2-2 記憶喪失

しばらくして、お父さんと若い男性は出ていった。

中年男性が穏やかな顔で尋ねる。

「リンゴ食べる?」

「はい、、」

慣れた手つきでリンゴをむいてくれる。そのリンゴは、甘くて、おいしかった。リンゴを食べ終えた頃、お父さんと若い男性は、先生を連れて戻ってきた。先生が、僕にいくつか問診をする。問診を終えると、先生は二人と出て行った。


「僕、おかしいのかなぁ、、」

「そんなことない。愁ちゃんは、おかしくなんかないよ。」

僕を優しく抱きしめてくれる。その人の身体は、震えていた。

「ありがとうございます、、、」

僕は、力なく呟いた。


二人が病室に戻ってきた。若い男性だけを病室に残し、中年男性とお父さんは、出て行った。

若い男性は、笑顔で話かける。

「すぐ退院できるって!よかったな!」

「はい、、」

その男性の表情が一瞬暗くなったような気がする。

「俺に気を使わなくていいからな!」

「はい、、」

僕は、「はい」としか答えられなかった。

知らない人だけど、どこか知っていて、不思議な感覚に陥っていた。

「退院したら、美味しいものでも食いに行こう!何か食いたいものはあるか?」

「ん、、、オムライス。」

「そっか、、愁、オムライス好きだもんな。」

僕の頭を撫でてくれる。その目には、涙が光っていた。


二人が部屋に戻ってくると、中年男性の目は真っ赤だった。

「どうしたんですか?」

「ううん、何でもない。愁ちゃんが退院できるって聞いて、嬉しくなって、ついね、、」

優しく微笑んでくれた。


知らない人なのに僕を思う気持ちが伝わる。



それは、とても優しくて、愛に満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る