第296話 見上げてみれば
それから、どれくらいの時間が経っただろうか。
俺は目を開けるとその先にあったのは……見覚えのある天井だった。
宿屋の天井だ……魔界の宿屋。俺たちが泊まっていた宿屋だ。
と、身体を動かそうとするが……うまく動かなかった。手には包帯が巻かれている。
「……あれ。俺……どうなって……」
俺は目だけを動かして周囲を見回す。俺以外は……誰もいないようだった。
確か、俺はライカと戦って……それで……どうなったんだ?
決着が着いたような気もするし、そうではなかった気もする……よく思い出せなかった。
と、いきなり部屋の扉が開いた。
「あ……リア」
入ってきたのはリアだった。リアは扉を開けたままの格好で呆然と俺のことを見ている。
「あ……アスト……お、起きたのか?」
「え……? えぇ……あはは……結構寝ちゃっていましたか?」
俺がそう言うと、リアは何も言わずに俺の方に近寄ってくる。
そして、そのまま何も言わずにいきなり俺に抱きついてきた。
「ちょっ……り、リア? 何して――」
「……2週間だぞ」
「……へ? な、何がですか?」
俺がそう言うとリアは目に涙を一杯貯めて怒ったような表情で俺を見る。
「お前が寝ていた時間だ! 2週間も……どれだけ……寝坊助なんだ……!」
そう言ってリアはポロポロと涙を流す。
2週間……いや、たしかに長いことを眠っていたとは思ったが……そこまで眠ってしまっていたとは……。流石に俺自身でも驚いてしまった。
「……もう、大丈夫なのか?」
リアが不満そうな顔でリアは俺に今一度訊いてくる。
「え……えぇ。もう特にどこも痛くないですし……大丈夫ですよ」
「……そうか。他の皆にも伝えてくる。絶対に、動くなよ」
そう言って睨みつけるように俺にそう言うとリアは部屋から出ていこうとする。
「あ……リア!」
俺は思わずリアを呼び止めてしまった。
「ん? どうした?」
リアが不思議そうな顔で俺を見る。
「あ……いえ。その……ありがとうございます」
「……ありがとう、って……私は何もお前にしてやれていないぞ」
と、申し訳無さそうにそう言うリア。俺はリアに包帯を巻かれた手を見せる。
「これ、リアがやってくれたのでしょう?」
「え……な、なぜ分かった?」
「包帯の巻き方です。メルがもっと上手に巻きますから」
俺がそう言うとリアは恥ずかしそうにしながらも、少しムッとした顔で俺を見る。
「……そんなことが言えるようなら、もう大丈夫みたいだな」
「えぇ。大丈夫です。本当に、ありがとう」
俺がそう言うとリアは益々恥ずかしそうにしながら、部屋を急いで飛び出していったのだった。
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