第56話 波乱の幕開け

このとき、太郎を案じていたのは

孝也と駿だけでなく、八千草と菊池もまた

心臓バクバク状態で見守っていた。



すると太郎は、高坂の前に立つ

つい先ほど高坂に孝也の言う戦略的告白をした

男を始めて認識する。


「あれ、なんか目の前にいますけど?」

と指さし、高坂に尋ねた。


周囲もその一言に

「えーーーー!今更??」

とのけ反り気味に驚く。


高坂は

「そうだね。

彼は今、私に告白したの!」



「え?なんの??」


再び周囲はのけ反る。


「それは・・・」

高坂が答えるのに間が少し空くと


告白した男子生徒が

「俺は高坂先輩を特別な人として

尊敬し、心から惚れている。

だから付き合ってくれと告白している。」


はっきりと聡明なまでの答えを

言ってのけたその男子生徒に

周囲の見る目は少しだけ、ほんの少しだけ優しくなっていた。


それを聞いた太郎は


「それはそれは・・・

で、どうするんですか?」


誰も聞けない質問を高坂に投げかけた。


周囲はこう思った。


あいつこそ何奴!?



「それは・・・」


太郎の率直すぎる質問に

高坂の回答に


誰もが耳を傾けるその時だった。


「ちょっと、そこの君。

いったい何様のつもり?」


誰の声かと思えば

青組リーダー

美名城夏帆だった。



周囲はざわつくことすら忘れるくらいに

静かに様子を見守っていた。



あの美名城先輩まで出てきたぞ。

一体どうなるんだ。



高坂は

「美名城先輩、すみません。」

と進行を止めてしまったことに対して謝ると


「あかねちゃん、あなたは何も悪くないわ。

そもそもここでは誰も悪くない。

だけど、そこの告白した君。」


「は、はい!」


「これからって時に私情を持ち込んで

体育のお祭りを中断させるだなんて

何様のつもりなの。

MVPとったらじゃなくて、

そういうことはMVP獲ってからにしなさい。」


「す、すみません」


出直して来いと言わんばかりの

ストレートな美名城の言葉に

生徒たちからは大きな拍手が起きた。


高坂は美名城に深く頭を下げると、

美名城も深々と頭を下げた。


「あかねちゃん、気を取り直して、放送の方もよろしくね!

ちなみに優勝するのは青組よ♪」


この一言で

「おーーーーー!!!!」と

それぞれの組の生徒は大声をあげ、

存在感を示し合った。



美名城は太郎に近づき

「タロちゃん、あなたって子はほんとに。

こっちが冷や汗ものよ。

いい、そこで大人しくしててね♪」



「別に俺は

美名城先輩の息子でも何でもないんですけど・・・」



「同じようなものよ。大人しくしててよ。」



「は~い」



仲よさそうに話す二人を見ていた高坂に

美名城は

「あかねちゃん、

ここにいるタロちゃん、実はいい子だから

ちょっとだけここで面倒見てあげて、お願いね。」


「は、はい」


と太郎のことをあかねに託した。



こうして波乱の幕開けとなった体育祭は

暑い熱い展開を繰り広げていくこととなる。


そんな展開をまったくもって

予想だにしていない太郎は

肘をついたまま

大人しく座っているのかと思いきや、

物音ひとつ立てることなく

ひっそりと目をつむっていた。

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