イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第六十二話 一番の問題

それから屋敷（やしき）へと戻（もど）った私たち。

ググはよほど疲（つか）れたのか部屋に入るなり、すぐにベットで眠（ねむ）ってしまった。

ソニックはお風呂（ふろ）に入って来ると言い、また部屋を出て行く。

一人残（のこ）された私は、部屋にあった椅子（いす）に腰（こし）をかけ、ずっとリムのことを考えていた。

ソニックの予想通（よそうどお）りだ。

やっぱり魔法（まほう）が使えることを……リムは隠（かく）していたんだ。

リムは武道家（ぶどうか）の里（さと）――ストロンゲスト·ロードの長（おさ）の娘（むすめ）。

これから父親の跡（あと）を継（つ）いで、里の武道家たちを束（たば）ねていく立場（たちば）である彼女が、魔法で魔物（まもの）を退治（たいじ）するようなことがあれば、問題（もんだい）になるって……。

あのエンさんの態度（たいど）を見れば、今頃（いまごろ）リムが叱（しか）られているのが目に浮（う）かんじゃうよ……。

「なんだお前? まだ起（お）きていたのか?」

お風呂から戻ったソニックが、私の前を通り過（す）ぎてベットに腰（こし）を下ろした。

いつもの私だったら一緒のベットで眠ることをネタに、ソニックをからかったりするのだろうけれど。

今はとてもじゃないが、そんな冗談（じょうだん）を言う気分（きぶん）にはなれない。

私は何も言わないでいる。

ソニックもそうだ。

静（しず）かすぎるせいか、スライムが現（あらわ）れるまでいたところなのに、なんだか違（ちが）う部屋にいるみたいな感じがする。

「お前が気にすることじゃない」

しばらく沈黙（ちんもく）が続くと――。

明（あき）らかに落ち込（こ）んでいる私を気にかけてくれたのか、ソニックが声をかけてきた。

そのわりにはずいぶんと冷（つめ）たい言い方で、私は逆（ぎゃく）に苛立（いらだ）ってしまう。

「なんでよ。私のせいじゃん」

私が不機嫌（ふきげん）そうに言うと、ソニックは舌打（したう）ちをして顔を歪（ゆが）めた。

せっかく彼が気を遣（つか）ってくれたのに素直（すなお）になれない。

そりゃソニックが怒（おこ）るのもしょうがないよ……。

私の今の態度（たいど）のせいで、もう話しかけてこないと思ったけれど。

ソニックは顔を歪めながらも返事をしてきた。

「どっちにしてもあの武道家女は魔法使いにはなれない」

そして、彼は淡々（たんたん）と言葉を続けた。

ソニックが言うに、リムは里のこと以上に大きな問題（もんだい）を抱（かか）えていて、それをどうにかしない限（かぎ）りは無理（むり）なのだと。

私はその話の意味（いみ）がよくわからなかった。

武道家の里長（さとおさ）を継（つ）がなければいけないことが一番の問題じゃないのか?

それが一番じゃないのなら、他（ほか）にどんな問題があるというのだろう。

初（はじ）めてリムが魔法を唱（とな）えたのを見たとき――。

誰よりも驚（おどろ）いていたのはソニックでしょ。

違（ちが）う系統（けいとう）――。

風や火の魔法を同時（どうじ）に唱えたり、攻撃（こうげき）魔法と回復（かいふく）、補助系（ほじょけい）の魔法を使える者は、すごいことなんだって言っていたじゃん。

それこそ賢者（けんじゃ）と呼ばれる選（えら）ばれし者か、上位（じょうい）の魔族（まぞく）だけしかできない芸当（げいとう）だって……。

それはリムにそれだけの天賦（てんぷ）の才（さい）――ようは魔法の才能（さいのう）や資質（ししつ）があるってことでしょ?

「あれだけすごいリムにどんな問題があるって言うのッ!?」

私は椅子から立ち上がって、ベットに座（すわ）っているソニックに食って掛（か）かった。

それは八（や）つ当たりに近い……いや、もう鬱憤晴（うっぷんば）らしのようなものだった。

私は、リムのことで溜（た）まっていた自分への怒（いか）りを彼にぶつけてしまう。

だけど、ソニックは落ち着いた様子（ようす）で私のことを見つめてきた。

「それはな……」

そして、とても言いづらそうにリムの問題のことを話し始めた。