第29話 見覚えある一瞬の人影

「ちょっと

二人ともどうしちゃったのよ!?

確かに色鮮やかできれいだけど・・・」


菊池が突然言葉を詰まらせる。


後ろから

菊池が言葉を詰まらせるところを見ている孝也。

顎を下げて腕組をしているため、

あたかも海上絵の意味を

駿よりも前に気付いていたかのようにも見えるが、

実のところは菊池と同じく、

「何だそりゃ」

という心境だった。


同意見だった菊池が言葉を詰まらせることは、

孝也自身不安になっていた。


頼むよ・・・

どうしたんだ菊池さん・・・

見たまんまを言葉にするんだ・・・



「色鮮やかだけど・・・

みんな何をやろうとしているの・・・

網掛け・・漁??」



菊池だけではない。

駿、八千草、そして孝也と

ここにいる全員、

先が読めない展開に目が釘付けになっていた。


カヌーから

何かを海に投げて海水になびかせている。

それは一見

菊池が言葉にした網掛け漁のようにも思える。

しかし、小型船ならまだしも

カヌーで海辺の漁は聞いたことがない。

無論見たこともである。


海に何かをなびかせていることに、

駿と八千草だけでなく

菊池と孝也も海上絵の可能性を疑い出していた。



「ありうる、

海上絵ありうるかもしれない!」


菊池はそう心の中で思いながら

空を見上げると、上の崖辺りに誰かの人影が見えた。


一瞬だったため、

誰かまでは分かっていない。


だが菊池は

誰かが崖から様子を見ていた・・・

ってことはやっぱり

上から見たときの光景によって

何かメッセージを送っている可能性もある。



崖の上に人影が見えた菊池は

海上絵という聞いたことも見たこともない、

いわば正体不明の活動に対して

疑いから確信へと変わりつつある中にいた。


あのとき、

一瞬だけ見えた人影・・・

そう、どこかで見覚えがあるような

人影のことが気になっていた。


「なんだろう、この感覚。

以前にも見たことがあるような気が・・・」


ただの人影だというのに、

どうしてここまで私は気になってしまうの。

普通じゃない。海上絵・・・

そんなことありえるの?

タロちゃん、あなたはどこにいるの?



そんな戸惑いは束の間、

カヌーに乗って

何か網のようなものをなびかせていた男たちは

いきなり白シャツを脱いで、海の中へと勢いよく飛び込んだ。


菊池ら四人は完全に呆気にとられていた。


そして呆気にとられている合間に

海でのショーは終わった。


さっきまでいたカヌー乗りたちも

ショーを終えるとともにその場を去った。

去ったというよりは

駆け抜けていったという表現の方が正しいかもしれない。


四人は回想していた。

おじさんや年上の人たち

に混ざって活動をともにしていた

彼らは、

彼女たちは、

まぎれもなく同じ青組のメンバー!


しかもダンスグループである。

一体ここで何をやっていたというのか。


あれが体育祭に何か関係あるというのか。

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