第2話 出会い②


「カーター、すまない。荷台に乗せるぞ」

「はい! あっ、そのままだとマズいですね……。この上に寝かせてください!」


 そう言ってトーマスは泥だらけで意識のない少年を、何枚にも重ねた麻布と毛布の上にそっと下ろす。

 そして少年の横に座り、胡坐をかいた自分の膝に幼い二人の男の子を座らせた。

 二人が座ったのを確認し、カーターは荷馬車を慎重に走らせる。


「トーマスさん! その袋の中に水と林檎メーラの実が入ってます! その子たちに食べさせてあげてください!」


 小さい麻布を開けると、そこには王都で購入した帰路用の食糧がわずかに残っていた。

 まずはこの幼子たちの顔についた泥とぐしゃぐしゃに泣いた涙の痕を拭ってやらねばと、布に水を湿らせ優しく拭いていく。

 ある程度きれいになったところでナイフを取り出し、メーラの皮を剥き食べやすい大きさに切ってやる。


「ほら、この実は甘くてシャリシャリして美味しいぞ。まだあるからゆっくり食べなさい」


 そう言って、キラキラした目で自分の手元を見る幼子たちに苦笑しながら渡していく。

 いちばん幼いこの子には危ないな、とトーマスはその子を自分の胸元に抱え込み、切り込みを入れたメーラを落とさないように手を添えながら与えていく。

 シャクシャクと可愛らしい音をさせながら嬉しそうに食べる二人を見て、やっと一息吐けた気になった。


「おじさんの名前はトーマスだ。君たちの名前を教えてくれるかい?」

「えっと、ぼくのおなまえは、ハルト、です。おとうとのゆぅく……、ユウマと、おにぃちゃんは、ユイトっていうの」


 小さい手でメーラの果汁でベトベトになった口元を拭こうとするので、水を湿らせた布でもう一度拭ってやる。

 水を飲ませ落ち着いたところで本題に入る。

 どうしてあんなところにいたんだ? と。


 そう尋ねた途端、その大きな瞳にいまにも零れ落ちんばかりの涙を溜めて、二人の顔がくしゃりと歪んだ。

 マズい、そう思った時にはもう手遅れだった。




 泣きながらも必死に話そうとするハルトの言葉を、頭の中でなんとか整理すると、祖母と母が死んで、いままで別々に暮らしていた父に引き取られた。

 父は仕事もせず酒ばかり飲み、この子たちに満足に飯も与えず暴力を振るっていた。

 そしてこの子たちの兄が弟たちを庇い、暴力に耐えていた、と……。


 どうしてあの場所にいたのかは分からない。

 でも父親が兄を殴っているときに、地面が揺れ家の中に土砂が流れ込んできたという。


 この近辺でそういった被害は聞いていない……。

 ……かと言って、この子が嘘をつくようにも見えない。



 ただ分かるのは、この兄弟たちにはもう、“帰る場所はない”、という事だけだった。



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