第342話 いざ! お城へ
「いい天気だね~」
「はれてよかったね!」
「ホント! 風も気持ちいいわ~!」
雲一つない秋晴れの空の下、サンプソンの牽く馬車に揺られ、僕達は一路ライアンくんの待つお城へと向かう。
「あの
「ちゃんとついて来てますね」
サンプソンの牽く馬車の後ろに手綱を繋ぎ、五頭の馬たちが悠然と闊歩する。その光景に街の人たちがこちらを振り返るのが分かった。
本当は家で留守番してもらう筈だったけど、どうやらこの
「おうまさん、かしこいね!」
「ホントだね~!」
「あぃ~!」
「ブルルル!」
「ヒヒィ~ン!」
褒められているのが分かったのか、馬たちが一斉に低く嘶きを上げる。
《 あの子たちも褒められて喜んでいるよ 》
「やっぱりそうなんだ?」
《 あぁ。皆、可愛いだろう? 》
「すっごく!」
サンプソンの通訳のおかげで、五頭は上機嫌な事が分かった。そう思うと、この嘶きも心なしか歌ってる様にも聞こえてくる……。言葉が分かるって不思議だな……。
今まで言葉が分かったのはセバスチャンにサンプソン。そしてあの赤いスカーフを巻いたライノセラスという
……女神様がくれたこのスキル、どういう基準で言葉が分かるんだろう……?
また会えたら訊いてみたいな……。
途中で精肉店のデニスさんの所へ寄り、注文しておいた例の
それを見ていたアーロさんとディーンさんの顔が若干引き攣っていたけど、以前あんなに嫌がっていた鶏もつ煮込みを食べたからか反対はしなかった。
「ハルト、嬉しそうですね」
「ふふ! ホントねぇ~」
お城へと向かう道中、馬に乗ったアーロさんとディーンさんが馬車を先導してくれていたんだけど、アーロさんの計らいで途中からハルトも一緒に騎乗する事に。時折アーロさんとハルトの笑い声が聞こえてくるから、どうやら二人で楽しくお喋りしている様だ。
「ユウマはもう少し大きくなってからだね?」
ディーンさんがユウマも乗せてくれようとしたんだけど、以前ハワードさんの牧場で乗せてくれた馬よりも視界が高く感じたのか、ユウマが少し怖がってしまった為に断念。騎士団の馬だからか、とっても強そう……。顔付きも凛々しい気がする。
今は僕の隣に座り、ユウマはレティちゃんと一緒にお勉強中。ドラゴンも本を覗き込み、まるで勉強に参加しているみたいだ。
「ん! ゆぅくん、しゅぐおっきくなりゅもん!」
「もしかしたら、にぃにより大きくなるかもね?」
「にぃにより~?」
「そしたらユウマ、頼りになるんだろうなぁ~。オリビアさんも僕も、いっぱいお願いしちゃうかも……!」
「ほんと~? ゆぅくん、がんばりゅね!」
その言葉に気を良くしたのか、ふんふんと鼻を膨らませて上機嫌だ。レティちゃんもオリビアさんもそれを見て優しく笑みを浮かべている。
ユウマが僕より背が高くなったら……? 今でも思いやりがあって優しいし、手先も器用だし……。うん、かなり頼りになりそうかも……!
だけど、甘えん坊なのは変わらなそうだけどね。
そんないつか来る未来を想像し、僕はもう少しだけ可愛い弟たちとの今の生活を楽しみたいなと考えていた。
*****
「皆さん! もうすぐですよ!」
「「「は~い!」」」
アーロさんの声にハルトたちが元気よく返事をする。馬車がゆっくりと石畳を進んで行くと、目の前に大きな橋が現れた。
「わぁ~……! たかいです……!」
「こわぃねぇ……」
その橋の周りには、深く深く掘られた堀が。トーマスさんが教えてくれたけど、城に侵入されない様に城壁の周辺を掘っているらしい。ハルトはアーロさんにしがみ付き、ユウマも馬車の中からそ~っと顔を出してすぐ引っ込めてしまった。僕も下を覗くのはちょっと怖いかも。
そしてその先には……。
「うわぁ~……」
「おっきぃです……」
「しゅごぃねぇ……」
「あぅ~……」
僕たちの目の前にはお城を守る城壁。そしてその壁のすぐ向こうに、真っ白な壁と青い屋根が美しいお城が建っていた。その周りには木々も生え、絵本の世界そのものだ。アレクさんと見た時は遠目だったから、間近で見るとこんなにキレイな建物だなんて思わなかった……。
そのあまりの迫力に、僕は思わず口を開けたまま見入ってしまった。
「「あ!」」
ハルトとユウマの声に視線を移すと、その先にいた人物に僕も思わず声が漏れてしまう。
「らいあんくんです!」
「らぃあんく~ん!」
嬉しそうに一生懸命手を振る二人と、その先にある門の前で両手を大きく振るライアンくんの姿。そしてその隣には近衛騎士のサイラスさんと側近のフレッドさんも……。
まさか王子様が直々にお出迎えだなんて、聞いた事がないんだけど……。トーマスさんと一緒に御者席に座るユランくんも、あまりの事に緊張しているみたいだ。
「らいあんくん、ふたりのこと、だいすきだから……」
《 やっぱりいたね~ 》
そしてレティちゃんと姿を消したニコラちゃんの声が、馬車の中で響いていた。
*****
「ハルトくん! ユウマくん! 待ちきれなくて来てしまいました!」
トーマスさんとオリビアさんが入城許可の手続きをしている間、ライアンくんとハルト、ユウマの三人は抱き合い再会を喜んでいる。
……と言っても、三日前に会ったばかりなんだけどね?
「あえて、とっても、うれしいです!」
「ゆぅくんも! しゅっごくうれちぃの!」
「私もです! 今日は一日一緒にいれますね!」
「「うん!」」
そんなほのぼのとする三人のやり取りを眺めながら和んでいると、フレッドさんがこそりと僕に近付いてくる。珍しく神妙な面持ちだ。
「……ユイトさん、今日は覚悟しておいた方がいいかも知れません……」
「え? 覚悟……?」
一体、どういう事……?
「はい、実は……」
聞くところによると、ライアンくんが城に戻ってから僕に教わった料理を王妃様やお兄さん二人、そして料理長さんたちにも振る舞ったらしく、ライアンくんが作った事とその美味しさに皆さん……、特に王妃様がいたく感激されていたとか……。
それ自体はすっごく光栄な事なんだけど、フレッドさんの言う“覚悟”と言うのがイマイチよく分からない……。フレッドさんの隣で聞いていたサイラスさんも、多くは語らず深く頷くだけ……。
「でも、料理自体は気に入ってもらえてるって事でいいんですよね……?」
「それはもう!」
「料理長もユイトくんが来るの楽しみにしてたからな」
フレッドさんもサイラスさんも、皆プリンとオムレットケーキに夢中だと教えてくれた。特に女性陣と、あの方も……と言ったところで二人は口を噤んだ。どうやら意外な人物だったらしい。
ふむふむ。甘いデザートか……。それなら、料理長さんに違うデザートのレシピを渡しておこうかな?
「なら、そんなに気にしなくても……。いいですよね……?」
「「…………」」
「えぇ~? なんで無言になるんですか……」
若干の不安は残りつつ、僕はこれから会う事になる料理長さんたちと、もしかしたら会えるかもしれない王妃様とお兄さんたちを想像する。
ライアンくんのお母さんだし、多分、いや絶対優しいに違いない! お兄さんたちは多忙だと聞いていたけど、今日はお城にいるのかな……?
だけど失礼のない様に接しなきゃ……! あ、挨拶とかもちゃんと言えるかな……? トーマスさんに教えてもらったけど、緊張して失敗しそうだ……。
「お待たせ。さ、入ろうか」
「は、はい……!」
「あら、顔が強張ってるわよ?」
「だって……」
手続きの終わったトーマスさんとオリビアさんが僕を呼びに来る。だけど緊張しているのが分かったのか、二人は笑いながら優しく肩を擦ってくれた。
「何だ? ユイト、緊張してるのか? ……実はオレも緊張してるんだ」
「ふふ! 誰だって緊張はするわよ~! あ~……! 私もドキドキしちゃう……!」
「あぅ~……!」
「ほら、メフィストちゃんも緊張するって言ってるわ……!」
「全くそうは見えないんですけど……!?」
どうやら三人とも(?)僕の緊張を解そうとしてくれているらしい。だけどもう一人、僕より緊張している人が……。
「ぼ、ボク……、本当に入っても大丈夫なんでしょうか……?」
「クルルル!」
楽しそうに鳴くドラゴンとは対照的に、ユランくんはキョロキョロと辺りを見渡し明らかに挙動不審……。王都に入る時はあんなに堂々としていたのに、やっぱり
「あら。もう手続きしちゃったもの~! 大丈夫、大丈夫!」
「ほら、ユイトもユランも。待たせてはいけないからな。急ごう」
「「は、はい~……!」」
「クルルル~!」
トーマスさんに背中を押され、僕たちは馬車に乗り込んだ。
サイラスさんとフレッドさんはライアンくんと一緒に城内用の馬車に乗ろうとしていたけど、ハルトとユウマと一緒にいたいからとライアンくんがこちらの馬車に乗り込んでくる。
その結果、サイラスさんとフレッドさんも乗り込み、馬車の中が若干狭い様な……。
だけどハルトとユウマの笑顔を見ていたら、そんな事も気にならないくらい。
今日一日、二人が楽しめます様に。
そしてどうか、料理教室が何事も無く無事に終わります様に!
そんな事を祈りながら、僕たちはお城へと急いだ。
◇◆◇◆◇
いつも作品をお読み頂き、ありがとうございます。
やっとお城へ着きました(笑)
次は登場人物が増えるので、もっとわちゃわちゃすると思います……!
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