イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第百二十八話 灰色の街

城壁（じょうへき）の中は、この街で暮らす人たちの住居（じゅうきょ）らしき建物（たてもの）が並（なら）んでいた。

街には誰も歩いていなくて、城壁の外と同じように地面（じめん）はすべて石畳（いしだたみ）。

何もない灰色（はいいろ）の街――。

ビクニがこの街を見たとき言っていた例（たと）えを使わせてもらうなら、まさしく監獄（かんごく）みたいな風景（ふうけい）。

ソニックが驚（おどろ）いている理由（りゆう）は、そんな住居や街の様子（ようす）を見たからだった。

うん?

住居があるなんて当たり前だって?

灰色に見える風景くらいで、そんなに驚くことないじゃないかって?

いやいや違（ちが）うんだよ。

その住居がおかしいんだ。

真四角（ましかく）な灰色の住居がびっしりと街の中を埋（う）め尽（つ）くしている光景（こうけい）は、幻獣（げんじゅう）のぼくにだって変に見えるよ。

「なあググ。あれ……?」

ソニックがぼくに下を見るように言うと、そこには真っ黒い格好（かっこう）をした女の子が、こっちを見ながら両手（りょうて）をブンブン振（ふ）っていた。

――というか、ビクニが大声を出しながら手を振っていた。

それを見たソニックは表情（ひょうじょう）を強張（こわば）らせて、急（いそ）いで下へと降（お）りていく。

「隠（かく）れてろって言っただろ! なのにどうして城壁の中に入ってんだよお前はッ!」

ビクニと顔を合わすなりに怒鳴（どな）り散（ち）らすソニック。

たしかに言うことを聞かなかったビクニが悪いけど、ソニックもいきなり怒鳴るのは酷（ひど）いんじゃないかな。

もしかしたら、ビクニの意思（いし）で城壁の中へ入ったわけじゃないかもしれないしね。

「私だってわかんないよ! ソニックたちが飛んで行った後、突然鏡（かがみ）から声が聞こえたから近（ちか）づいてみたら、中に入っていたんだもん!」

やっぱりビクニの意思じゃなかったみたいだけど。

ついさっきビクニは不用心（ぶようじん）だったって、話をしていたばかりなのにね。

怒鳴るソニックもよくないけど、ビクニも酷いなぁ……。

よくこんなんでこれまでの旅（たび）を生きて来れたと思うよ、ホント……。

ぼくがしみじみとそう思っている横で、ビクニとソニックはまだ言い争（あらそ）いをしていた。

本当は仲良（なかよ）しなのに、なんでこの二人は喧嘩（けんか）ばかりするんだろう。

「おい。そこで何をしている?」

二人が言い合っていると、いつの間（ま）にか現（あらわ）れた男が声をかけてきた。

その男は、この街の城壁や住居と同じ灰色の甲冑（かっちゅう）を身に付けていた。

特に驚いた様子なく近づいて来る甲冑姿（すがた）の男を見たソニックは、突然ビクニの手を引いて走り出す。

「待て! 逃げるな!」

甲冑姿の男は、そう言うとぼくらを追いかけてきた。

それにしても、逃げ出した人に「待て」って言っても意味ないと思うんだけど。

なんで追いかけてくる人って、人間も亜人（あじん）みんな同じことを言うんだろう?

幻獣のぼくにはわからないよ。

「ねえソニック。逃げちゃって大丈夫なの? こっちの事情（じじょう）をちゃんと話せば乱暴（らんぼう）なことはされないんじゃない?」

「たぶんだが、あいつはこの街の衛兵（えいへい）かなんかだろう。捕（つか）まったら面倒（めんどう）なことになるに決まってる。それはこのヘンテコな街を見ればわかんだろ」

しっかりと手と手を繋（つな）いで走るビクニとソニック。

やっぱり二人は、少しくらいトラブルがあったほうが仲良くできるんだよね。

反対（はんたい）に考えると、何もないと喧嘩（けんか）ばかりしているってことになるけど……まあ、それはいいや。

「どこから出てきたかわからんが侵入者（しんにゅうしゃ）だ! 応援（おうえん）を呼べ!」

「そっちへ逃げたぞ!」

「回り込んで挟（はさ）み撃ちにしろ!」

気がつくと、とんでもない数の衛兵がぼくらを追って来ていた。

ソニックがビクニをお姫様抱っこして空へと飛べば逃げれるかと思ったけど。

もう城壁からだいぶ離（はな）れちゃったし、高いところに何もない真四角の住居の上を飛んでも、飛び道具（どうぐ）や魔法（まほう）で撃ち落とされる危険（きけん）があるから無理だよね。

でも、このまま走っていてもじきに捕まっちゃうよ。

「おい! 何者か知らんがこっちに来いッ!」

ぼくが走るソニックの頭の上でそんなことを考えていると、いきなり石畳の地面が開いて、そこから声が聞こえてきた。

どうやら助かりたかったら中に入って来いということみたいだけど。

さてビクニとソニックはどうする?

「あわわ!? 地面が開いたよッ!? どうしようソニック!? 入って来いだって!?」

「怪（あや）しいが、ここは中に入るしか逃げ道はないな」

「うん。私も同じこと考えてた。ググもそれでいい?」

ビクニが訊（たず）ねてきたので、ぼくは大きく鳴（な）き返す。

二人が仲良く決めたことに、ぼくは逆（さか）らったりなんかしないよ。

それがたとえ地獄への入り口だって構（かま）わないさ。

「よしビクニ、ググ。中へ入るぞ」

そして、ぼくらは衛兵に気付かれないうちに、開いた地面へと入っていった。