第161話 指導者
「ハルトちゃん、ユウマちゃん、おばあちゃんの傍から離れちゃダメよ?」
「はいっ!」
「ばぁば、いっちょ!」
二人ともユイトくんが消えた事で動揺してるけど、不思議と取り乱してはいない。
私もそう……。
何故かは分からないけど、ユイトくんは生きてるって確信してる。
「らいあんくん、こっちです」
「は……、はい……」
「にぃに、だいじょぶ! ちんぱぃちなぃで?」
「ほ、本当に……?」
ライアン殿下は血の気が引いて危険だわ……。
でも馬車の中には戻れない……。
「師匠~! こちらへ! まだマシだと思います~!」
私たちの下へステラちゃんとエレノアちゃんが来てくれた。
有難いわ、この子の結界は頑丈だから当分もつハズ……!
「ステラちゃん! ありがとう、この子たちをお願い!」
「はいっ! 任せてください~!」
「エレノアちゃん、後ろはお願いね!」
「はいっ! お任せを!」
ステラちゃんの結界の中へ避難した殿下は、フラフラと座り込んでしまった。
「ご、ごめんなさい……。私……」
「らいあんくん、おかお、まっしろです」
「ゆぅくん、ちんぱぃ……」
一気に緊張が解けたのかもしれないわね……。
ハルトちゃんとユウマちゃんは殿下の傍を離れずに寄り添っている。
「マイルズさぁ~ん! 治癒お願いしますぅ~!」
ステラちゃんが大声で呼ぶと、回復役のマイルズくんが大きな体を揺らしながら走ってくる。
見た目は怖いけど、実はとっても穏やかな子なのよね。
「オリビアさん! 来ます!」
「えぇ! そっちは任せるわよ!」
「はいっ!」
私たちの周りにもとうとう魔物が近付いてきた。
ギギッと鳴き声を上げて私たちを囲もうとしている。
アーノルドや騎士たちが踏ん張っているけど、数が多すぎるわ。
トーマスは……、この靄の正体を探ってるみたいね……。
「あぁ~……、気持ち悪い……! あんなのをハルトちゃんとユウマちゃんに近付けたくないわ! ステラちゃん! 目隠しお願いね!」
「はぁ~い!」
ステラちゃんが返事をすると、透明だった結界の膜が一瞬にしてスモークを張る。
ゴブリンやオーク、なぁに? ワイルドウルフもいるの?
アドルフと違って凶悪な顔ね?
ますますあの子たちに見せられないわ!
「さぁ~! どっからでもかかってきなさい!」
*****
結界を張った後、師匠に目隠しをと言われてとっても簡単なスモークを張った。
そうしたら……、
「おねぇさん、まほうつかい、ですか?」
「おねぃしゃん、しゅごぃねぇ……!」
キラキラと目を輝かせてわたしを見上げる子供たち……。
「やぁ~ん! わたしの事は、おねぇちゃん、と呼んでください~!」
「「おねぇちゃん??」」
「ハァ~……! 全力でお守りしますからねぇ~っ!!」
ライアン殿下に治癒をかけているマイルズさんの視線が痛いけど、わたしは今日も殺る気十分です!
*****
───どこだどこだどこだ……?
この先にいるのは分かってるんだ……。
神経を研ぎ澄ませろ、気配を辿れ……。
───いた!
「グワァアアア────ッ!!!」
あの禍々しい渦の中から、一人の男が雄叫びを上げながら姿を現した。
その顔には見覚えがある。
「アイツは……!」
「まさか……」
「ノーマン……?」
「魔導士が関わっていると調べは付いていたが……。最高位のアンタが出てくるとはたまげたよ……!」
その男の名はノーマン・オデル。
宮廷魔導士の最高位に就く者だ。
そして……、
「なぁ? ノーマン師匠……?」
オレの、学園在学時の闇魔法の指導者でもあった。
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