠は続けて


「そういえば、先ほど私の名を呼びませんでした?」


「はい、こちらの青年が先ほどこの庭園を観て感銘を

受けておりましたので美悠お嬢様が聞いたらお喜びになると申しました。」


「あら、そういうことだったのね。」


太郎は首を大きく縦に振って頷く。

すると流川は


「この庭園の作りは全て

美悠お嬢様が考えられたものです。」


「え?そうなんですか?!

美悠お嬢様が一人で!?」


「ちょっと、タロちゃん、お嬢様はやめてー」


「何をおっしゃいます美悠お嬢様!!

日々の手入れは私、流川が整えておりますが、

休日などは一緒に美悠お嬢様が手入れを進んでやってくださいます。」


「そうなんですね。」


美名城先輩の時もそうだったが、

三大美女と呼ばれる人たちはみんな

容姿だけじゃなく、心もきれいってことか。

この立派な庭園を一人で・・・

そういえば黄組のパフォーマンスもお姉さんが・・・

本当にすごい人なんだ!!

俺みたいな平民ごときとは何もかも大違いだな。



「良かった!!」



「え?」



八千草美悠は笑顔で太郎を見つめて

「私が大好きなこの庭園のこと

タロちゃんが気に入ってくれて♪」



こ、こ、これは

早々に八千草マジックにやられそうだー!!!


太郎は、八千草マジックによって

庭園から既に理性を失いそうになりながら

八千草邸の中へと招かれていった。




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