第21話 サンドイッチとギルド御一行様


 買い物を無事に終え帰宅。

 今日の昼食はお店の定番メニューのニョッキを教えてもらう。

 トーマスさんがいないので、ハルトとユウマはお店のカウンター席で座っててもらうことにした。

 二人は興味津々といった感じで、こちらを覗き込んでいる。


「ハルト~? ユウマ~? 危ないからじっとしてなさい!」

「ぼく、ちゃんと、してます!」

「ゆぅくん、みてなぃよ!」


 そう言いながらも、可愛い頭がカウンター越しにひょこひょこ揺れている。

 オリビアさんが少し待っててね、と林檎メーラを渡し、いま二人は機嫌よく林檎メーラをシャクシャクと食べている。


 ニョッキの材料はじゃが芋パタータと強力粉、卵と塩を少々。材料はじゃが芋パタータの代わりに南瓜キュルビスを使っても美味しいらしい。

 ソースはトマトでもクリームでもなんでも合うというので、ハワードさんに貰ったばかりのチーズを使うことになった。


 まずはじゃが芋パタータを洗い、皮付きのまま蒸し器の中へ。

 蒸し器の水が沸騰するまでは強火、沸騰したら弱火に変えて、低温でじっくり蒸す。ザルにとって粗熱をとり、熱いうちに皮を剥いて水分をとばしたらすり鉢の中へ。

 すり潰したじゃが芋パタータに強力粉と塩少々を加え、捏ねないように気を付けながら木べらで切り混ぜていき、卵を加えて再度混ぜる。

 まとまってきたら両手でまとめ、押し潰すように両手で軽くこねて完成。


 鍋にお湯を沸かしておき、作業台に打ち粉をして転がしながら細長い棒状にし、約2㎝幅にカットしていく。親指で生地を押しながら軽く転がすようにし、フォークで押して、跡を付けてくるんとカーブができる感じに成形し、ニョッキの完成。


 沸騰したお湯でニョッキを茹で、浮き上がってきたらざるにあげ、フライパンにバターを溶かし、細かく削いだチーズ、塩と胡椒をほんの少し加えて味を調える。そこにニョッキを加えて軽く混ぜ、器に盛り付けたら完成!

 材料は簡単だけど、慣れるまでは時間がかかるかな?


 もう一品は、オリビアさんのリクエストで朝食に出した玉子サンド。気に入ってくれて嬉しいけど、朝も食べたのにお腹は大丈夫かな、と少し心配だ。


 ハルトもユウマも玉子サンドは好きらしく、とってもご機嫌で嬉しそうに頬張っている。

 トーマスさんはもう食べたかな? 気に入ってもらえたら嬉しいな。






*****



「ただいま」

「おかえりなさい、遅かったわね? 大丈夫だった?」


 日が暮れて村の明かりが消えた頃、ようやくトーマスさんが帰ってきた。ハルトとユウマは待つと言っていたが、我慢できずに寝てしまい、いまは二人仲良くベッドで眠っている。


「遅くなってすまない。イドリス達に捕まってたんだ」

「ふふっ、それは大変だったわね。お湯を準備するから待ってて」

「ありがとう、頼むよ」


 オリビアさんは少し笑いながらお湯とタオルを準備しに行った。トーマスさんの冒険者の知り合いかな? なぜか少し疲れた顔をしている。


「トーマスさん、おかえりなさい」

「あぁ、ユイトただいま。今日はありがとう、全部とても美味しかったよ」

「ふふ、気に入ってもらえてよかったです。オリビアさんもお替りしてくれたんですよ!」

「えっ!? オリビアが? ハハ! それは相当だな」



 トーマスさんが着替え終わり、トーマスさんとオリビアさん、僕の三人でテーブルに座り、僕の異変について話し合うことになった。


「なぜ今朝言わなかったんだ…」

「ごめんなさい…。トーマスさんの用事が遅れたら悪いなと思って…」

「オレのは少しくらい遅れても大丈夫だ。それにしても、ん~…、突然にか。しかも食材だけ…。時間が経ったら他にも見えるようになるかもしれないが…」

「そうなのよ。まだはっきりと分からないから、黙っておいた方がいいかと思うの」

「オリビアさん、これって何か困ることがあるんですか?」


 不要だったら消えるし、僕としては便利になっただけで、特に困りはしないんだけど…。


「“鑑定”はね、練度が上がると人・魔物・物質、なんでも問わず鑑定出来るようになるの。つまりは、カバンの中身や、人の嘘も、秘密も、全て知ってしまう場合があるのよ……。だから“鑑定”を持つ人は注意をしないと、それを悪用されたりするの。逆らえないように奴隷の首輪を使ったりしてね」

「奴隷の、首輪…」


 僕はそれを聞いて、少し怖くなってしまった。


「ユイト、そんなに怖がることはない。そんな愚かなこともする悪い奴がいるとだけ覚えておきなさい。オレとオリビアが付いてるんだから、心配しなくても大丈夫だ」

「ごめんなさい、驚かせちゃったわね。でも食材と違うモノにもそれが見えだしたら教えてちょうだい」

「分かりました。すぐに言います……」


 ちょっと便利だなくらいにしか思ってなかったのに、どこの世界にもそういう悪いことに頭が回る人がいるんだな、と少しショックを受けてしまった。



「…ユイト、こんな時に悪いんだが…。今度、知り合いが食べに来ることになってな…」

「? はい」


 気分がどんよりしていると、トーマスさんが気まずそうに話し掛けてきた。


「今日ユイトがサンドイッチを作ってくれたろう? あれを気に入ってしまったみたいで…」

「サンドイッチですか? 気に入ってもらえたなら嬉しいですが」

「それがなぁ…。そいつは冒険者ギルドのギルドマスターなんだよ。それと、他の冒険者仲間や職員も食べたいと言い出して…。全員で……、七、八名くらいなんだが」

「え? トーマスが断り切れなかったの? 珍しい!」

「いや、何というか……。自慢したくなってしまってな、すまん…」

「あぁ、なるほどね…」


 オリビアさんは、申し訳なさそうに眉尻を下げるトーマスさんに分かるわぁ、と言って肩を叩いていた。


「それでな、ユイト。申し訳ないんだが、そいつらに何か作ってやってくれるか? あとオレが今朝食べたオムレツも作ってやってほしい。あのチーズ入りの…」

「オムレツ? チーズ入り? 私は食べてないんだけど?」


 どういうこと? とオリビアさんがトーマスさんに怒り出したので、慌ててまた作ると約束した。

 オリビアさん、食べるの好きなんだなぁ。


「トーマスさん、その皆さんってどれくらい食べるんですか?」


 たくさん来るなら、食材の買い出しも仕込みもしないとね。


「…いやぁ、それがちょっと分からないんだ…」

「え?」

「とりあえず、この前ユイトの快気祝いに野菜なんかを貰っただろう? 片道分じゃなく、往復で貰った食材の倍は食べると思う」

「は…? 倍…? ですか…?」

「いや、最低で倍だな」

「イドリスは一人で、トーマスの三人分は食べちゃうもんねぇ。あ、そうだ! ユイトくん、開店前の練習だと思えばいいんじゃない?」

「練習ですか?」

「そうよ~! せっかく大人数で、しかも大食いでしょう? お客さんだと思って接客の練習をしてみたらどうかしら? ぶっつけ本番より、その方が失敗しても許されるでしょ?」


 そうか! トーマスさんの知り合いの人をお客様だと思って、案内から会計まですれば初日に緊張しないかも……!


「そうですね! それならその方たちにもお願いしてもいいですか?」

「いいのか? オレはムリ言った手前、有難いが…」

「いいじゃない! 面白そうだわぁ~! 私楽しみになってきちゃった!」

「なら奴らにもそう伝えておくよ。ユイト、すまんな」

「いいえ、考えたら僕もやる気が湧いてきました!」


 突然決まったことだけど、どうせなら美味しく食べてもらいたい! 明日からもっと頑張るぞ…!






*****


「ふふ、トーマス? あの子たちのこと、見せびらかしたくなっちゃったんでしょう?」

「いやぁ…、まさか自分がなぁ。孫を自慢するヤツの気持ちが分かった気がするよ」

「私もよ。あの子たちが来てから毎日笑ってるもの。トーマス、あの子たちを見つけてくれてありがとう」

「オレの方こそ、世話をするといった時、君が反対せずにいてくれて感謝してるよ」

「私たちで大事に見守りましょうね」

「あぁ、一緒に守ってやろう。さ、もう寝よう。おやすみ…」

「えぇ、おやすみなさい…」





◇◆◇◆◇


※作品のフォローや応援、ありがとうございます!

とても励みになります…!

まだまだ書きたいところには辿り着けていないのですが、引き続き楽しんでいただけるように頑張りたいと思います。

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