第249話 レティちゃんと退院祝い
※本日、二話目の更新です。ちょっと短め。
乗合馬車は目的地の隣街・アドレイムに到着。
僕たちとお兄さん達も、ここで一緒に降りる。
「今日はありがとな! じゃあな!」
「うん! おにぃしゃん、ばぃば~ぃ!」
早く依頼達成の報告と買取を済ませて休みたいと、お兄さん達はユウマの頭を代わるがわる撫でて冒険者ギルドへと駆けて行った。
馬車の上ではぐったりしていたのに、もしかしてチョコチップクッキーのおかげかな……?
「あれ? 坊ちゃんたち、こんな時間に珍しいな?」
「あっ! おじちゃん、こんにちは!」
「おぃちゃん、おひしゃちぶり!」
アドレイムの街を歩いていると、不意に声を掛けられた。声を掛けてきたのは、カットフルーツの屋台をしているおじさん。とっても優しそうで、ハルトとユウマも知っているのか、元気に挨拶している。あ、もしかしたら青果店のおばさんが言ってたお義兄さんかな?
「今日は大勢だな~? あ、トーマスさん、その子が入院してたって子かい?」
「あぁ、もうすっかり元気でな。ほら、レティ」
「こ、こんにちは……」
トーマスさんに背中を優しく押され、レティちゃんは少し緊張しながら挨拶している。おじさんはそんなレティちゃんを見て目を細めると、何やら屋台の商品を漁りだし……。
「こんにちは! なら退院祝いにおじさんから何かあげよう……。あ! これなんかどうだい?」
「わ! いいんですか……?」
おじさんがレティちゃんにと差し出したのは、とっても美味しそうに熟れた柿。それを器用にスルスルと皮を剥き、一口サイズにカットしてくれた。レティちゃんは嬉しそうに受け取り、おじさん、ありがとう、とお礼を伝えている。
「あら、ペルズィモーネじゃない! 美味しそう!」
「イドリスの土産にコレも買っていくか?」
「いいわね~! 食後にデザートにしましょうよ」
トーマスさんもオリビアさんも好きな様で、あれよあれよという間に
「ん! おぃちぃ~!」
「とっても、あまいです!」
その間にレティちゃんは、サービスしてもらったペルズィモーネをハルトとユウマと一緒に美味しそうに食べていた。
「おにぃちゃんも! はい! あ~ん」
「わ、ありがとう! あ~……」
一口貰うと、優しい甘さが口いっぱいに広がっていく。柔らかすぎず硬すぎず。かなり美味しい!
「ん~! 美味しいね!」
「ね!」
すると、僕たちが食べているのが気になったのか、周りにいた通行人の人達が徐々に集まりだした。これは邪魔にならない様に、お店の端に寄った方がいいかも。
「はい、お待たせ! これで全部だよ!」
「ありがとう、ございます!」
「おぃちゃん、またくりゅね!」
「あぁ! 待ってるよ!」
カットし終えたペルズィモーネを受け取り、屋台のおじさんに皆でお礼を伝える。おじさんはハルトたちの頭を優しく撫でると、満面の笑みで僕たちを送り出してくれた。屋台に集まりだした人たちも、こちらをチラチラと見ている気がする。
領主のエドワードさんに僕とアレクさんの公開プロポーズの噂を聞いてから、この近辺に来るのは恥ずかしかったんだけど……。まだ噂は消えてないみたいだ……。う~ん……。視線を感じ、なかなか気まずい……。
「おにぃちゃん、いどりすさん、おしごとですか?」
「え? あ、そうだねぇ。終わってるといいんだけど……」
僕があまり目立たない様に体の大きなダリウスさんの後ろに隠れながら歩いていると、ハルトとレティちゃんは何してるの? と僕を不思議そうな顔で見つめていた。
「にぃに~! ゆぅくんねぇ、ぎりゅどのかいだん、ひとりでのぼれりゅの!」
「みんなで、おうえん、してくれました!」
「「ねぇ~」」
またのぼりゅ! と言いながら、ユウマはやる気満々の様だ。そんなユウマを微笑ましく眺めながら、僕たちはイドリスさんのいる冒険者ギルドへと向かう。
だけど周りの視線が痛いから、僕はダリウスさんの後ろに隠れたまま移動した。
*****
「「こんにちは~!」」
冒険者ギルド内に、ハルトとユウマの元気な声が響く。僕は大きな声を出しちゃダメだと注意しようとしたけど、トーマスさんも周りの冒険者さんたちも至って普通。
それどころか、ハルトとユウマの姿を見て冒険者さんたちが久し振り、と笑顔で手を振ってくれている。どうやら僕が過剰なだけだった様だ。
「二人とも、受付に……」
と、トーマスさんが言いかけたところで、二階からドタドタと大きな音が。何だろうとそちらを振り返ると……、
「おぉ~~~! お前ら、待ってたぞ~~~!」
満面の笑みでイドリスさんが出迎えてくれた。
そして職員さんに、煩いですよ! と叱られている。
( イドリスさん、ギルドマスターなのに…… )
そんな僕たちの呆れ顔も気にせず、イドリスさんはユウマを抱え、満面の笑みを浮かべていたのだった。
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