第332話 ユイトのお料理教室③ ~思わぬお願い?~
「さ、皆一斉に開けてください!」
「「「はい!」」」
漸くお米が炊け、蒸らし時間を経て皆で一斉に蓋を開ける。おかずが先に並んでいたせいか、子供たちの視線が痛かった……。
「うわぁ~! すごい!」
「つやつやしてる……!」
白い蒸気が立ち上り、その奥からふっくら艶々の美味しそうな白米が。皆も上手に炊けている様でホッと胸を撫で下ろす。
「うん! 皆の炊いたご飯、とても美味しそうに炊けてますね!」
「やったぁ~!」
「こんな風になるんだ……!」
「早速お皿に盛っていきましょう!」
「「「は~い!」」」
鍋を一つだけ取って置き、後は全て食卓へ。しゃもじが無い為、木べらで器に盛りつけていく。皆で手分けしてテーブルに並べていくと、ふっくらとしたお米の粒に小さい子供たちは興味津々。
よっぽどお腹が空いているのか、早く食べようと急かされる。
「ちゃんと皆の席に行き届いてますか?」
「「「は~い!」」」
「大丈夫そうですね! では皆でお米の試食を始めましょう~! いただきます!」
「「「いただきま~す!」」」
教わりに来てくれた皆がお米を頬張ると、目を見開きお互いに顔を見合わせ満面の笑み。
「初めて食べたけど、これモチモチしてるね?」
「よ~く噛むと、甘いかも……!」
「……あ、ホントだ!」
シスターさんも気に入ってくれた様で、初めての食感に驚きつつ美味しいと太鼓判。
そして気になる幼いあの子たちの様子……!
小さい子供たちはシスターさんと上の子供たちに手伝ってもらいながらご飯をパクリ。
「ん~! おいちぃ!」
「ぼく、もっとたべる!」
もきゅもきゅと頬を膨らませながら、ご飯を美味しそうに頬張っている。喉を詰まらせないかと心配だけど、気に入ってもらえた様で何よりだ。
そして皆のもう一つの関心は……、
「うわぁ~! これ美味しい~!」
「ホントだ~! こっちも美味しいよ!」
「お肉と……、このシャキシャキしてるの何だろう~?」
「ユイト先生! このお料理、とっても美味しいです!」
皆が先程から夢中になって食べているのはミニハンバーグ。セフィロスくんが黙々と丸めてくれていたアレだ。
皆が美味しいと夢中になっているからか、セフィロスくんも満足気に微笑んでいる。玉子焼きも人気の様で、キレイに巻くと頑張っていたマリーちゃんも嬉しそう。
その他にもコロッケに簡単な
「よかった! ご飯と一緒に食べると美味しいよね?」
「うん!」
「でも、このシャキシャキしてるの何ですか?」
「それはね、
「ロータスルート……?」
「穴が開いた根菜……、お野菜だよ。混ぜると食感が違って楽しいでしょ?」
「うん!」
節約の為に加えたロータスルートは、教会ではあまり馴染みがなかったらしい。今回、初めて食べたという子もたくさんいた。使っていない実物を見せると、ホントに穴が開いてる! と楽しそう。
シスターさん達が節約になるなら助かると言っていたので、かさ増し出来る食材を教えると感謝の嵐だった。
ロータスルートの他にも、ゲンナイさんの作っているおからや豆腐にもやし等の
それがあれば、かなり料理のレパートリーも増やせるはずだ。
カレーなんか絶対人気メニューになっちゃうよ!
そして意外にも野菜をたっぷり食べれる様にと教えたマヨネーズとタルタルソースが大好評。ネヴィルさんもこれをかなり気に入っている様で、子供たちと一緒に野菜をペロリと平らげていた。
「あ、そろそろ冷めたかな~?」
食事を始めてしばらく経った頃、皆が研いだお米第二弾も順調に炊き上がりつつある。その間に一つだけ置いてた炊いたお米で違うメニューを作ろうと考えていたのだ。
「皆はそのまま食べててくださいね。今から味の付いたお米料理を作るので!」
「味の付いたおコメ……?」
「私もやりたいです!」
「僕も!」
「……!(コクコク)」
ゆっくり食べてもらおうと思っていたのに、結局教わりに来たメンバー全員で料理を作る事に。皆が勉強熱心で、僕も嬉しい。
「今から作るのは、炊いたお米を使ったお店でも人気のメニューです」
「え? お店のお料理を教えてくれるんですか……?」
「いいんですか……?」
皆驚いているけど、これはオリビアさんも了承済みだ。
「気にする事じゃないよ。それよりも、皆が美味しくご飯を食べてくれる事の方が僕は嬉しいから!」
そう言って、早速準備に取り掛かる。予め皆が刻んでくれた野菜に少量のベーコン、そしてどこの家庭でも作っているトマトソース。今回のは孤児院で実際に作っているトマトソースを使用。やっぱり味は各家庭で違うみたいで、僕の家の味よりも少し甘い気がする。これなら皆も食べやすいかも。
「さ! 早速作っていきましょ~!」
「「「はい!」」」
*****
「うぅ~……! 見てるだけで涎が……」
「絶対美味しいもん……!」
「見ただけで分かる~……!」
僕が皆に教えていたのは、お客様にも人気のオムライス!
ふんわり玉子でケチャップライスを覆い、仕上げは温めたトマトソース。皆、涎を垂らさんばかりにオムライスを見つめていた。
先ずは試食とスプーンで一口ずつ取り分け、残りは他の子供たちに。
「あぁ~! すっごく美味しい~!」
「一口じゃ足りない……」
「ふわふわたまご……、最高……」
皆口々にオムライスの感想を。だけど一口じゃ物足りないよね……。
「ほら、次のもどんどん炊けてくよ! 今度は違う料理を作ります!」
「「「えぇ~!? まだあるんですか!?」」」
「勿論!」
その間にも次々とお米が炊き上がるので、ガッツリお腹に溜まる炒飯に、誰かが不調な時に役に立つお腹に優しいお粥と雑炊。そしてメフィストくらいの赤ん坊が来た時の場合の離乳食を教えていく。
皆食い入る様に僕の動きを見つめ、次は自分たちで調理を始める。覚えがいいのか、皆黙々と鍋を振るい、次々と料理を完成させていく。
その光景をシスターさん達も、ネヴィルさん達商会の人達も皆見守っている。
「おコメって、こんなに色々作れるんだ……」
「しかも全部美味しそう……」
シェリーちゃんにカリーナちゃんはお米のレパートリーの多さに驚いているけど……。
「これは極一部だよ。まだまだお米で出来る料理はたくさんあるからね」
「「すごい……!」」
ダレスくんにレオンくん、セフィロスくんも、完成した傍から味見し目を輝かせている。そして味見し終えるとすぐに他の子供たちへと料理を運び、おいしい! すごい! と大絶賛。
照れながらもまた皆の為に腕を振るっていた。
*****
「皆、お疲れ様! 今日は、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
米料理の後、最後は幼い子供たちも餅粉を使ったお団子作りを一生懸命に手伝ってくれ、皆で楽しくデザート作りを堪能した。
お団子を見るとシスターさんは大興奮。きな粉とみたらしの二種類を出すと、幸せと呟きながら食べてくれた。
「僕、料理でこんなに楽しいの、初めてかも……」
「私も……」
「……(コクン)」
料理人を目指しているカリーナちゃんとレオンくん、そしてセフィロスくんは真剣な表情で呟いている。
そんな風に思ってくれると、僕も嬉しいな……。
この仕事、引き受けてよかった……!
すると、僕の服の裾をクンと引っ張る感覚が。
「……どうしたの? マリーちゃん」
後ろを振り替えると、赤毛の可愛いマリーちゃんが眉を下げて僕を見上げていた。
「あのね、先生」
「うん、どうしたの?」
「私のいる孤児院ね、パンを食べちゃいけない子がいるの」
「パンを……?」
僕がマリーちゃんの後ろにいるシスターさんの方を見ると、シスターさんが困った様に説明してくれた。どうやら同じ孤児院の子に、パンやパイ、少しでも小麦粉が使われていると食べられない子供がいるらしい。
( ……アレルギー、かな…… )
「それでね、いつもその子だけ皆とご飯が違うの。だから、このおコメだったら、その子も食べられる?」
泣きそうな表情で僕を見つめるマリーちゃん。食事の時間、マリーちゃんと仲の良いその子はいつも皆と離れて隅で食べているという。それがマリーちゃんには悲しいそうだ。
……小麦粉の変わり、米粉なら代用出来るかな……。でも、素人判断でその子に万が一の事があったら……。
「何かお困りですか?」
困っている僕を見かねて声を掛けて来てくれたのはネヴィルさん。
「ネヴィルさん……、実は……」
マリーちゃんに教えてもらった事、そして米粉で小麦粉の代用が出来ないかそのまま相談すると、ネヴィルさんは一考した後マリーちゃんとシスターさんの顔を見てこう提案した。
「私共が協力致しましょう」
「えっ!?」
「おじさん、本当ですか!?」
「こら、マリー!」
シスターさんはネヴィルさんの事をおじさんと発言した事に狼狽えていたが、マリーちゃんは気にせずネヴィルさんの言葉に喜び飛び跳ねている。
「おじさんも皆に美味しい料理を食べてほしいからね。近々日程を合わせてそちらの孤児院へ伺いましょう。勿論、私の信頼する医者も連れて行きます。そうすれば安心では?」
「あ、有難いお話ですが……。でもそこまでして頂けるなんて……」
シスターさんは恐縮しているが、ネヴィルさんはマリーちゃんの頭を撫で優しく微笑んだ。
「もしこれが上手くいけば、その子だけではない……。この国にいる小麦粉を食べれない人達が皆と同じものを食べれるんですよ。それは素晴らしい事じゃないですか?」
「確かに……。そうですよね……!」
ネヴィルさんの言葉に、シスターさんもマリーちゃんも目を輝かせている。
「……という事でユイトさん。何か良い案がないか話し合いましょう」
「……は、はい!」
にっこりと微笑むネヴィルさんの笑顔の圧に、僕は只々頷く事しか出来なかった。
……そして、
「ユイト先生!」
「ん? どうしたの? レオンくん、それに皆も……」
僕を呼ぶ声に振り向くと、そこにはレオンくんを筆頭にカリーナちゃん、セフィロスくん、ダレスくんにシェリーちゃんの姿も。
皆、真剣な顔をしている。
そして先程まで話していたマリーちゃんもその中に加わった。
「……ユイト先生っ!」
「は、はい!」
皆の真剣な眼差しに、思わず姿勢を正してしまう。
ネヴィルさんや商会の人達、シスターさん達もその様子を見守っている。
「僕たちを、先生の弟子にしてください! お願いします!」
「「「お願いします!」」」
「え、えぇ~……!?」
頭をこれでもかと下げ、僕に弟子入りを志願してくる六人。
思わぬお願いに、僕が動揺してお鍋をひっくり返したのはトーマスさん達には内緒だ。
◇◆◇◆◇
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今回のお話はまた後日、加筆修正する予定です。
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