第26話 決戦は三日後
作戦会議を終えてハルトと一緒に店の前を掃除していると、警備兵のアイザックさんが通りかかった。
「お~! ユイトにおチビちゃん! 元気にしてるか~?」
「おじさん、こんにちは!」
「アイザックさん、こんにちは。いまからお仕事ですか?」
もう日暮れ近いのに革鎧に身を包み、腰には剣を差している。ハルトはそれを見てかっこいぃ! と、ぴょんぴょん跳ねている。アイザックさんも、そんなハルトの姿を見て嬉しそうだ。
「あぁ、今日は夜番の日だからな」
「よばん?」
「ん? 夜の見張りのことだよ。魔物や盗賊が襲ってくるのは夜の方が多いからな」
「盗賊も出たりするんですか?」
「あぁ。昼に堂々と襲ってくるなんてことはしないからな。昼間に様子を窺って、寝静まった頃に大勢で一気に来ることがある」
「とぅぞく、こわぃ、です……」
話を聞いて怖くなったのか、ハルトが僕の足にぎゅっとしがみつく。
「だから村を守るために俺たちがいるんだぞ~? おチビちゃんも知らない人についていかない様に気を付けろよ?」
「ぼく、つぃて、いきません!」
「よぉ~し! 偉いっ!」
アイザックさんはハルトの頭をわしゃわしゃと撫で、じゃあなと言って仕事に向かって行った。ハルトは小さく敬礼したまま、その後ろ姿を見送っていた。
*****
「ん~? どうしたの、ユイトくん。難しい顔して?」
ビックリした! 眉間に寄っていたらしい僕の皺を、オリビアさんが指でグイグイと伸ばそうとしている。
「え? 僕、そんな顔してました?」
「してたわよ~? ほら、あの子たちも真似してるでしょ?」
そう言われて横を向くと、ハルトとユウマが僕の真似をして眉間に力を入れていた。にらめっこしてるみたいでちょっと可愛い。
「なぁに? どうかしたの?」
「あ、いえ……。さっきアイザックさんに会ったんですけど、夜番って大変だなぁと思って」
「そうねぇ、寝ずの番だからね。最近はそんなに聞かないけど、昔はこの辺りも物騒だったからね。誰かが見張ってくれているおかげで、私たちも安心だもの」
「そうなんですね……。仕事中に、お腹とか空かないのかなぁと思って…」
「夜番は何かあったらすぐ対応できるように、座らずに食べれるものしか持っていかないわねぇ」
座らずに食べれるものか…。パンとか干し肉かな…? そういう仕事の人も気軽に食べれる料理があったら喜んでくれるかなぁ…?
ハンバーガー、ホットドッグ、サンドイッチ……。お米があったらおにぎりが作れるのになぁ~。夜は長いからボリュームあるほうがいいよね? カツサンドにコロッケパン……。ん~、あとはどんなのがあるかな……。
「あら~、また始まっちゃったわ……。ユイトくんがあぁなると、美味しそうなものばっかり言うからお腹空くのよね~」
「おにぃちゃん、また、いってます」
「にぃに、しゅごぃねぇ」
「ほんとねぇ~? でもおばあちゃん、そろそろお腹空いちゃったから……。お兄ちゃんにご飯の時間だよって、伝えてきてくれる?」
「「はぁ~い!」」
*****
「すみません、オリビアさん……。なんか夢中になっちゃって……」
「ふふ、ユイトくんほんとにお料理好きなのねぇ。ユイトくんが言うと全部美味しそうで困っちゃうわ」
「なんかいろんなもの試してみたくて……」
「いいじゃない! 美味しい料理が食べれるなら、大歓迎よ!」
オリビアさんはそう言って笑ってくれたけど、最近独り言が多いみたいだし気を付けないと…!
そんなことを考えていたら、出掛けていたトーマスさんが帰ってきた。
「おじぃちゃん、おかえりなさぃ!」
「じぃじ、おかぇり~!」
「ただいま。すぐ着替えてくるからな」
「「はぁ~い!」」
朝からおじぃちゃんがいないと拗ねていたから、トーマスさんが帰ってきて二人はご機嫌だ。
「オリビア、ユイト、ただいま」
「おかえりなさい! それにしても、随分大きいわねぇ~……」
「トーマスさん、おかえりなさい。それ、何ですか?」
「ん? 朝出かける前に言っただろ? お土産だよ」
トーマスさんがお土産として持って帰ってきたのは、“レッドカウ”という牛の魔物らしい。
素材は売って、お肉だけ貰ってきたと、何でもないような顔で言う。朝は新人冒険者に同行して、お昼は魔物を狩って来るなんて…。
ミートパイは明日の夜、オリビアさんに教えてもらえる事になった。レッドカウのお肉は脂肪分が少ないけど、すっごく柔らかくて美味しいんだって。
ハルトとユウマはお肉には興味は程々に。それよりも帰って来たトーマスさんにべったりだ。
「そうだ。アイツらが食べに来る日なんだが……。三日後で大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ。頑張りましょうね、ユイトくん!」
「はい! 精一杯おもてなしします!」
緊張と不安でドキドキするけど、ハルトとユウマのおてつだい大作戦もあるからね……!
当日は、心してかからなければ…!
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