第259話 楽しい予定
「「「ただいま~!」」」
お店の入り口を開けて中に入ると、僕たちと入れ替わりになる様に、作業服の様な服を着た知らない人が数人、会釈しながら出ていった。
「あ、皆おかえりなさい!」
「あの、オリビアさん、いまの……」
「おはようございまーす!」
「あ、ダニエルくん、おはよう!」
僕の言葉を遮る様に、元気よく入って来たのはダニエルくんだ。
「おはよう! わ! 荷物の量、スゴイね……? レティちゃん、ハルトくん、貸して? ここに置けばいい?」
「だにえるくん、ありがとう!」
「ありがとう、ございます!」
「いいよ~!」
ダニエルくんは二人の荷物を見ると、カウンターテーブルに置いてくれる。今日もたくさん配達してくれているので、僕とハルトも手伝い、納品分を全てお店の中へと運ぶ。
「すっごい量だからビックリしちゃったよ! あとこれ、父さんからユイトくんにって!」
「ハワードさんから? 何だろう?」
ダニエルくんから手渡された容器を開けると、中には真っ白なチーズと、淡いクリーム色のチーズが入っていた。
「あ、これって前に言ってた新商品?」
「そうそう! この真っ白なのがマスカルポーネで、クリーム色のがクリームチーズ! トーマスさん達にはこないだ食べてもらった!」
「えっ! 訊いてない!」
そんな大事な事を! と、思ったけど、確かサンプソンの事で頭になかったんだろうな……。
ハルトとレティちゃんも、二人で顔を見合わせて、しまった! という表情を浮かべてる。
二人とも美味しかったの~? と頬をうりうり両手で挟むと、とっても! と満面の笑みで答えてくれた。
ちなみに、クラッカーにトッピングしてジャムと合わせたり、トマトやハムとかもあったんだって。いいなぁ~……!
「またユイトくんたちが王都から帰ってきたら、ちゃんと渡すって。使えそうだったらいいんだけど」
「ありがとう! 僕も色々考えてみるよ」
「分かった! 父さんに伝えとく!」
お礼を伝え、ダニエルくんが店を出ると同時に、今度はローレンス商会から注文していたお米や粉類がたくさん届いた。
いつも運んでくれるお兄さんも、この量には苦笑いしながらお店の中へと運んでくれる。
昨日おばあさんの薬屋さんで買ったチョコレートとカカオバターを少しだけ渡し、クリスさんへ渡してとお願いする。もう知っているかもしれないけど、一応ね。
それにしても……。
「あらあら……」
「にもつ、いっぱいです……」
「これ、はいる……?」
「う~ん……。頼み過ぎたかな!」
お店の一角には、僕が注文したお米が山盛りに積まれている。だって、護衛にブレンダさんとドリューさんたちがいるんだよ? 絶対足りないと思って……!
だけど、この量を見たら不安になってきた……。ほんのちょっとだけね。
*****
「「「ありがとうございました(まちた)!」」」
九時課の鐘が鳴り、ハルトたちと最後のお客様を皆でお見送りし、ようやく閉店。
「お、終わった……」
「つかれた……」
看板を店内に入れ、僕とオリビアさんはテーブルで突っ伏する。
「おばぁちゃん、だいじょうぶ?」
「おにぃちゃん、おつかれさま……」
《 おつかれさま~! 》
《 いっぱいきてたねぇ~! 》
ノアたちも姿を現し、皆でお疲れ様と労ってくれる。
今日で暫く間お店が休業だと知り、近所の人はもちろん、メイソンさんのお弟子さん、冒険者の人達がたくさん食べに来てくれた。
途中からトーマスさんとハルトたちが手伝ってくれたけど、それでも常に満席で、僕とオリビアさんはひたすら調理をしていた気がする。
「ばぁば~! にぃに~! これ、どぅじょ!」
「あら、なぁに?」
「いい匂い~」
ユウマが持って来てくれたのは、以前トーマスさんが作ってくれた蜂蜜入りのホットリモーネ。
僕たちが突っ伏している間に、トーマスさんと一緒に用意してくれたみたい。
「ありがとう、ユウマちゃん。皆も朝からいっぱいお手伝いしてくれて、疲れてるのに……」
「ユウマ、ありがとう。飲んでもいい?」
「うん!」
トーマスさんがハルトとレティちゃんの分も運んで来てくれて、皆で一緒に少しだけ休憩。
「ハァ~。とっても美味しい……!」
「あったまる……」
「ばぁば、にぃに、げんきでたぁ?」
「「でた~!」」
「よかったぁ~! ゆぅくん、うれち!」
ユウマの笑顔にオリビアさんと二人で癒されつつ、皆で王都での予定を話し合う。ハルトとユウマはワクワクしっ放し。レティちゃんも、ずっとソワソワしている。
メフィストだけは、トーマスさんに抱えられて粉ミルクを勢いよく飲んでいるんだけど。そろそろ離乳食も二回に増やした方がいいかもな。
「えっと、まずは……。ハルトちゃんとユウマちゃんは、まだ未定だけど、ライアン殿下と遊ぶのよね?」
「そうです! らいあんくんと、あそびます!」
「たのちみ!」
「ふふ、いっぱい遊べるといいわね!」
「「うん!」」
オリビアさんは紙にサラサラと予定を書き込んでいく。
「レティちゃんはお世話になった人達に会うんだものね?」
「うん! おてがみ、かいたの! たのしみ……!」
「ふふ、早く会ってお話したいわね?」
「うん!」
レティちゃんは同じ魔族の人達に会うのを楽しみにしている。奴隷としての記憶は消えないかも知れないけど、その人達がいたおかげで、レティちゃんは支えられていたのかもしれない。
「トーマスさんとオリビアさんは?」
「もし良ければ、皆で母さんと兄さんの墓参りに行きたいんだが……」
初めて聞いた、トーマスさんの家族の話。
オリビアさんは優しい目でトーマスさんを見つめている。
「王都にあるんですか?」
「あぁ、中心からは離れているがな。いいかな?」
「はい! なら、行く途中でお花も買わないとですね!」
「そうだな、ありがとう」
ホッとした様に笑うトーマスさん。
もしかしたらずっと、一緒に行きたかったのかな……?
「他のオレの個人的な用事は、すぐ終わるからな……。あとはバージル陛下の相手くらいか?」
「そうねぇ……。私もこれと言って無いのよねぇ……。それより皆の服を買いに行きたいわね」
「じゃあ、バージルさんの相手と、買い物ですね?」
「そうねぇ~!」
そう言ってオリビアさんは、サラサラと予定に書き加えた。
「ハハ! 本当に書いたな!」
「この紙は誰にも見せれないわねぇ~! ユイトくんは……。これは自分で書いてもらった方が早いわね?」
「えへへ……。すみません……」
オリビアさんに紙を渡され、そこに自分の予定を書き込んでいく。
まずは……。
「忘れちゃいけないのが、お城で料理教室ですよね……。騎士団寮でご飯を作るのと、孤児院でお米の炊き方を教えて……。あと、ローレンス商会でネヴィルさんに食材を見せてもらって……。あ、あのネックレスを買ったお姉さんのお店にもお礼に行きたいです。ノアたちの食器もあるか探したいなぁ~。それと、レティちゃんと一緒に、美味しいもの探しに行くもんね?」
「うん! たのしみ!」
「ぼくも、いきたいです!」
「ゆぅくんも~!」
「あ~ぃ!」
「ハハハ! 結局皆で行くんだな?」
「そうね、私も行きたいわ!」
「じゃあ、皆で美味しいもの探し……、っと!」
そう紙に書き加えていると、オリビアさんの視線を感じた。
「ねぇ、ユイトくん? 肝心なデートの予定は加えなくていいの?」
「へ?」
急に言われ、思わず固まってしまう。
「わざわざ王都に行くのよ? 手紙も出したんでしょう? 時間が合えば、二人でお出掛けしてきたら? ねぇ?」
「そうです! おにぃちゃん、でーと!」
「でぇと~?」
「好きな人と二人で、お出掛けする事よ~?」
「しょうなの~? じゃあ、にぃに、でぇともね!」
《 じゃあ、ぼくもついてっちゃだめなの? 》
「そうね、二人っきりにしてあげたいわ」
《 う~ん……。さみしいけど、わかった! 》
「うふふ! ノアちゃんはいい子ね? 楽しみだわ!」
固まる僕を置き去りに、オリビアさん達は楽しそうにお喋りをして盛り上がっている。
「おにぃちゃん、おかお、まっか……」
「あ~ぅ……」
「ほら、そっとしておいてやろう……」
「うん……」
「あぅ~……」
トーマスさん、レティちゃん、こそこそ話してるけど、全部聞こえてます……。
認めてもらえたのは嬉しいけど、居た堪れない気持ちになるのはなぜだろう……?
「ぼ、僕……! 買い物行ってきます!」
「え? もう行くの?」
「はい!」
そして僕は、そこから逃げる様に買い物に走った。
だって、だって……!
僕も、誰かに惚気るくらいにならないとダメなのかもしれない……!
でも、やっぱり恥ずかしい……っ!
照れるのを誤魔化そうと思いっきり走ったせいなのか、店通りに入った途端、ジョージさん達に足が速いと感心されてしまった。
何かに遅れそうなときは、今日の事を思い出そうかな……?
いや……、恥ずかしいから、やっぱり止めておこう……。
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