第32話  興味本位と詮索の境目

この声は・・・


孝也の聴覚センサーが反応した。


「ダンスの件だが、流れはこれでいいんじゃないか。

ただこれは夏帆が考えたものなんだよね?」


「・・・どうかしら」



夏帆?!

菊池、八千草、駿の三人が美名城先輩が

声の正体の一人であることに驚く中、

孝也だけが聴覚センサーで真っ先に

話し声の一人が

美名城夏帆であることを先に気付いていた。


もう一人は一体誰なんだ。

美名城先輩を夏帆呼ばわりし、

タメ語で渡り合える相手・・・



孝也はもう一人の男のことを考えていた。


そして謎の男が話し始める。


「そうか、それならいい。

つい夏帆の考えにしては

かなり攻めた内容な気がしてな。」


「何よ、それ。

私のことを分かったようなこと言わないで。」


「はは、すまない。

この調子で本番も頼むぞ。」


「言われなくてもそのつもり。

あなたたちの力を借りなくても

やれるってところを見せてあげるわ。」


「ああ、楽しみにしているよ」


謎の男の声の正体はその場を後にした。


謎の声の男が去っていき、

美名城夏帆は図書室の窓から景色を眺めていた。


隠れていた四人は

美名城先輩の後ろ姿に

なかなか出ていくことができない。


すると駿が

こっそり裏口から図書室を出ていこうという

サインを送った。


八千草、菊池はそのサインに頷いて

駿は隣に隠れていた孝也の方を振り返ると

そこに孝也の姿はなかった。



あれ?孝也は??



そう思った瞬間、

孝也は美名城夏帆に話しかけていた。



「美名城先輩、すみません、

今の話盗み聞きしてました」



「あら、いたのね」



わお、盗み聞きしてたこと言っちゃったー!!

しぶしぶ駿ら三人も顔を出し

美名城先輩に盗み聞きの件を謝罪した。


「ふふ、

盗み聞きしていたことは

いいことではないけれど、

あなたたちは素直でいいわね」


美名城の笑顔に四人は救われた。



「それで、

なんで盗み聞きなんてしていたの?

四人も揃って。」


「それは、青組 真のリーダーに会うためです」


菊池が本当の理由を答えた。

これ以上の嘘は・・・


「真のリーダー?」


「はい、噂ですが、

青組には美名城先輩方以外に

全体を取り締まるリーダーがいて、その人は・・・」


「その人は?」


「月嶌葵 先輩の元カレですよね?」


「え?」

三人は突然の菊池の発言に驚きを隠せなかった。


すかさず駿が

「菊池さん?今その話はしなくても!」

と言うと


美名城は菊池の発言に笑って言った。


「葵が元カレ?!

よく知ってるわね」


「え?」


四人の開いた口は数秒間ふさがらなかった。



驚いていた。

四人はただただ驚いていた。

なぜなら、

あくまで噂によるもので、

噂の話に過ぎないのだと思っていたからだった。


菊池は

「噂は本当だったですね。

元カレっていうことは今は

もう特別な関係ではないんですか?」


「さあ、どうでしょう。

もうこれ以上はあなたたちに

言う必要はないから、ごめんね。」


美名城の言葉に駿もこれ以上の詮索は

本意でないと感じていた。


すると黙っていた孝也が

「いや、俺は知りたいです。

さっき話していた人が

月嶌葵ですよね?そして今は本当に特別な関係ではないんですか?」


その問いに

美名城は一言


「どうやらタロちゃんとあなたたちは違うようね」


と言って図書室を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る