第59話 憧れの人


「うわ! うっま!! この肉うっま!!」

「このたまごサンドなに~? 私コレすっごく好きな味! サラダのソースと同じヤツ~?」

「へぇ! カルボナーラって初めて食べたけど、卵に絡めると美味しいね、気に入った!」

「このコロッケ? 美味しいですね、ジュリアンの分食べてもいいですか?」

「えぇー……、もう一皿お替りすればいいじゃん……」

「ボク、次はこのパスタ? が食べたいので」

「我がままだな、オマエ……」


 五人組のお客様が来店し、この人達がまたよく食べるよく食べる……。

 皆さん、一人で三回はお替りしてくれた。僕もオリビアさんも、イドリスさんたちの再来かと戦々恐々としていたけど、昼だからこれくらいでいいか、と五人で相談していた……。

 え、もっと食べれるんですね……。

 大きいお兄さんだけもう一回ビフカツサンドを注文してくれたけど、冒険者の人達ってこれが普通なのかな……? 




「オリビアさん、コロッケとトマトクリームパスタ上がりました~!」

「はぁーい! ありがとう! あ、」

「「いらっしゃいませー!」」


 あれから途絶える事なく、いい感じにお客様がご来店されています。


「あ! おにぃさん! いらっしゃいませ!」

「おねぇしゃん! いらっちゃぃましぇ!」

「こんにちは! なんか店内見たことあるヤツばっかりだね!」

「ホントね、キミたちのおかげじゃない?」

「あれ? ダリウスもいるじゃん! 珍しい~!」


 そう言って、カウンター席に座る五人組のお客様に手を振っている。

 お兄さんは片手をあげて、よっ! と挨拶している。口いっぱいにサンドイッチ頬張ってるからね。


「はい! きてくれて、ぼく、とっても、うれしいです! ありがと、ございます!」

「ゆぅくんもうれちぃ! ありぁとござぃまちゅ!」

「「「かわいぃ……!」」」


 しかも皆さん、ハルトとユウマに挨拶してるんですけど……? 宣伝効果、すごくない? 冒険者の人が来る度に、二人はぺこっと挨拶をするので、皆さん頬が緩んでいる気がする……。


 ハルトとユウマは店内が混んできたら部屋に行く約束で一度向こうに行ったんだけど、来る人来る人、あまりにもあの子たちは? と声を掛けられるので急遽呼び戻し、いまは部屋の椅子を持ってきて座ってもらっている。お昼もここで食べています。

 この大きいお兄さん、ダリウスさん達が席をちょっと詰めてくれたけど、この人たちのグループの真ん中にハルトとユウマが座っている形、おかしくない? 皆にこにこしてるからいいのかな……。


 店内は四名掛けのテーブル席が三つと、カウンター席が七つ。

 フローラさんとカーティス先生は、混み始めてからすぐご馳走さま、と退店した。カーティス先生はフローラさんを送って行くって。紳士だね。

 エリザさん達も食べ終わってすぐにお会計。お店があるからすぐに退店してしまった。エリザさんは今度は旦那さんと来るって。カーターさん夫婦はずっと仲良しだったからね。良いことです。


 皆さん、もっと長くいるのかと思っていたけど、ほんとにお昼ご飯を食べに来ただけですぐに仕事に戻るって感じだな。

 あの開店してすぐに来た三人組の冒険者のお姉さん達も、この後依頼があるから~って完食した後にすぐお会計をして行ってしまった。ハルトとユウマの頭を撫でるのも忘れずにね。皆さん、ご馳走さま、美味しかったよって言ってくれるからすごく嬉しい。






*****


「ふぅ~、一段落したわね……」


 オリビアさんが食器を洗い終わり、ふぅと一息ついた。

 いま店内にいるのは、僕たちとカウンター席のダリウスさん、仲間のコーディさん(犬の耳が可愛い)とジュリアンさんの男性陣だけ。

 お連れ様の女性陣二人は、カーターさんの服屋に行くと言っていた。


「皆さん、食べたらすぐ行っちゃいますね」

「やっぱりお昼の休憩時間に来るからじゃないかしら? 夜はもっとゆっくりお喋りしてたもの」

「冒険者の方が多かったですけど、普段も来るんですか?」

「えぇ~? 全くよ? 近所の人達か知り合いくらいしか来ないもの! ハルトちゃんとユウマちゃんが宣伝してくれたおかげよね~?」


 そう言ってオリビアさんはカウンター席でダリウスさんとコーディさんにかまわれている二人に話しかけた。


「ぼく、いっぱい、おねがい、しました!」

「ゆぅくんもねぇ、いっちょにおねがぃちたの!」

「「ねぇ~!」」


 二人は顔を見合わせて、ねぇ~と身体を傾けた。隣に座るコーディさんの尻尾が大きくゆらゆら揺れている。獲物を見ている様でちょっと怖い……。


「ユイトくん、少しトーマスの様子を見に行ってもいいかしら?」


 もうそろそろ閉店の時間だし、お客様もダリウスさん達だけ。一人でも大丈夫だな。


「はい、あとは大丈夫そうなので付いていてあげてください」

「ありがとう、ちょっと行ってくるわね」

「はい」


 オリビアさんはエプロンを取り、家へ繋がる扉の方へ向かった。僕達の会話を聞いていたのか、ダリウスさんが声を掛けてきた。


「トーマスさん、どっか具合悪いのか?」

「はい、ちょっと熱を出してしまって……」

「それは珍しいですね……。いつも自己管理を怠らない方のはずですが……?」


 そう言って耳をピンと立てるコーディさん。


「いやいや、オマエ怖いって」

「コーディさんはトーマスさんと仲がいいんですか?」

「いや、コイツが勝手に憧れてるだけだよ」

「トーマスさんはボクの目標とする方ですから」

「その割にいっつも恥ずかしがって話せねぇじゃん」

「緊張するのは仕方のない事です……」


 コーディさんはそう言って、立てた耳をぺたんと折ってしまう。いまにもきゅーんと泣きそうだ。


「おにぃさん、おじぃちゃん、あこがれ、ですか?」

「はい、昔助けてもらったことがあるんです。それからトーマスさんはボクの目標です」

「じぃじ、おにぃしゃんたちゅけたの? しゅごぃ……!」

「おじぃちゃん、かっこいい……!」


 トーマスさんがコーディさんを助けたと聞いて、ハルトとユウマは興奮で目がキラキラしている。僕もその話聞きたい……! 早く片付けて聞きたい……!


「そうなんです! トーマスさんは凄い方なんですよ! まだ幼い頃に弟と一緒にワイルドボアに襲われそうになっているところを、一瞬で倒して助けてくれたんです! それどころか、危ないからと家まで送ってくれて……。それからボクと弟は冒険者になると決めたんです! なのにあの日、ケイレブだけが誘われて、この店でトーマスさんと食事をご一緒したと聞いて、ショックでショックで……!」


 ん……? ケイレブ……? 弟……?


「あのぅ、コーディさんってもしかして、ケイレブさんのお兄さん……、ですか?」

「? はい、ケイレブはボクの弟です。それを聞いて、三日ほど口をきいていませんが」

「だから悪かったってぇ~! 俺が前の日から依頼受けてなきゃ、ギルマスはオレらも誘おうとしてたんだろ~? 拗ねんなって~!」

「いえ! 決して! 拗ねてなどいません!」


 思いっきり顔をプイっとして、誰がどう見ても拗ねてるコーディさん。ダリウスさんとジュリアンさんも苦笑いしている。

 ケイレブさんも少し子供っぽいところがあったけど、コーディさんも結構……、いや、ちょっと面白いかも……。


 僕達が話をしていると、オリビアさんが戻ってきた。

 コーディさんはバレない様に、スッと姿勢を正している。


「ごめんねぇ~、顔色もよくなったし、お腹空いたって言っててね。ユイトくん、昨日のハンバーグってまだあるかしら?」

「ハンバーグですか? 大丈夫ですよ。でもいきなりお肉って大丈夫なんでしょうか?」

「あれが気に入っちゃったみたいでね、朝から食べたかったんだって」

「じゃあトマトソースが余ってるんで、煮込みハンバーグにしましょうか?」

「ありがとう、お願いできる?」


 大丈夫ですよ、と答えると、オリビアさんはこういうところは子供みたいなのよねと笑っていた。


「ばぁば~、おにぃしゃんね、じぃじがちゅきなんらって!」

「おじぃちゃんに、たすけて、もらったって、ききました!」

「んなぁっ!?」


 コーディさんが耳と尻尾をピンと立てて驚いている。

 まさかハルトとユウマにバラされるとは思ってなかったんだろうな……。ダリウスさんは声を出さずに笑ってるし、ジュリアンさんも口を押えて肩を揺らしてる。

 それを聞いたオリビアさんは目を丸くしてコーディさんを見る。


「そうなの? 嬉しいわね! せっかくだしトーマス呼んできましょうか?」


 もう大丈夫だと思うから~! と、寝室の方へ向かって行った。とっても嬉しそうだ。

 それに反して、コーディさんは可哀そうなくらいとっても緊張しているのが目に見て分かる。


 僕がハンバーグの準備をしながら、会えるみたいでよかったですね、と言ったら、コーディさんは蚊の鳴くような声で、帰りたい……、と呟いた。

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