第102話 “オリーブの樹” 臨時開店
「あらやだ、これじゃ足りないわ……。ユイトくん、私お酒買ってくるわね?」
今朝はオリビアさんと二人で朝からバタバタと大忙し。
というのも、昨日遅くにトーマスさんから、今日の夜に食べに来てもいいかとお願いされてしまったのだ。
十歳の息子さんもいるらしいので、今日は大人用と子供用の料理を用意しようと思ってる。
「あ、それなら僕行ってきます! 他にも買いたいものあるので!」
「結構重たいわよ? 大丈夫?」
「はい! これでも力持ちなので! オリビアさんはこれをお願いしてもいいですか?」
「ふふ、じゃあ頼んじゃおうかしら! どれどれ……? 分かったわ、任せておいて!」
僕は今夜作る予定のレシピを渡し、いくつかの下準備をお願いした。
朝食の後、ハルトとユウマも生地作りを手伝ってくれていて、もう手慣れたもので自分たちで粉を量って準備している。
もちろん、お揃いのエプロンを着けてね。
僕の弟たち凄くない? 誰かに自慢したい気分だ……!
「ユイトくん、これが買うお酒の種類ね。毎年の事だから、お店の人に聞けば分かるから」
「はい、じゃあ行ってきます!」
「いってらっしゃい、気を付けてね!」
「「いってらっしゃ~い!」」
*****
今日は定休日だったからか、僕が買い出しに行くと皆に驚かれた。
事情を説明すると、皆揃ってあぁ~、と納得される。
毎年の事だからな、と言って頑張れと応援されたんだけど……。
今日の最初の目的地は、酒樽を店先に飾ってあるこのお店。
「おはようございま~す!」
「おや、ユイトくんじゃないか。おはよう、珍しいね?」
「ジェームズさん、おはようございます! 今日はこのお酒を買いたいんですけど……」
出迎えてくれたのは、立派な白髭をたくわえたおじいさん。
酒屋さんには白ワインくらいしか買いに来ないんだけど、今回はいろんな種類があって僕では時間が掛かりそう。
なので、来て早々店主のジェームズさんにお酒のメモを見せる。
これが確実だから……! 決して面倒臭がってる訳じゃない……!
「あぁ、オリビアさんの店でこの酒の数は……。例の客人かな……?」
首に下げた眼鏡をかけて、手渡したメモを繁々と確認するジェームズさん。
「分かりますか?」
「もう毎年の事だからね。なら気に入りそうなのは……、コレと、コレかな……?」
ジェームズさんはメモを片手に、酒瓶がズラッと並んだ棚から迷わずひょいひょいっと商品を取り、僕に手渡していく。
僕の腕には選んでもらったお酒が何本も……。
「すごいですね……! こんなに種類があると迷いませんか?」
「ワシは元々酒が好きだからね、覚えるのに然程苦労はしなかったよ。なんて言ったって新しいのを入荷する度に試飲が出来るだろ?」
天職だ、と言って茶目っ気たっぷりにウインクするジェームズさん。
すると、何かを思い出したような顔をした。
「以前ユイトくんが探してた料理用の酒だったかな? 似たような物があるみたいだから取り寄せておいたよ」
「えっ!? ほんとですか!?」
ウソウソウソ!!! ホントに!?
僕は飛び跳ねたい衝動を我慢して、腕の中の酒瓶を抱きしめた。
「ユイトくんの探してる物だといいんだけどね。届くまでもう少し待っててもらえるかい?」
「はい! 待ちます! ジェームズさん、ありがとうございます!」
この酒瓶を置いて抱き着きたいくらい嬉しい!
そんな僕を見て、ジェームズさんは困った顔で違っていたら怖いなぁ、と呟いた。
違っていても似たような物だったら買い取ります! と興奮しながら言うと、その時は安くしておくよ、と約束してくれた。
*****
僕が機嫌よく鼻歌を歌いながら店に戻ると、オリビアさんもハルトもユウマもきょとんとした顔で出迎えてくれる。
「どうしたの? とっても嬉しそうだけど?」
「おにぃちゃん、ごきげんです!」
「にぃに、どちたの? にこにこちてる!」
「えへへ~! 欲しかった物が手に入るかもしれないんです!」
僕がよっぽど嬉しそうだったのか、三人ともよかったねぇと笑っていた。
ハルトとユウマは、僕が嬉しそうだと自分も嬉しいなんて可愛い事を言ってくれる……。
二人をまとめて抱きしめると、二人のはしゃぎ声と共に後ろの方でオリビアさんの唸る声が聞こえた気がする。
……たぶんいつものだから大丈夫!
ジェームズさんは気にしていたけど、もし違ったとしても、お酒の原料がアレだったら……!
くふふ……! 最近の僕って、ツイてる気がする!
そしてそのままお酒をオリビアさんにお願いし、僕はその後も食材を買いに店通りと家を二度往復した。
*****
「さ、頑張ろうかな~! あ、ハルトとユウマも生地作るの上手くなったね! スゴイ!」
作業台を見ると、ボウルの中に丸ッとした生地が……。
ガス抜きだけはオリビアさんにお願いしておいたけど、ほとんど二人だけで作ってるからうちの弟は天才かもしれない……!
「「ほんと~?」」
「うん! あとは生地を休ませて……。また仕上げも手伝ってもらえる?」
「「うん!」」
「ありがと! 二人とも休憩してていいよ?」
僕が休憩用に果物を出そうとすると、ハルトとユウマも首を横に振る。
「んーん! まだ、おてつだい、したいです!」
「ゆぅくんも! おてつらぃしゅる!」
「えぇ~! いいの? 疲れてない?」
「うん! おてつだい、たのしいです!」
「みんなでいっちょ! たのちぃの!」
「「ねぇ~!」」
なんて良い子に育ったんだろう……! 僕が感動していると、オリビアさんはオニオンを切りながら静かにホロホロと泣いていた。
「おばぁちゃん、ないてます……!」
「ばぁば、どぅちたの?」
「オリビアさんはね、オニオンを切ってるだけだから。大丈夫だよ……」
僕がそう言うと、オリビアさんはこちらを向いて、力強く頷いた。
さて、今夜のメニューは……。
大人向けはお酒に合うものという事だったので、
・カプレーゼ
・
・
・オニオンリング
・パタータの揚げ物
・ピザ (マルゲリータ・炙り焼きチキン)
・
・アヒージョ
そして、ソーヤソースがあるので、
・ステーキ (
・豚の角煮
・焼き鳥・野菜串の盛り合わせ
なんかにも挑戦しようと思う。
なんだか居酒屋さんのメニューみたいだけど……。
息子さん用に準備するのは、
・ハンバーグ
・
・オムレツ
・
・グラタン
・
・ミートボール
・ミートパスタ
あともう一つ、これはその子が来てからのお楽しみかな。
量は多いけど、もし残っても外に護衛の人たちがいるらしいから、食べてもらえば大丈夫だろうって。
そんなに偉い人なのか……。
ちょっと緊張しちゃうかも。
モッツァレラチーズは、なぜかハワードさんが緊張しながら店まで持ってきてくれた。
本当は定休日だから配達の予定はなかったんだけど、牛乳とチーズを買いに行ったときに店番のダニエルくんに伝えたら、後で持って行くからと、大慌てで牧場まで知らせに行ってくれた。
残された従業員の人もオロオロしてたし、僕が取りに行ってもよかったんだけどな……。
本当に良い人ばっかりだ。
グルケのピクルスは、トーマスさんがアヒージョが好きだからピリッとするモノも欲しいかな、と思って、
美味しく出来るといいな。
「おにぃちゃん! できました!」
「こぇ、おもちろぃねぇ!」
「ありがとう。あ、キレイに刺せてるね! これならお店にも出せそう!」
二人にお願いしたのは、野菜を串に刺していく作業。
プチトマトやアスパラゴをベーコンでくるりと巻いて、それを三つずつ串に刺してもらう。
これなら食べやすいし、たくさん作ってもらおう。
「ユイトくん、お肉はこのくらいでいいのかしら?」
オリビアさんが、フライパンで焼き目を付けた豚バラを鍋で茹でてくれている。
おからやお米のとぎ汁があったらよかったんだけど、まだ見たこと無いんだよなぁ。
「はい、この串で刺して……、大丈夫です! あとは、このタレと一緒に煮込めば完成です!」
「このソース、色々使えるのねぇ~!」
「はい! 美味しくって最高です!」
僕が
コトコト煮込みながら次の作業をしていると、僕のお腹がグゥ~と鳴った。
「おにぃちゃん、おなか、なってます!」
「にぃに、ぺこぺこ? ごはんたべよ!」
「ふふ、そうね。そろそろお昼にしましょうか!」
「うぅ~……、賛成です……!」
まさか匂いにつられて鳴るなんて……!
だけど、かなり美味しそうに出来ている気がする!
ちょっと緊張するけど、食べた時の反応が見たい!
あ~ぁ、トーマスさん、早く帰ってこないかなぁ~。
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