第181話 じぃじとおでかけ②


「「こんにちは~!!」」


 ギルド中にハルトとユウマの元気な声が響き、周りにいた冒険者が一斉に振り向いた。

 そんな事も気にせず、二人は仲良く手を繋ぎ、とことこと受付窓口へと向かう。


「「こんにちは!!」」

「はい、こんにちは! 本日はどういったご用件ですか?」


 タイミング良く空いた受付には、先日入ったばかりの新人職員が。

 その後ろには指導係のベテラン職員が付き、すぐフォローに入れる様に待機している。

 新人職員の方は、ハルトとユウマの事も見た事はないだろう。

 きっと、依頼者の子供か何かと思っているに違いない。


「きょうは、いどりすさんに、あいに、きました!」

「いどりしゅしゃん、きょうは、おちごときてりゅ?」


 二人は背伸びをし、カウンター越しに見える職員に必死に話しかけている。

 その後ろ姿に、オレもブレンダも思わず口を押さえてしまう。


「面会希望かな? 会う約束はしていますか?」

「やくそく、してません……」

「ちてないの……」


 約束をしていないと会えないと思ったのか、二人はしょんぼりと肩を落とす。


「あ、ごめんなさい! 約束があるならすぐに会えるんだけど、してないと少し待ってもらわないといけないの! ボクたちのお名前を教えてもらえるかな?」

「はい! ぼくの、おなまえは、ハルトです!」

「ぼくの、おなまぇは、ユウマ、です!」


 おっ! ユウマがちゃんと名前を言えてるな!

 ハルトがちゃんと言えたね、とユウマの頭をよしよしと撫でている。

 褒められたのが余程嬉しかったのか、ユウマはむふ~っと胸を張り何とも誇らしげな表情を浮かべている。


「ハルトさんに、ユウマさん、ですね? 確認致しますので、あちらでお待ちください」

「はい! ありがとう、ございます!」

「ありぁと、ごじゃぃまちゅ!」


 二人はぺこりと頭を下げると、受付職員も周りの冒険者たちも皆一様に笑みを浮かべている。


「おじぃちゃん! あっちで、まっててって!」

「ゆぅくん、ちゃんといぇちゃよ!」


 二人は嬉しそうにこちらに駆けよってくる。

 ……が、そこでユウマが誰かの足にぶつかってしまう。


「あっ!」

「ユウマ!」


 転ぶと思ったその時、ユウマをひょいと逞しい腕が抱え上げた。


「おぉ~、ごめんな? 痛くなかったか?」

「あっ! おぃちゃん! おひしゃちぶり!」

「ハハハ! 久し振りだな!」


 抱え上げたのは、以前ハルトとユウマと一緒に乗合馬車に乗った冒険者のドリューだった。

 久し振りの再会に、転びかけたユウマも笑顔を見せている。


「どこも痛くないか?」

「うん! ゆぅくんへぇき! ぶちゅかってごめんなちゃい……」

「いや、オレもちゃんと見てなかったからな。ごめんな?」


 ユウマに謝り、ドリューに謝り……、何度も繰り返し埒が明かない。

 アイツらは何をしているんだと周囲もチラチラと遠巻きに見つめている。


「ドリュー! すまないな!」

「おっ! トーマスさん……、って! 何だよその赤ん坊は!?」


 オレが声を掛けこちらに振り向いたと同時に、ドリューは目を見開きユウマを抱えながらズカズカと近寄ってくる。

 ハルトが必死に後ろを追いかけているのが可愛らしいな。


「可愛いだろう? 新しい家族だよ。ほら、メフィスト! ドリューにこんにちは~って」

「あ~ぃ!」

「か、かわいい……!」


 にぱっと笑みを浮かべ、ドリューに手を振る姿はとても愛らしい。

 隣にいるブレンダも、それを見て目尻が下がっているな。


「ハルトさ~ん! ユウマさ~ん! お待たせしました! お二階へどうぞ~!」

「「はぁ~い!!」」


 確認が取れたのか、名前が呼ばれ面会許可が下りた。


「よし、じゃあ大事な伝言を伝えに行かないとな?」

「「うん!!」」

「おぃちゃん、まちゃね!」

「あぁ、今度食べに行くからな!」

「ほんちょ? ゆぅくん、うれち!」


 にこにこと笑みを浮かべるドリューと別れ、早速二階へと続く階段を上ろうとするのだが……。


「うんちょ……、うんちょ……」


 オレはメフィストと荷物を抱えているので、既に両手が塞がっている……。

 荷物を置いて、ユウマを抱えればいいだけの話なのだが……。


「ゆぅくん、だいじょうぶ?」

「ん! だぃじょぶ! ゆぅくん、ひとりでのぼれりゅもん!」


 うんちょ、と階段を一段一段ゆっくり上っているユウマ。

 どうやら一人で二階まで行きたいらしい……。


「ユウマ、抱っこしようか?」

「んーん、じぃじはめふぃくんだっこしゅるの! ゆぅくん、だぃじょぶ!」


 メフィストが来てから、自分も兄だという自覚が芽生えてきた様で……。

 しっかりしてくるのはいいが、早過ぎるんではないだろうか……?

 おじいちゃんは少し寂しいぞ……。


「うんちょ……、」

「ゆぅくん! もうすこし、です!」


 ハルトはユウマの隣で応援している。


「うんちょ……、」

「ユウマ! あと二段だ!」


 ブレンダもユウマが落ちない様に、後ろから応援している。


「うんちょ……、」

「「「が、頑張れ~~っ!!!」」」


 いつの間にか他の冒険者たちも階段下に集まり、ユウマが一歩ずつ上るのをハラハラしながら見守り声援を送っている。


「うんちょ……、」


「ふぅ……、ちゅかれた~!」

「「「よっしゃぁあああ~~~っ!!!」」」


 二階へと辿り着き、ユウマがふぅ、と一息ついた瞬間、一階から割れんばかりの拍手と歓声が……。

 ユウマも照れた様にはにかみながら、下にいる冒険者たちにありぁと、と手を振っている。

 とてもあのむさ苦しいギルドの中とは思えない、平和な光景だ……。


「おいおい、どうした!? ……って、なんだこの状況は……」


 この歓声に驚いたのか、部屋からイドリスが大慌てで飛び出してきた。

 目の前にはハルトとユウマ、階段下には歓声を送る冒険者たち。


「いどりすさん、こんにちは!」

「いどりしゅしゃん、こんにちはぁ~!」

「おぅ、こんにちは! で? これは一体どうしたんだ……?」


 ハルトとユウマをひょいと逞しい両腕に抱え、イドリスは二人の顔を交互に見て問いかける。


「ゆぅくんが、ひとりでかいだん、のぼれました!」

「みんなねぇ、おぅえんちてくれちゃの!」

「ハハハ! それでこの大騒ぎか! お前らはホント退屈しないな!」


 確かに、騒ぎの中にはよくいる気がするが……。

 チラリとユウマを見ると、ユウマは応援してくれた冒険者たちに改めて手を振り、下に集まっていた奴らもようやく解散した。

 まぁ、たまたまだという事にしておこう……。


「いどりすさん、よっかごは、あいてますか?」

「四日後? えぇ~と……、あぁ! 確か休みだったな!」

「おにわでばーべきゅーしゅるの! いどりしゅしゃん、これりゅ?」

「庭で?」


 店じゃないのか? と不思議そうな顔を浮かべている。


「あぁ、人数が多いだろう? 店だと狭いから、どうせなら家の庭で食べようとユイトに言われてな。四日後でもいいか訊きに来たんだ」

「オレは大丈夫だぞ! たぶん他の奴らもイケるだろ! また伝えとくよ!」

「助かるよ。あぁ、そうだ! ユイトからもう一つ!」

「もう一つ?」


 これはイドリス用に、こっそり頼まれた伝言だ。


「当日は、お前の為にサンドイッチをたくさん準備しておくそうだ!」

「────!!!?」


 それを聞いた途端、イドリスの目がこれでもかと見開いた。



「マジかマジかマジかぁ~~~っ!!! やっぱりユイトは最高だぜぇ~~~っ!!!」



 イドリスの大声がギルド中に響き渡る。

 煩いですよ! と下にいる職員に注意されようが、イドリスはハルトとユウマを抱えながら飛び跳ねている。

 おいおい、床が抜けそうで怖いんだが……。


 だが、イドリスのあまりの喜びように、オレはもう何も言えなかった……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る