第178話 つまみ食いは厳禁です!
「ただいま戻りましたー!」
ジョナスさんのお店から戻ると、お店のキッチンではオリビアさんとハルト、ユウマが明日の仕込みを始めていた。
ハルトとユウマもピザは任せてと、自分たちから率先してお手伝いしてくれているみたい。
トーマスさんはメフィストを抱っこして、二人のお手伝いの様子を眺めていた。
「あら、ユイトくんこれなぁに?」
オリビアさんは僕が抱える紙袋を見て、興味深そうに覗き込む。
「紹介してもらった商店の会長さんに試供品を頂いたんです! もうジョナスさんのお店で最後だからって、全部くれました!」
「あらぁ~! だからそんなに嬉しそうなのね?」
「えへへ! 今日はこれで何か作ろうかなと思って!」
「まぁ、本当? 楽しみにしてるわね!」
「はい!」
僕がいそいそと袋を棚に収納していくと、オリビアさんはユイトくんは分かりやすいわねぇ、と言って頭を撫でてくる。
そんなに嬉しいって顔に出てたのかな?
「にぃに、なにちゅくるの~?」
ユウマがピザ生地を捏ねながら、僕に期待を寄せた目で訊いてくる。
「ん~? 上手く出来たら、モチモチしてとっても美味しいものだよ~!」
あれは料理と言うより、おやつ……、かな?
「ぼくも、たべたいです!」
「あ~ぃ!」
美味しいものと聞いて、ハルトとメフィストも食べたいと手を挙げる。
だけど……、
「あ、メフィストはまだ危ないから食べれないんだよ。ごめんね……」
喉に詰まらせると危ないから、メフィストはもう少し大きくなってからだな……。
「うぅ~……」
「あぁ~……、そんな悲しい顔しないで……! 今日は美味しいご飯作るから~!」
「あ~ぃ!」
「すぐ機嫌が直るのがメフィストの良いところだな」
「あぃ~!」
そう言って、メフィストの小さな手を自分の手のひらに乗せて遊んでいるトーマスさん。
その可愛がりっぷりには僕もオリビアさんも驚きだ。
「トーマスさん、顔がデレデレですよ……」
「ホントだわ……。皆に見せたいくらい……」
僕とオリビアさんの言葉に、トーマスさんはそうか? と言って顔を触っている。
無自覚って一番厄介なんだよね……。
まぁ、そんなトーマスさんの方が僕は嬉しいんだけど!
「さ、僕も頑張って仕込みやっちゃいますね!」
「おにぃちゃん、それなぁに?」
「ころころちてるの~」
仕込みも終え、夕食の準備に取り掛かる……、が。
今日はオリビアさんに任せて僕は手に入ったモチ粉で夕食後のデザートを作っている真っ最中。
「ん~、この形に丸めて、茹でて浮いてきたら完成なんだけど……。ハルトとユウマも、する?」
「「するぅ~!」」
元気よく返事をし、二人はやる気満々で張り切っている。
「じゃあ手を洗って、これくらいの大きさに千切って丸めてくれる? 僕はその間にタレを作っちゃうね」
「「はぁ~い!」」
丸めるのは二人に任せて、僕はかけるタレを作り始める。
材料は
鍋に片栗粉以外の材料を入れて火にかけ、ミリンの中のアルコール分を飛ばし、水に溶いた片栗粉でトロミを付けていく。
見た目はトロリとして美味しそうだけど、肝心の味は……、
「ん、美味しい!」
甘じょっぱくて完璧! これならトーマスさんとオリビアさんも気に入ってもらえそう!
「おにぃちゃん、できました!」
「いっぱぃ、ちゅくったの!」
ハルトとユウマの前には、白くて丸々した物がころころとたくさん並べてある。
これくらいの大きさなら喉を詰まらせる心配もないかな?
「ありがとう! じゃあ早速、茹でていきたいと思いまーす!」
「「はぁ~い!」」
沸騰したお湯にそ~っと入れ、ただひたすら浮いてくるのを待つだけ。
「あ! ういてきました!」
「しゅごぉ~ぃ! ぷくぷくちてる!」
お湯の中で白い塊がプクプクと浮いてくる様子が面白いのか、ハルトとユウマはカウンター席からそっと覗いている。
隣に座るトーマスさんも、興味津々のメフィストを抱え、鍋に視線を集中させている。
浮いてきたら少しだけそのままにして……、
「ん~、よし! 出来たかな!」
浮き上がってきたものを全て掬い取り、水気を拭きとって器に盛っていく。
その上からタレをかけて~……、
「よ~し! みたらし団子の完成~!」
本当は焼き目を付けたかったけど、今日は試作だからこれくらいでいいかな。
「あら、コロコロしてて可愛いわねぇ!」
「でも噛んだ食感は面白いんですよ?」
「面白い?」
「はい! 夕食後のお楽しみで……、あっ!」
オリビアさんは僕の前にあった器からひょいと団子を一つつまみ、そのままパクっと口に入れてしまった。
「「「あぁ~~!!!」」」
「んん~~! おぃひぃ!!」
僕とハルト、ユウマは驚きのあまり声を上げる。
だけどオリビアさんはもっちもっちと団子を頬張り、キラキラと目を輝かせた。
「お、オリビアさん……!」
「ごめんなさい、ユイトくん……! だけどこれ、とっても美味しいわ!」
謝りながらも次を食べたくて仕方ない様子……。
「おばぁちゃん、ずるいです!」
「ゆぅくんも、たべた~ぃ!」
「もう~、オリビアさん~!」
ハルトとユウマも夕食前に食べたいとごね出した。
オリビアさんは両手を顔の前で合わせてごめん、と言っている。
「今日だけだよ~? 夕食もあるから一つずつね。よく噛んでから、ごっくんするんだよ?」
「「はぁ~い!」」
今日だけ特別と言いながら、ハルトとユウマの口になるべく小ぶりな団子を入れていく。
すると、一口噛んだ瞬間に二人の顔が一気に明るくなった。
「「おいしー!!」」
二人とも両手を頬にあてて、僕が言った通りによく噛んでもちもちと食感を楽しんでいるみたい。
喜んでいる様で僕も嬉しくなってしまう。
ふとカウンター席を見ると、トーマスさんとメフィストが羨ましそうにこちらを覗いていた。
「トーマスさんも食べますか?」
「ん? いいのか?」
「はい、一つだけなら……。でもメフィストがいるので僕は我慢しようかな……」
一人だけ食べれないのは可哀そうだからなぁ……。
「う……、そうだな……。それならオレも……」
「あぅ~?」
「トーマスさんもいいですよ? 皆一つずつ食べてますし……」
僕がそう言うと、トーマスさんは唇を噛み締めメフィストをチラリと見た。
う~? と首を傾げるメフィストに、トーマスさんはグゥっと唸っている。
「~~~……っ! オレも! 我慢する!」
「あぃ~っ!」
トーマスさんの宣言に、メフィストはとっても嬉しそう。
その様子を見ていたオリビアさんはと言うと……、
「うぅ~~……、ごめんなさい……! あまりにも可愛くて美味しそうだったから、つい……」
「ぼくも、ごめんなさい……」
「ゆぅくんも~……」
メフィストが食べれないと気付き、ハルトとユウマも謝りだした。
「あぁ~……! みんなぁ~、ごめんなさい~~……!」
その様子に耐えられなくなったのか、オリビアさんは肩をシュンとさせて反省している。
「オリビアさん、これからはご飯前のつまみ食いはダメですよ?」
「えぇ……。こんなに心が痛くなるなら、つまみ食いなんて一生しないわ……!」
「ホントですか~?」
「ほ、ホントよ……!」
「じゃあ味見は?」
「あ、味見は……!」
僕の質問に、オリビアさんは困ったように眉を下げている。
ちょっと意地悪だったかな?
「ふふ、味見は大事ですもんね! さっきのは、団子の味見という事で!」
「~~~っ! ユイトくん! 愛してるわっ!!」
余程心が痛かったのか、オリビアさんはお咎めなしと分かると僕に抱き着いてくる。
い、意外と力強い……!
「おい! オリビア! ユイトが窒息するぞ!」
「え? あ! ユイトくん! しっかりしてぇ~!」
あまりの強さに、僕の体はフラフラだ……。
も、もう少し鍛えなきゃ……!
「おにぃちゃん、だいじょうぶ?」
「にぃに、おみじゅのむ?」
「あぶぅ~」
三人は僕を心配してくれているが、情けないところを見られて少し恥ずかしい……。
「うん、大丈夫……! メフィストは、大きくなったら一緒にお団子、食べようね……!」
「あぃ~!」
メフィストの嬉しそうな声を聞きながら、僕はもう少し体を鍛えようと心に誓った……。
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