第74話 冒険者はレベルが高い


「それで明日はハルトとユウマが店に出るのか?」


 トーマスさんが帰宅して皆で夕食の時間。

 メイソンさんは武器の修復作業があるから、五日後なら大丈夫だって。食べれないものも無いから、当日楽しみにしているって言ってたみたい。

 ハルトとユウマはご機嫌な様子で、オリビアさんに取り分けてもらったグラタンをはふはふ言いながらおぃちぃね、と頬張っている。


「そうなのよ。ユイトくんみたいにエプロンを付けて、店員さんになりたいんですって」


 可愛いわよね、とオリビアさんがグラタンを取り分けたお皿をトーマスさんに手渡し、にっこりと微笑んだ。


「エプロンを着けて、か……」


 トーマスさんが何やら難しそうな顔で、眉間に皺を寄せている。

 その表情にオリビアさんも僕も少し困惑気味。

 何かマズかったかな……?


「なぁに? どうかしたの?」


 オリビアさんも不安気に訊いている。

 やっぱり小さい子にさせるなんて、と反対なのかな……?



「いや、エプロンを着たハルトとユウマは可愛いだろうな、と思ってな」


 ん、旨いな。



 グラタンを頬張りながら、ん、旨いな。じゃないんですよ。


 そうだった……。ハルトとユウマに関しては、トーマスさんは気の良いおじいちゃんになるのを忘れてた……。

 オリビアさんも僕も、何か問題があったのかと心配しただけに、一気に肩の力が抜けてしまう。

そしてオリビアさんと二人で笑ってしまった。


「あ、そうすると明日はオレが一人になってしまうのか?」

「そうねぇ、依頼も受けないでしょう? 明日はのんびりしたら?」

「たまにはゆっくりしてください」


 最近はハルトとユウマと遊ぶために裏庭にプールを準備したり、ブランコを作ったりしてたからね。

 トーマスさんはうむ、と考え込んだ後、何かを閃いたように目を開けた。



「オレも明日、店に出てもいいか?」


 エプロンも欲しいな。



 言葉を失うって、こういう事なんだろうな……。

 まさかここまでとは……。

 オリビアさんも、トーマスさんがそんな事を言い出すとは思ってなかったみたいで、少し呆けた後、楽しそうに笑い出した。


「おばぁちゃん、どうしたの?」

「ばぁば、たのちちょ!」

「なんだ? ……やっぱりダメか?」


 トーマスさんは断られると思っているのか、心なしかしょんぼりと肩を落とした様に見える。


「ふふ! まさかトーマスが、お店に出たいなんて言うとは思わなくて!」


 オリビアさんは涙が出てしまったのか、笑いながら目尻を指で拭っていた。


「いいわよ! 明日は皆でしましょうか!」


 オリビアさんの返事に、言い出したトーマスさんも僕もビックリ。

 ハルトとユウマはやったぁ~! と、嬉しそうに跳ねている。


「ホントにいいのか?」

「えぇ、こんな楽しい事ないじゃない! もちろん、皆お揃いのエプロンでね!」



 夕食を食べた後はいつも皆でのんびり過ごすんだけど、今日は少し違う。

 オリビアさんの予備のエプロンを、ハルトとユウマ、そしてトーマスさん用に作り直さなければならない。

 ハルトは測り終わって、いまはユウマが両手を広げてオリビアさんに採寸されている。


「ばぁば、ゆぅくんのえぷぉん、あちたできりゅ?」

「えぇ、大丈夫よ~! 皆で一緒に着ましょうね?」

「うん! ゆぅくんうれちぃ!」

「おばあちゃんも、皆とお揃いで嬉しいわ!」


 ほのぼのとした光景だなぁ~、とハルトを膝に乗せソファーに座って眺めていると、ここで一つ問題が。


「あらぁ……? トーマス、あなたちょっと太った?」

「なに? 本当か?」

「少し腰回りにお肉が付き始めてるわよ?」


 ほら、とオリビアさんがトーマスさんの脇腹を指で摘まんだ。


「本当だな……。依頼の日までに戻さないと、アイツらに喧しく言われそうか……」

「ふふ、私はいいけど揶揄われるかもねぇ」

「ふむ……。鍛えなおすか……」


 あれで太ったって言えるのかな……? 僕はそっと自分のお腹をつまんでみる。


「おにぃちゃん、どうしたの?」

「え? んーん、なんでもないよ……」

「だいじょうぶ?」

「うん、だいじょうぶ……」


 ハルトが心配して声を掛けてきたから、僕はお腹からそっと指を放した。


 ……冒険者って、意識高いんだな……。

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