第百五十三話 禁忌を破った王子

そう言ったソニックは、とても深刻しんこくな顔をしていた。


なに、なんなの?


ビクニが生まれつきのハーフヴァンパイアじゃなくて人間だったことがそんなに問題もんだいなの?


小首こくびかしげげているぼくの目の前では、ヴァイブレが驚愕きょうがく表情ひょうじょうをしていた。


「人間……ですと……ッ!? ソニック王子ッ!?  まさか人間だとわかっていながらちぎりをむすんだのですかッ!?」


そして、今までのおだやかな彼とは思えないほど声をあらげてソニックに言葉をぶつけた。


ぼくがヴァイブレのそば疑問ぎもんじった鳴き声を出すと、彼はわれに返ったのかもとやさしい顔にもどる。


「……失礼しつれい、少し取りみだしました。ですが、ソニック王子……。それは吸血鬼族きゅうけつきぞく禁忌きんきやぶることですぞ」


普段ふだんのヴァイブレに戻ったのはいいけど、なんだかソニックをめているのは変わらない。


やっぱりビクニが人間だったということが問題だったみたい。


そんなのどうでもいいことじゃないか。


人間だろうが人だろうが幻獣げんじゅうだろうが、ぼくらは仲良なかよしなんだ。


それなのに、どうしてビクニが人間だったくらいでそんな顔をするんだよ。


「ああ……わかっている……」


ソニックはそんなヴァイブレにたいして、とてももうわけなさそうな顔を向けていた。


ぼくはそんな二人に向かってわめいた。


それを見たヴァイブレは、「ぼくにもちゃんと説明せつめいしてほしい」と鳴いている思ったのか、しずかに話を始める。


吸血鬼族にとって人間はただの食料しょくりょうであり、ともすれば天敵てんてき


基本的きほんてきには、けして仲良くできない種族同士しゅぞくどうしなんだそうだ。


それもあって人間は吸血鬼族をおそれ、警戒けいかいし、ときにはほろぼそうとした。


そして二つの種族には、けして消えない遺恨いこんのこり続けているみたい。


そういえば、ライト王国にいた暴力ぼうりょくメイドの……ラヴィだっけ?


ビクニに聞いた話だと、彼女はソニックと初めて会ったときに、有無うむを言わさず殺そうとしたらしいけど。


もしビクニが人間のままヴァイブレに会っていたら、彼もラヴィと同じことをしたのかな?


「それまで……まったくなかったというわけではありませんが……。王族おうぞくが人間と契り合ったのは初めてのことです……」


長い年月ねんげつの中、興味本位きょうみほんいで人間と子どもを作ったり、血をって奴隷どれいにした吸血鬼もいたみたいだけど。


ソニックみたいな地位ちいの高い吸血鬼が、人間をヴァンパイアに変えたことはなかったみたい。


ヴァイブレはさらに言葉を続けた。


それでもまだ奴隷どれい――いや、自分の手駒てごまとして人間を――ビクニと契り合ったのなら理解りかいできる。


だけど、ソニックはビクニを吸血してもその意思いしうばわず、完全に同等どうとうの契りをかわわしていると、自分の顔を手でおおいながらうめいていた。


「なぜです……なぜなのですソニック王子……。たかが人間の小娘こむすめごときに……」


ヴァイブレはビクニのことを見てから、ずっと婚約者こんやくしゃと言ってよろこんでいたのに。


今はまるで別人べつじんにでもなってしまったみたいな言い方だ。


ねむっているビクニのことを見て、うとましそうな視線しせんを送っている。


そんな……ひどいよぉ。


ビクニが元は人間だったってだけで、そんなに態度たいどが変わるなんて……。


いくらなんでもあんまりだ。


ぼくがそんなヴァイブレに鳴きわめくと、ソニックは手をそっと出して止めてきた。


ヴァイブレをめないでやってくれ――。


ぼくには無言むごんのまま手を出してきたソニックが、そう言っているように感じた。


そして彼は、それからゆっくりとヴァイブにいう。


「こいつは……ビクニはちがったんだ……」


ソニックはポツリとそう言うと、ヴァイブレの目を見つめながら静かに話を始めた。

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