第212話 秘密の料理教室
「じゃあ皆、おやすみなさい」
「ちゃんと毛布を被って寝るんだぞ?」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさ~い!」
「おやちゅみなしゃ~ぃ!」
夕食後、片付けを終えのんびり過ごした後は各々寝室へ。
レティちゃんは自分の部屋があるんだけど、この家に来てからはトーマスさんとオリビアさんの部屋で一緒に川の字になって寝ているらしい。
とっても幸せそうな寝顔だと、オリビアさんが嬉しそうに話してくれた。
メフィストはと言うと、夜泣きもせずスヤスヤと眠っていると言う。
ハルトとユウマが赤ちゃんの時は、お母さんが夜中にあやして大変そうだったけど……。
やっぱり普通の赤ちゃんとは違うのかな……?
「皆様、おやすみなさい」
「ゆっくり寝てください」
「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」
フレッドさんとアーロさんのお二人は、サイラスさんとディーンさんと交代で警護に就く為、僕たちよりも少し遅めに寝る予定。
そしてライアンくんは、この家に来てからはずっと僕たち兄弟と一緒に寝ている。
ウェンディちゃんは机の上に置いたタオルのベッドでいっつもぐっすりだ。
「あ、」
忘れてた……。
「おにぃちゃん、どうしたの?」
「なぁに~?」
今朝の買い出しでネッドさんが少し多めにサービスしてくれた鶏のモツ、仕込むときにお鍋から溢れそうだったから冷凍庫に入れてたんだよなぁ……。
明日も仕込むし、解凍しとかないと……。
「ちょっとお店の方に行ってくるから、先に部屋行っててくれる?」
「「はぁ~い」」
「あ、私もお手洗いに行ってきます……!」
「うん! さきに、いってます!」
「おへや、いってりゅねぇ~」
「はい!」
ハルトとユウマが部屋に行き、僕もお店へ向かおうとすると……、
「ユイトさん……」
「あれ? どうしたの?」
すると、皆と別れた後でライアンくんがきょろきょろと周りを窺いながら僕をこっそりと呼んだ。
ハルトとユウマは先に部屋に行った後。
いつも傍にいるフレッドさんもサイラスさんも、寝る時だけはいないから内緒の話がある時はうってつけだ。
「あの……、えっと……」
「ん?」
もじもじと手を弄り、言おうか言うまいかと悩んでいる様子。
こんなライアンくんは久し振りだな、どうしたんだろう?
僕が目線を合わせてしゃがむと、ライアンくんは意を決した様に僕の目を見つめた。
「……明日、ハルトくんとユウマくんに……、お礼がしたいのです……」
「お礼?」
「はい……」
ライアンくんたちは明後日の早朝にこの村を発つ。
だからその前に、仲良くなった二人にお礼の料理を作りたいのだと言う。
何ていじらしいんだ……!
「でも……、二人に内緒でとなると……。かなり早起きしないといけないけど、大丈夫?」
ハルトも剣の稽古の時くらいしか離れないし、二人ともライアンくんとずっと一緒だからなぁ。
「はい……! 二人を驚かせたいのです……!」
「ふふ、分かった! じゃあ明日は一緒に作ろう!」
「あ、ありがとうございます……!」
「じゃあ起きる時はそ~っと、だね」
「はい!」
花が綻ぶような笑顔を咲かせ、嬉しいのだろうか、頬は少しだけ赤みが差している。
明日は何を教えようかな~?
どうせならハルトとユウマの好物で、喜んでもらえるもの……。
うん、あの二人なら何でも喜びそうな気がする……!
ライアンくんの期待に応えないと~!
*****
「……くん……、ライアンくん……」
「ん~……」
「料理、作るんでしょ……?」
「ハ……! そうです……!」
何度目かの声掛けで、漸くライアンくんの目が覚めたみたいだ。
まぁ、仕方ないよね。まだ夜明け前だし……。
スヤスヤと眠る二人とウェンディちゃんを起こさない様に、そ~っと部屋を抜け出すと、見張りをしているサイラスさんとディーンさんが僕たちを見てギョッとした表情を浮かべる。
「二人とも、おはよう……!」
「で、殿下……!? おはようございます……!」
「おはようございます……! まだ早いのでは……?」
いつもライアンくんが起床する時間よりかなり早いから、サイラスさんとディーンさんが驚くのも無理はない。
そうだ、どうせならお二人にも協力してもらおう。
ライアンくんにも耳打ちし、そうですね! と嬉しそうに承諾してくれた。
「お二人とも、少しいいですか……?」
「え? あ、あぁ……」
「何でしょう……?」
フレッドさんとアーロさんを起こさない様に、戸惑うお二人に小声で耳打ちすると、了解、と良い笑顔で快諾してくれた。
「では、誰かが起きてきたら足止めしておきましょう……」
「その間に私が店に向かい、報告すればいいですね……?」
「はい……! よろしくお願いします……!」
「二人とも、頼んだよ……!」
「「ハッ……!!」」
心強い協力者を得て、僕とライアンくんは早速お店のキッチンへ。
ライアンくんは少しだけ緊張している様だ。
「ライアンくん、ちょっとだけ座って待っててくれる?」
「あ、はい……!」
僕の言葉に一瞬戸惑ったものの、素直にカウンター席に座りソワソワしている。
まずは緊張を解さないとね。
「はい、これどうぞ。火傷しないように気を付けてね」
「わぁ……! ありがとうございます……!」
ライアンくんの前には、ホカホカと湯気を立てる蜂蜜入りのホットミルク。
僕も隣に座り、一緒に体を温める事にした。
「ん……、美味しいです!」
「ね、温まるね」
何気にライアンくんと二人きりで過ごすのは初めての事だ。
いつもフレッドさんとサイラスさんが傍にいるし。
「……ここに来る前は、少し不安だったんです……」
すると、ライアンくんが静かにポツリポツリと話し始めた。
「不安? どうして?」
「実は……、私には友人と呼べる者がいなくて……」
「そうなの?」
ライアンくんは人当たりも良くていつもにこにこしているから、てっきり友達も多いだろうなと勝手に思っていた。
「はい……。年が近いと言うと、フレッドとサイラスくらいしか、話す相手はいなかったのです……」
「え? お兄さんや学校の子たちは……?」
そう訊ねると、ライアンくんはふるふると首を横に振る。
「兄上たちは多忙ですし、同級生は皆、気を使っているのが分かるので……」
年の離れたお兄さんたちは国の為に勉学や訓練に励み、同じ城の中にいても話す機会も少ないらしい。
学校ではライアンくんは第三王子と言う立場もあり、同級生は遠巻きにして見ているだけだと言う。
加えてウォード家の人間が使う光魔法も上手く扱えず、余計に自信を無くしていたそうだ。
「でも、ここに来て……。ハルトくんとユウマくんに会えて! とても楽しかったんです!」
初めて友人と呼べる存在に出会い、目の前がパッと開けたような気がしたと嬉しそうに語るライアンくん。
その表情はとても穏やかだ。
「また、来年も……。遊びに来て、いいでしょうか……?」
僕の顔色を窺う様に、ライアンくんは小声でぽそりと呟いた。
「うん、もちろんだよ? その前に、王都に行ったら皆で一緒に遊ぶんだよね?」
「……! はい……!」
バージルさんの許可が下りたらと言っていたけど、たぶん大丈夫だと思うんだよなぁ~。
それよりも、バージルさんも面白がって一緒について来そうで怖いけど……。
まぁ、出掛けるのはダメでも、お城で料理教室をするからその時に遊べるもんね?
あ、お城だと騒いじゃダメだからちょっと心配かも……。
ハルトとユウマも、ライアンくんとすっかり遊ぶ気でいるし、僕もそのつもりでいるからね。
「よし! 体も温まったし、早速始めようか!」
「はい! よろしくお願いします! ユイト先生!」
笑顔で張り切るライアンくん。
だけどその呼び方、やっぱり照れちゃうなぁ……。
「? どうしましたか?」
「え? ん~ん、何でもないよ! がんばろっか!」
「はい!」
さ、秘密の料理教室、スタートです!
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