第67話 境地で走るアンカーたち

速人


俺は常にフォームにこだわってきた。

世界陸上を見れば分かる。

どの国の短距離選手も、みんな同じフォームで走っている。

陸上の基本は走る姿勢、つまりフォームにあり、

フォームができてない内にいくら筋力を身につけても意味がない。

走り方が美しい者こそ、脚が速くなる。

ビューティフルラン!略して

ビューランを部員に徹底させてきた。

ただ、今はもうそんなことを気にしている余裕はない。

フォームがかっこ悪くたっていい、

かっこ悪くたっていいから一位で駆け抜けたい。

俺は黄組の代表でありながら、

陸上部員の鏡なんだ。陸上部の誇りを守るため、

一年のサッカー部、ましては帰宅部なんかに負けるなんてことが許されるか。





高坂先輩は俺にとって高嶺の花だった。

同性からも異性からも人気があり

俺にも同じダンスチームで優しく

最後残ってまでダンス練習に付き合ってくれた。

そんな高坂先輩は

「私のタイプ?

そうね~、例えば運動神経がいい人とかかな。

何かに突出している人ってかっこよく見えるものよ♪」

俺はそれを聞いた時から、

必ずこの体育祭で一年というハンデを返せるよう、

目立って高坂先輩から一目置いてもらえるよう、

サッカー部の厳しい夏合宿にも耐えてきた。

サッカーの試合も大切だが、

それはそれ、今は今だ。

一位をとって、駿という男に勝って

高坂先輩に認められてやる!!!

突出しているのはこの俺だー!!




駿


俺なんかが青組のみんなのバトンを受け継いで

アンカーを走る。そんな資格があるのか。

二人からは伝わってくる負けられないという強い想い。

俺は

仲間がつないでくれたこのバトンを

次につなぐわけでもなく、ただひたすらに全力で走る・・・だけ。

こだわりもない。だるさもない。疲れもない。何もない。

勝てるのだろうか?この二人に・・・


あ、タロちゃん・・・



駿は思い出していた。

100mでダントツ最下位でも

自分のことより、真っ先に

僕におめでとうと声をかけてくれた。

100m前もそうだ。

自分が走ることはまったく口にすることなく、

むしろ僕なんかの背中を押してくれていた。

タロちゃんは、いつだって、他人のために行動していた。



僕もタロちゃんみたいにできるだろうか?

仲間のために・・・走る!

一番速く、みんなの元に行きたい。




ゴール間近

残り50mを切ったとき、

三人に異変が起こる。





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