第百七話 謝罪パーティー

ルバートわかれ、旧市街きゅうしがい宿やどもどった俺たち。


そこで宿屋の店主てんしゅであるねこの女獣人じゅうじんが俺たちを見つけると、尻尾しっぽをピンっと立ててうれしそうに近寄ちかよってきた。


そして、今にもビクニにくっつきそうな距離きょりで、のどをゴロゴロとらしている。


ビクニ本人ほんにんでさえ何故こんなになつかれているのか理解りかいできていないだろう、少し戸惑とまどっているようだった。


昨日きのう会ったばかりだというのに、相手が引いてしまうくらい無駄むだにスキンシップを取るんだよな、この猫女は。


動物どうぶつや獣人にそこまでさせる何かがビクニにあるようだが、俺にはまった理由りゆうがわからない。


そんな猫女を見たラルーナがキリっとにらみつけていた。


「ねえトロイア。ビクニたちはこれからあたしたちと食事に行くんだから邪魔じゃましないでほしいなぁ」


トロイアと呼ばれた猫女はラルーナを睨み返し、「シャー!」と声をあげた。


ラルーナも負けじと「うううぅぅぅ」とうなり声で応戦おうせんした。


とても獣人らしいやりとりだ。


トロイアのほうは営業えいぎょう態度たいど煙草たばこをふかしたりと、普段ふだんから喧嘩早けんかばやい感じに見えたが、いつもお大人おとなしそうなラルーナにたいして俺は、らしくないなと思った。


それだけビクニを取られたくないのか、はたまたやはり犬と猫だからなのか。


まあ、俺にとってはどうでもいい平和へいわあらそいだ。


「モテモテじゃねえかよビクニ」


「うぅ……うれしいんだけれど、なんかよろこべない……」


イルソーレがからかうように言うと、ビクニは複雑ふくざつそうな顔をした。


きっと同性どうせいかれてわるい気はしないが、ノーマルなビクニにとってはめられた気もしないのだろう。


ビクニが喧嘩を止めようと二人のあいだって入ると、トロイアもラルーナもそっぽを向いて「ふんッ!」と声に出した。


「二人とも仲良なかよくしてよ……」


ビクニがそうかなしそうにつぶやくと、トロイアもラルーナも大慌おおあわてし始めた。


そして、二人はビクニを安心あんしんさせようとしてか、やつの目の前でガッチリとかたんで笑い合う。


「いやいやうちらは喧嘩なんかしてないよ、ほら、こんなに仲良しだし。ねえラルーナ?」


「そうそう。ただちょっとじゃれていただけで、こんなの挨拶あいさつみたいなもんだよねトロイア?」


ぎこちない感じではあったが、どうやらビクニをやりめることには成功せいこうしたようだ。


なんだかなぁ、と思っていた俺のあたまの上では、ググもあきれてためいきをついていた。


それから、トロイアがある提案ていあんをしてきた。


なんと今夜こんやは俺たちのことを歓迎かんげいするパーティーをやるのだというのだ。


それは昨日――。


俺たちに因縁いんねんをつけてきた店主やきゃくたちの謝罪しゃざいの気持ちから出てきたアイデアだそうだ。


「そこでうちがたのまれてやったってわけよ。ビクニたちにパーティーに参加さんかしてもらえるかを聞いてくるのをね」


トロイアは両手りょうてこしに当てて、むねき出してそう言った。


ラルーナがそれを見て「ずいぶんえらそうだなぁ」と言うとまた睨み合ったが、ビクニの視線しせんに気がついた二人はすぐにまたたがいに肩を組んだ。


「で、どうする? 俺とラルーナは別にかまわねえが。連中れんちゅうもパーティーに主役しゅやくがいねえんじゃきっと中止ちゅうしになるぜ」


イルソーレが俺たちにそうたずねると――。


「なんかパーティーの主役ってのはこまっちゃうけれど……せっかくだし、参加させてもらおうかな」


それを聞いたトロイアとラルーナは肩を組んだままはしゃぎ始め、イルソーレも「よしッ! やるかッ!」歓喜かんきの声をあげた。


おまけにググもさけび始め、パーティーへの参加を承諾しょうだくする返事をしていた。


俺はまだ参加するとは一言ひとこともいっていないのだが、もうすでにパーティーは開かれることになったようだ。


「はぁ……なんでこう勝手かってに決まっていくかね……」


「うん? ソニック今何か言った?」


「……なんでもねえよ。ほら、早く行こうぜビクニ」


そして、俺たちはパーティー会場かいじょうである昨日夕食ゆうしょくとった店へと向かった。

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