第211話 手紙の送り先
「へぇ? それでその子たち、無事に討伐は成功したのね?」
「あぁ。少々難儀はしたがな」
トーマスさんが帰宅し、皆で楽しく夕食の時間。
ハルトとユウマはもうすぐお別れだからか、ライアンくんの両隣に座り、炊き込みご飯を美味しそうに食べている。
ライアンくんの顔がいつかのトーマスさんみたいになってるけど、今は気にしないでおこう……。
まぁ、レティちゃんとウェンディちゃんが呆れた表情をしているけどね……。
「しかし災難でしたね。ゴブリンを退治しに行った帰りにコボルトに遭遇するなんて」
「いや、逆にそいつらにとっちゃ、トーマスさんが付いている時で幸運だったんじゃないか?」
「それもそうですね。あ、お替り頂いてもよろしいですか?」
フレッドさんとサイラスさんも夕食の炊き込みご飯を食べながら、うんうんと頷き合っている。
「しかしそのパーティも良い経験になったのではないでしょうか?」
「そうですね。帰りも油断は出来ないという事は身に染みたのではないかと。あ、ありがとう。ユイトくん」
アーロさんとディーンさんも、炊き込みご飯をお替りしながら真剣な表情だ。
皆さんお替りしてくれるのはいいけど、こんなに食欲旺盛なのに帰りの食事は大丈夫かなと心配になってしまう。
確か護衛の冒険者に、ブレンダさんも加わるんだよね?
「まぁ、怪我も無く無事に依頼もこなしたし、自信は付いただろうな。あの子たちなら過信せずに地道にランクを上げると思う」
「あら、良い子たちだったのね?」
「あぁ。オーウェンたちと似た雰囲気だったな。オレのアドバイスに真剣に耳を傾けている姿勢は高評価だ」
トーマスさんはよほどお腹が空いていたのだろう。
今手に持っている炊き込みご飯は三杯目。
それも大きな口を開けて美味しそうに頬張っている。
「しかしこれは旨いな……」
「あ、気に入ってもらえましたか?」
トーマスさんは炊き込みご飯をマジマジと見て、感心した様に声を漏らす。
「あぁ、初めて食べるのについ食べ過ぎてしまう」
「私もこの玉子、いくらでも食べれちゃう……」
「ぼくも! とっても、おいしいです!」
「ゆぅくんねぇ、じぇんぶしゅき!」
「わたしも!」
「あ~ぃ!」
「ふふ、嬉しいなぁ~! 全部、クリスさんが今日持って来てくれた食材を使ってるんですよ」
今日の夕食は、
・鶏ゴボウの炊き込みご飯
・だし巻き卵
・
・野菜たっぷりのけんちん汁
試しにと昆布だしを作ったんだけど、楽しくなっちゃって……。
一品だけにしようと思ってたんだけど、結局全部、昆布だしを使って作ってしまった。
鰹節も油揚げもこんにゃくもないけど、味見したらどれも美味しくて一安心。
考えたら出汁なら干し椎茸を自分で作ればいいんだよねぇ……。
明日試しに作ってみようかな……。
「メフィストも美味しい?」
「ん~ま!」
メフィストの離乳食は昆布だしを使った、
前はカロッテだけだと食べてくれなかったんだけど、出汁を使ったら面白いくらいにパクパクと食べている。
やっぱり出汁の旨味を感じるのかな?
「あ、トーマスさん。王都に来たら、ローレンス商会にも顔を出してほしいって会長さんに言われたので、行くって返事しちゃったんですけど……」
「んぐ……、商会って、あのローレンス商会の本部か?」
「はい……」
あれ? ダメだったかな……?
でもネヴィルさんの集めてる食材も見たいし……。
「ユイトは知らぬ間に、色んな所に知り合いを作ってるな……」
「ダメ……、でしょうか……?」
トーマスさんはフゥ、と息を吐き、炊き込みご飯を盛った器を置く。
「いや? あれだけ大きな商会だからな。オレも少し驚いただけだよ」
「じゃあ……、行っても、大丈夫ですか……?」
「あぁ、ユイトも色々見たいんだろう?」
「はい! あ、会長さんは皆で来ていいって言ってくれたので、皆で行きましょうね!」
「え? あ、あぁ……」
「よかったぁ~! 楽しみです!」
トーマスさんにも了承を得たし、今から行くのが楽しみだなぁ!
王都に行くのに結構時間が掛かるみたいだし、お店の事もあるけど……。
今は楽しみな事だけ考えよう!
「らいあんくんも、いっしょがいいです!」
「いっちょ! たのちぃの!」
「え? 私もですか?」
「「うん!」」
ハルトとユウマは、ライアンくんも一緒に行きたいと言い出しオリビアさんたちは少し困り顔。
今はこうして一緒に楽しく過ごせているけど、ライアンくんはこの国の第三王子。
王都に戻ったら忙しいだろうし、さすがに僕も簡単に行こうとは誘えなさそうだもんな……。
「ん~……。フレッド……、どうだろう……?」
「そうですね……。殿下は学業もありますし……。帰って陛下に相談してみない事には、何とも……」
「そうか……。では、父上の許しを得れば、私も行ける可能性があるのか……」
「まぁ……、そうなりますね……」
ライアンくんの言葉に、フレッドさんやサイラスさんたちも少し困惑気味。
まさか王子様が、ハルトたちと出掛ける為だけに国王様に外出許可をお願いするなんて……。
だけど、僕たちの心配などライアンくんはどこ吹く風。
「よし! ハルトくん、ユウマくん! 帰って父上にお願いしてみます! 一緒に行けるように祈っていてください!」
「わぁ~! ぼく、まいにちおいのりします!」
「ゆぅくんも~! いけりゅといぃねぇ!」
「はい!」
うふふ、と嬉しそうに笑う三人に、僕たちは何も言えないまま……。
あのフレッドさんでさえも、三人のほのぼのとしたやり取りに口を噤んでしまった。
「それにしてもユイトくん、王都に行ったらやる事いっぱいね?」
「あ、そうですね! 忘れない様にメモしとかないと!」
お城で料理教室と、孤児院の人たちにもお米の炊き方を教えて、騎士団寮にお邪魔して……。あ、このブレスレットをくれたお姉さんのお店にもお礼に行かなきゃ! あとローレンス商会に行って……、それから……。
『じゃあ、ユイトたちが王都に来た時はオレが案内するから。ちゃんと連絡してくれよ?』
うぅ……。アレクさん……、ちゃんと覚えててくれてるかなぁ……?
手紙を書きたいけど、何処宛てに送ればいいのか分からなくて数日が過ぎてしまった……。
オリビアさんに訊くのも、少し照れくさいし……。
「あ!」
「ん? どうしたの、ハルトちゃん?」
「はるくん、どぅちたの~?」
僕が悩んでいると、ハルトが良い事を思いついたとばかりに弾んだ声を上げた。
「おうとにいったら、あれくさんにも、あいたいです!」
「あれくしゃん! にぃに、あぇりゅかなぁ?」
何故か二人とも僕に訊いてくる……。
うぅ……! 考えていた事がバレている様で恥ずかしい……!
「え? あ、うん……! 会えるといいね……!」
オリビアさんやサイラスさんたちの、皆の視線が痛い……!
「おにぃちゃん、おてがみかいて!」
「え?」
「おてがみ? ゆぅくんもかく~!」
「あ、でも……。僕、何処宛てに送ったらいいのか、分からなくて……」
楽しそうにはしゃぐ二人には悪いなと思いつつ正直に話すと、皆はキョトンとした顔で僕を見つめていた。
「ユイト……。何で相談してくれなかったんだ……」
「ユイトくん……。アレクに手紙を出したいなら、私に訊けばいいのに……! いじらしい子ね……!」
僕が出したくても出せないと分かり、オリビアさんが目をウルウルさせながら僕を抱き締めてくる。
トーマスさんも立ち上がり、僕の髪を撫でてくれている。
ライアンくんもレティちゃんも、気を使ってか僕を心配そうに窺っているし……。
「ユイトくん……。手紙なら、私が届けましょうか……?」
「そうですね……。我々は王都に帰りますし、遠出の依頼を受けていなければアレクも王都にいる筈ですから……」
アーロさんとディーンさんが、優しい声色で僕に気遣ってくれているのが分かる。
うぅ……! 皆の暖かい視線が居た堪れないよ……!
「おにぃちゃん、おかお、まっかです……」
「おねちゅ? ゆぅくん、ちんぱぃ……」
「はるくん、ゆぅくん、だいじょうぶ……! おにぃちゃん、てれてるだけだとおもう……」
「あぅ~……!」
「「なるほど~……」」
うぅ……! 僕の弟と妹の優しい眼差しが痛い……!
かくして、皆の協力のおかげで(?)
僕はこの日、アレクさんに手紙を書く事が出来たのだった……。
あぁ、恥ずかしい……!
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