第348話 らいあんくんといっしょ!

※かなり短いです。

 休みに大幅に加筆修正予定です……!

( ※2021/07/19(月)21時 修正しました )



「ハルトくん、ユウマくん、もうすぐです!」

「ぼく、たのしみです!」

「ゆぅくんも! たのちみ!」


 ハルトくんとユウマくんを連れ、私たちは今、王宮の敷地内にある騎士団員の訓練場へと足を運んでいる。敷地内と言ってもかなりの広さ。幼い二人がいる為、今回の移動手段は専用の馬車だ。


「らいあんくんも、くんれん、しますか?」

「はい! 毎日欠かさず! 昨日は騎士団長に教わりました!」

「だんちょうさん? すごいです!」

「しゅご~ぃ!」


 ライアン殿下はこの可愛らしい御友人たちと過ごせるのを楽しみにしていたからか、馬車に揺られながらもずっと笑みを浮かべている。それを見ていた私とサイラスも、村で過ごした時間を思い出し心が穏やかになっていくのを感じていた。


 私が側近見習いとして殿下の御傍に就いた頃、王家が代々使う光魔法が上手く操れず自信なさげだったのに対し、今は学園内でも笑顔が見られ、少しずつだが学友と呼べる存在も出来たと報告を受けている。

 ……比べるまでもないが、その差は歴然。あの村に行ってからというもの、ライアン殿下の変化には目を見張るものがある。

 ハルトくんとユウマくん、そしてユイトさんには感謝の言葉しか浮かばない。


「今日は訓練場に行って、その後は……、そうだ! 庭園に行きましょう!」

「ていえん? ですか?」

「てぃえんって、なぁに?」

「グゥッ……」


 二人で同時に首を傾げ、ライアン殿下に訊ねる姿はとても可愛らしく……。

 いつぞやのトーマス様とオリビア様に似た唸り声が聞こえてきたのは、きっと気のせいでしょう。


「コホン……、庭園とは花や草木が咲いている庭の事です……。王宮の庭園には薬草園もあって、そこで薬になる薬草を育てているんです!」

「すご~い! おくすり! ぼく、いきたいです!」

「今日みたいに天気のいい日はウェンディもよくそこで日向ぼっこをしてるんですよ。今頃ノアくんたちと過ごしてるんじゃないでしょうか?」

「しょうなの~? ゆぅくん、たのちみ!」


 ハルトくんもユウマくんも王宮自慢の庭園に興味を惹かれた様子。この後の予定もこれで決まったも同然。早速手配しておかなければ……。

 そんな事を考えているうちに、馬車が目的地へと到着した。

 外からのノックにサイラスが返事をすると、馬車の扉が開かれ、その先には笑顔で私たちを迎えるアーロとディーンの姿が。


「あーろさん! でぃーんさん!」

「うわ!」

「おっと」


 二人の姿を目にし、勢いよく抱き着いたハルトくんとユウマくん。先程も会ったのに喜びを全身で表現する幼い兄弟に、抱き着かれた二人の顔は可愛くて仕方ないと物語っていた。


「きょうは、とっても、うれしいです! ね、ゆぅくん!」

「ね! みんないっちょ! うれちぃねぇ!」

「そんなに喜んでくれて嬉しいよ」

「はい! らいあんくんと、ふれっどさんと、さいらすさん。あーろさんと、でぃーんさん。みんな、だいすきです!」

「はるくんとねぇ、みんなであしょぶの、たのちみにちてたの!」

「「ね~!」」


 んふふ! と頬をほんのりと染め、嬉しそうにアーロとディーンの足にぎゅうっと抱き着く二人……。

 私を含む五つの唸り声が、重なって聞こえた気がした。






*****


「ハァ……。可愛すぎて膝から崩れ落ちるところでした……」

「初めての経験だ……」

「ハハハ! は仕方ない!」


 場内を一通り案内し終わり、今はライアン殿下と共に新兵たちの訓練を見学している二人。ぴょんぴょんと跳ねながら、がんばれ~! と疑似対人戦を行っている兵士たちに声援を送っている。その可愛らしい後ろ姿に、私も自然と笑みが零れてしまう。


「……ところで、貴方たちは何故、鎧に着替えているのですか?」


 確か先程まで軽装だった筈なのに、いつの間にか訓練用の鎧に着替えている。


「もちろん訓練に参加する為ですが?」


 何を当然の事を? それ以外に何かありますか? とでも言う様に首を傾げる二人。

 貴方たちがその仕草をしても、微塵も可愛くないのですが……。


「二人とも、今日は休日だったのでは……?」

「「……」」


 おや、返事に困っていますね……。


「いつもなら絶対に参加しないのにな?」

「「……」」


 サイラスの言葉に気まずそうに顔を背けるアーロとディーン。どうやらあの子たちに良いところを見せたいらしい……。やる気は十分の様です。


「ハルト~! ユウマ~! 二人も対人戦に参加するらしいぞ!」

「え~!? ほんとうですか?」

「しゅご~ぃ!」


 その声に反応し、新兵たちもギョッとした顔でこちらを振り返るのが分かった。

 まさか新兵の疑似対人戦に、第一小隊の騎士団員が参加するとは誰も想像しなかったのだろう……。一気に新兵たちの待機場所が騒がしくなった。


「あーろさん! でぃーんさん! ぼくたち、おうえんします!」

「がんばってぇ!」

「これは良いところを見せないと」

「ちゃんと見ててくれよ?」

「はい!」


 四人のやり取りを眺めていると、どこからともなく不穏な空気が……。


「で、殿下……」

「お顔が……」


 アーロとディーンの引き攣った表情の先に視線を送ると、そこには頬を膨らませジトリと二人を見つめるライアン殿下の御姿が……。

 王族らしからぬその表情に、私とサイラスも呆気に取られてしまった。


「……アーロ、ディーン」

「「ハッ!」」


 声色さえも変わっている……。

 これは、もしや……。


「……確か騎士団寮の料理人、まだ人員不足だと聞いているが……?」

「はい。改めて募ってみたのですが、やはり数人はすぐに辞めてしまいまして……」

「今は主に寮に住む団員で欠員を補っている状態です」

「そうか……」

「「?」」


 急にどうしたんだと疑問に思っていると、殿下はニヤリと口角を上げる。初めて見るその表情に、我々は目の錯覚かと二度見してしまった。

 まるで面倒……、いや、何かを思い付いたときのバージル陛下の様な……。



「よし! 今日の対人戦、どちらか敗者一人に騎士団寮の料理当番、一週間を命ずる!」



「そ、それだけは……ッ!」

「御容赦を……ッ!」



 この雲一つない秋晴れの空の下、アーロとディーンの悲痛な叫び声が訓練場に響いていた。







◇◆◇◆◇

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

更新頻度が遅くて申し訳ないのですが、お付き合い頂けると幸いです……。

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