第128話 行商市当日
「あらあら、こんなに頂いたの? すごいわねぇ~!」
隣村の人たちに貰った果物と、グレースさんにお土産で貰ったマフィンを手渡すと、オリビアさんはマフィンを見て明日のおやつにしましょうとホクホク顔で大事にしまっていた。
「ハルトとユウマはもう寝ちゃいましたか?」
「二人ともさっきまでは起きてたのよ~。寝室に行ったばかりだから、まだ起きてるかもしれないわ」
僕が帰ってくるのを待っていたけど、ユウマが眠そうだからハルトに手を引かれて寝室に向かったらしい。
二人に相談したい事があったんだけどな……。
また明日にしようかな。
「……それにしても、ユイトくん大丈夫? 何だかボ~っとしてるけど……」
「え? あ、そうですか……?」
僕は咄嗟に、アレクさんの触れた左頬を押さえてしまう。
「お出掛けして楽しかったんでしょう? 話は色々訊きたいけど……。明日も早いから、もう寝ましょうか」
「はい……。明日も、楽しみです……!」
「明日も、ね? 今日も楽しみだったものね?」
オリビアさんは笑いながら僕の頭を撫でてくる。
何だか見透かされている様な気がして、恥ずかしい……。
「う……、はい……」
「ふふ、じゃあ寝坊しない様に、ちゃんと寝るのよ?」
「はい、体を拭いたら寝ます。オリビアさん、おやすみなさい」
「えぇ、ユイトくんも。おやすみなさい」
体を拭いて寝室へ向かうと、まだ寝ていなかったのか、ハルトとユウマがおかえりなさいと出迎えてくれる。
「ただいま。遅くなってごめんね?」
そう言って二人を抱きしめると、とても嬉しそうに僕の事も抱きしめてくれた。
「おにぃちゃん、だいじょうぶ?」
「にぃに、おかぉずっとへん!」
「ユウマ……、それはひどくない……?」
ハルトとユウマも僕の様子がおかしいのか、ベッドに入ってもずっとこの調子だ。
ユウマに至っては、心に刺さるものがある……。
「ねぇ、ハルト、ユウマ。二人に相談したい事があるんだけど……」
「そうだん、ですか?」
「どぅちたの?」
二人は起き上がると、僕の話をちゃんと聞こうとしてくれる。
眠たいのに、ごめんね……!
「うん、明日お出掛けするでしょ? その時に、アクセサリーを売ってるお店があったら、オリビアさんとトーマスさんに何かプレゼントを買えたらいいなって思ってるんだけど……」
「ぷれぜんと……!」
「じぃじとばぁばに?」
「そう。お兄ちゃん初めてのお給料を貰ったから、何か記念になる物を贈りたいなぁって」
それを三人で選べば、僕たちからのプレゼントに出来るんじゃないかなと思ってるんだけど……。
「ぷれぜんと、ぼくも、したいです!」
「ゆぅくんも!」
「本当? なら明日、いいお店があったら三人で選ぼうね!」
「「うん!」」
二人は顔を見合わせて、楽しそうに笑っている。
「あ、それまでは誰にも内緒だよ?」
「だいじょうぶ、です!」
「ゆぅくん、ないちょ! できりゅよ!」
「よし! じゃあ寝坊しない様に寝よっか! ランプ消すよ~?」
「「はぁーい! おやすみなさい!」」
「うん、二人ともおやすみ」
ランプを消してベッドに潜ると、歩いて疲れたからか、僕はすぐに寝入ってしまった。
*****
「もうすぐかなぁ~?」
僕は待ちきれずに、お店の前でずっとソフィアさんたちが来るのをそわそわしながら待っていた。
すると、向こうから馬が走ってくるのが見える。
「あ! オリビアさぁ~ん! お迎えの馬車、来たみたいです!」
僕がお店の扉を開けて中にいるオリビアさんに声を掛けると、ハルトとユウマの手を引いてオリビアさんが出た来た。
ハルトとユウマは、小さい麦わら帽子を被ってご機嫌だ。
「はいは~い! 皆、忘れ物はないわね?」
「だいじょうぶ、です!」
「ゆぅくんも~! おやちゅもったよ!」
「あらあら、落とさない様に鞄に仕舞いましょうねぇ~」
「はぁ~ぃ!」
そう言ってユウマは、オリビアさんが作ってくれた肩掛け鞄に大事そうに昨日オリビアさんと作ったというクッキーと、グレースさんに貰ったマフィンを仕舞う。
なんだか遠足と勘違いしている気がしないでもないんだけど……。
可愛いからいっか……!
「皆さん、おはようございます! お迎えに上がりましたー!」
朝から元気いっぱいなのは、麦わら帽子を被ったマイヤーさん。
相変わらずアトラクションのお兄さんみたい。
「おはようございます、マイヤーさん! 今日はわざわざ迎えに来てもらって、ありがとうございます!」
「まいやーさん、おはようございます!」
「まぃやぁしゃん、おはよぅごじゃぃましゅ!」
「ハルトくんもユウマくんもおはよう! 今日は二人とも麦わら帽子を被ってるね! ボクとお揃いだ!」
「みんな、おそろい、です!」
「おちょろぃ! うれちぃねぇ!」
「アハハ! 相変わらず可愛いね!」
皆でお礼を言うと、マイヤーさんも時間が出来たので気にしないでくださいとキラリと光る爽やかな笑顔で答えてくれた。
「ソフィアさん、フローラさん、おはようございます!」
「ユイトくん、おはよう」
「おはよう、朝から元気ねぇ」
「えへへ! 楽しみにしてたので!」
オリビアさんたちも挨拶を済ませ、マイヤーさんの手を借りて皆で荷馬車に乗りさっそく出発。
村の門を出ると、昨日とは反対の道へ荷馬車を走らせる。
「ハルト、ユウマ、楽しみだねぇ~!」
「「うん!」」
二人が落ちない様にハルトは隣に、ユウマを膝に乗せ流れる景色を眺めていると、突然二人が畑仕事をしている人に向かって声を掛けた。
「おじさぁーん! こんにちはー!」
「きょうもぱちゅてく、いっぱぃ!」
その人たちは、首に掛けたタオルで汗を拭きながらこちらを振り向くと、途端に優しい笑顔を向けた。
「おぉ~! ハルトくん、ユウマくん! 久し振りだねぇ!」
「気を付けて行くんだよ~!」
「「はぁ~い!」」
二人は一生懸命手を振り、その人たちもまた、僕たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「あの人たち、知り合いなの?」
「まえに、くだものたくさん、くれました!」
「あ! あのギルドに行った時の?」
そう言えば、籠いっぱいに果物を貰ってたな……!
「ぱちゅてく、おぃちかったねぇ!」
「あぁ~、そうだ! 僕もお礼を言いたいから、そのお店を見つけたら教えてくれる?」
「わかりました!」
「おみしぇ、しゅぐあるの! だぃじょぶ!」
「そうなの? じゃあ、見つけたらよろしくね?」
「「はぁ~い!」」
二人と約束し、僕たちはまたのんびりと流れる景色を眺めている。
今日も晴れてよかった! こっちには
僕の膝で何やらごそごそしているユウマを見ると、鞄からマフィンを取り出して、ハルトと一緒に美味しそうに頬張り始めた。
さっき朝食食べたばっかりなんだけどなぁ~。
「にぃにもたべりゅ? おぃちぃよ?」
「とっても、おいしいです!」
二人は僕にくれようとしているのか、マフィンを千切って、僕の口元に届く様に小さな手を伸ばす。
「じゃあ、少し貰おうかな?」
「いぃよ~! あ~んちて!」
「あ~ん……。ん! 美味しい!」
「ねっ! おぃちぃね!」
ユウマがくれたのは、昨日お店で食べたバナナ入りのマフィン。
一日置いたからか、昨日とはまた違い、生地がしっとりして味が濃く感じる。
「こっちは、めーらがはいってます!」
「あ、ホントだ! これも美味しい!」
ハルトがくれたのは、
メーラのシャクシャクとした食感も楽しい。
二人に分けてもらったマフィンを味わっていると、ハルトがマイヤーさんにもあげたいと言い出した。危なくない様に先に声を掛け、速度を落としてもらう。
「まいやーさん、これとっても、おいしいです!」
「おや、ボクにもくれるのかい? 嬉しいなぁ! あ~ん……」
「どう、ですか?」
「……うん! とっても美味しいね! ありがとう、元気が出たよ!」
「よかったです!」
マイヤーさんはお礼に、と言ってハルトを自分の膝に乗せて馬を走らせている。
それにはハルトも大興奮だ。
ちなみにユウマは、僕の膝でマフィンを夢中になって食べていた。
「オリビアさん、ユイトくんの首のアレ……」
「あら、見つけちゃいました……? どうやら貰ったらしくて……!」
「まぁまぁ……! ユイトくんを見初めるなんて、見る目あるわぁ……!」
「ふふ! 実は今日、向こうで待ち合わせしてるみたいなんです……!」
「あら……! じゃあ私たちも、その方とお会いできるのね……?」
「「楽しみだわぁ~……!」」
まさかオリビアさんたちが、聞こえないところでコソコソとそんな事を話しているなんて、僕は全く想像もしていなかった。
*****
「はい! 到着でぇーす! 降りるときは足元に気を付けてください!」
隣街・アドレイムの門の前に馬車を停め、マイヤーさんが一人一人の手を取りながら馬車から降ろしてくれる。
今日は行商市があるからか、馬車は中を通れない様になっているらしい。
だからマイヤーさんとはここで一旦お別れだ。
「ばぁちゃん、また
「えぇ、えぇ、大丈夫よ。ありがとうねぇ、助かっちゃったわ」
「いいんだよ。今日はゆっくり買い物楽しんで! じゃあ、皆さんもまた後で!」
「はい! ありがとうございました!」
僕たちが手を振って見送ると、マイヤーさんはさっき来た道をまた戻って行く。
本当に優しいんだよなぁ、ここの人たちは。
「さ! ユイトくんのお目当ての物、頑張って探さなくちゃね!」
オリビアさんは何やら張り切っている様で、それにソフィアさんもフローラさんもうんうんと頷いている。
「
「え? でも重くなっちゃうし……」
確か、壺で売ってるんだよね……? 先に買っちゃうと大変そうだから、後でもいいかなと思ってたんだけど……。
「心配しなくても大丈夫。頼めば預かってもらえるわよ?」
「そうなんですか? じゃあ……、先に見ても、いいですか……?」
「ふふ。えぇ、ユイトくんには私たちお世話になってるものねぇ」
「遠慮なんてしなくていいのよ~」
「そんな! お世話になってるのは僕の方ですから!」
そんなやり取りを見ていたオリビアさんとハルトは、埒が明かないとばかりに僕の手を引き、門の方まで引っ張って行く。
「ほらほら! 早く行きましょう? 皆、門の所で待ってるわよ~?」
「え?」
門を見ると、そこには警備兵の人たちに混ざって、トーマスさんとバージルさんたちが待っていた。
ソフィアさんとフローラさんは、お待たせするなんて……! とあわあわしていたけど……。
約束の時間より少し早いくらいだから、大丈夫だと思うんだけど……?
「あ~! おじぃちゃんと、らいあんくんです!」
「ほんちょ! にぃに、はやく~!」
「あ、二人とも……!」
走ったら危ないよ、と言おうとして、門の前にいる人物に目が行ってしまう。
(アレクさん……)
その姿を認識した途端、僕の心臓はまたバクバクとうるさいくらいの大きな音を立てて、僕の身体中に響いている。
この音が皆に聞こえないか心配になるほどだ。
あぁ……、いままでどうやって会話してたんだっけ……?
僕はアレクさんを直視できないまま、オリビアさんに手を引かれ、待ち合わせ場所に歩みを進めた。
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