第44話 注文を取りきるまでの無言の攻防戦

まずは笑顔でお水を配り、

お腹がすいている、

または喉が渇いているせいでたっている気を静めにかかる。


「まずはお水でも飲んでから」と言わんばかりに。


そして次はお水を持ってきたトレーを

脇に挟んで持ち、

トレーの裏側がみんなに見えるようにすることだ。

なぜトレーの裏側が見えるようにするのかって?

それは、トレーの裏側に注文表を貼り付けてあるからなんだ。



ここまで注文をとらなかったのは、

この仕掛けにみんなが気付くかな?

とみんなを楽しませるためにあえて注文とらなかった。

店長の粋な計らいだったと偽りの事実を作り上げるためだ。


正直、

自分のミスをさっきまで弟同然と言っていた

俺に尻拭いさせるような兄貴同然の店長の株を

あげることには心底気が進まないが、致し方ない。

俺は穏やかにみんなとご飯を食べたいだけなんだ。



「あれ、それって!」


菊池が気付いた。


「おお、よく気付いたね」


「あ、うん!」


「これがここのメニュー表なんだ。

普段は、普通にメニュー表として置いてあるみたいなんだけど、

今回は店長がみんなに楽しんでもらうためにって

トレーの裏につけてたんだ。菊池さんが気付いてよかった。」


「ほんと変わった店長、

あ、いや美名城先輩のお兄さん。」


よくぞ気がついてくれた菊池さん。

そして変わった店長だと信じてくれた。

いや、確かに変わった人だけど。



それとなく太郎は美名城の顔を見た。



美名城は太郎を細めた鋭い目つきで直視していた。



見抜かれている!!

さすが兄弟だ!!!


美名城の鋭い視線を受けつつも

みんなの注文を聞き取ることに成功した太郎・・・


だったが、ホッと一安心できたのも束の間、

最後に注文を聞いた美名城の無言の攻防戦を繰り広げていた。



「美名城先輩は何にしますか?」


「私は店長の『気まぐれランチ』でお願い」


「え?あ、はい、気まぐれランチですね」


このやりとりの間には(心の中でのやりとり↓)


「どうして、お兄ちゃんじゃなくてタロちゃんが注文とってるの?」


「いや、それは店長は今、調理していて忙しいというか、

これ自体が店長のサプライズというか・・・」


「ただ、お兄ちゃんが注文を聞き忘れたかと思ってたわ」


「いや~、それはないんじゃないですかね~」


「・・・気まぐれランチ・・・期待してると伝えといて」


「承知しました」




なぜか俺の首の裏筋が湿っていた。



俺は無実なのに!!


太郎は注文の結果を店長に伝えた。

そして

「おい、大丈夫か。顔色優れないぞ。」


太郎の笑顔はひきつっていた。


「それがですね」


美名城の注文と、それまでの攻防の旨も店長に伝えると

「なるほど、ミスは許されないってわけだ。

まぁ、任せとけ!!」


店長の任せとけを聞いて太郎は

店長の気まぐれランチってどんなだよ。

そんなメニューほど信用ならんものはないのに、

任せとけって言われても!!


太郎にとってこんなにドキドキさせる

メニューは過去に一度もないのだった。

ある意味で!


時は過ぎ、十五分後


ようやく海満カフェの店長が腕を振るった料理たちと

気まぐれで創作したランチ

その名も気まぐれランチが出来上がった。


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