2-8 世界に慣れて
それからというものの、順調に学校生活をスタートした。
記憶は取り戻したけれど、まだところどころに違和感が残っていた。
例えば、この前の体育の授業がそうだった。
いつも通り、教室で服を着替えようとしたら、
「愁君、どこで脱いでるんだ!」
凛君が慌てていた。藤澤君も、すぐに服着ろよと言う。
「愁君、大丈夫?更衣室、ちゃんとあるから!」
優君が心配そうに、更衣室を案内してくれた。
その更衣室は、一人一人が着替えることができる試着室のようになっていた。
更衣室を見た時に、
そっか、、、ここで着がえるんだよね、、
と納得した。
時間が経つにつれて、男性同士の恋人姿にも、違和感を覚えなくなった。ここには、男性しかいなくて、それは、当たり前のことなのに、どうして違和感があったのか、今となっては不思議だ。
たぶん、記憶を無くしたから一時的な混乱状態だったと最近では思うことにした。
こうして、僕は、記憶を取り戻すことで世界に慣れていけた。
いつものように部活の休憩中、校庭を眺めていると、凛君が話かけてくる。
「俺、恭と別れたんだ、、、、、」
横で言う凛君の姿を見て、なぜだか遠い昔の見知らぬ人の姿を思い出した。その姿を思い出しながら、凜君に藤澤君のことが好きだと言われ、恋人になったことを聞いたのを思い出す。
「そっかぁ、、辛いね。、、」
そんな言葉を口にしながら、どこかで喜んでいる自分がいることに、腹が立つ。
「まぁ、今回は、俺が押し切って半ば無理矢理付き合った感じだったし。結局、あいつは、俺のことを好きじゃなかったんだ、、、」
残念そうに言う。
それを聞いて凛君と藤澤君のデート姿を思い出した。
藤澤君はいつも通りで、けだるそうだった顔が浮かぶ。
「そっかぁ、、」
「だから、こっちから、振ってやったぜ!」
誇らしげに言ったが、どこか寂しそうだ。
「凛君なら、またすぐにいい人が見つかるよ!」
「ならいいけどなー」
夏らしい風が吹く。その風は、夏の匂いを乗せていた。
休憩時間が終わる。練習中、凛君の話を考えていた。恋愛が、うまくいかなかった凛君に同情しつつも、藤澤君と付き合うことができるチャンスを得たことに嬉しさを覚えた。
僕は、最低だ、、、、
部活が終わり、響君と帰る。
「もうすぐ夏休みだね。」
「そうだね。定期演奏会、頑張らないとー」
「記憶は、もう大丈夫?」
「たまに違和感があるけど、もう大丈夫だと思うよ!」
「それならよかった!」
僕は、凛君の話を切り出した。
「凛君、別れたんだって、、」
「そっかぁ、、、これで、藤澤君は、また、一人になったんだ、、、
チャンスだね、、、、」
遠くを見ながら響君が言った。
「えっ、、」
僕は驚いた。
その時、ちょうど事故現場の交差点に着いた。
響君が、手を握る。僕は、その手に引かれながら一緒に横断歩道を渡る。
その手は、いつもより強く握られていた。
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