第295話 血は争えない

「……ひえ~。まさかこんなのを最後に隠していたとはなぁ」


 それからはかなり一方的だった。


 ライカは無数の飛来する血の刃を速さで避けた。


 しかし、そのいくつかはライカの速さを凌駕していたようで、ライカの身体には複数の場所に切り傷があった。


「やれやれ……じゃあ、俺も全力出していいよなぁ!」


 そう言ってライカはまたバチバチと電撃を放つ。次の瞬間にはライカの姿は見えなくなった。


「目で追う必要などない。この場で流れる血は総て妾の支配下にあるものであり……お前の支配下にあるものだ」


 レイリアの声が聞こえる。俺は動かなかった。次の瞬間には目の前にライカの電撃を纏った拳が迫っていた。


 しかし――


「……血棘ブラッド・スピア


 俺がそうつぶやくと同時に、ライカの腕や足、そして、身体から流れていた血液が棘状に変化する。


「なっ……!?」


 さすがのライカも驚いたようだったが、対処できなかった。自分の身体から流れている血液がいきなり自分に襲いかかってくるとは誰も思うまい。


 それらの棘はライカの身体中を突き刺した。ライカはその場に倒れ込む。それと同時にライカの身体中からまた大量の血液が流れ出した。


「く……くそっ……また……こんな……転生しても、こんな……こんなインチキ能力かよ……お前は!」


 ライカは苦しみながらもそう叫び、なんとか反撃しようとバチバチと電撃を纏っている。しかし、先ほどまでの勢いはすでにない。


「決着だ。アスト」


 レイリアの声に促されるように、俺はライカに向けて手のひらを向ける。


 ライカの身体から流れた血液が先ほどと同じように浮かび上がり、刃の形に変化する。


 そして、それら無数の刃の切っ先がすべてライカを狙っていた。


「さぁ、アスト……お主を苦しめた仇に、苦しみと共に敗北を贈ってやれ」


 嬉しそうなレイリアの声。


 そうだ……俺は勝った。そして、今目の前にいるヤツは俺のことを苦しめた。


 俺が苦しんでいるのを仲間たちはきっと悲しい思いで見ていただろう……俺の仲間に悲しい思いをさせたヤツを俺は――


「アスト!」


 と、俺がライカに向けて刃を放とうとした……その時だった。後ろから、いきなり抱きしめられた。


「もういい! もうアストが勝った! それ以上はしなくていい!」


 それは……懐かしい仲間の声だった。


 俺はゆっくりと背後を振り返る。


「……リア」


 そこには涙で顔をぐちゃぐちゃにしたリアが、俺のことを心配そうに見ていた。


「だから……もう頑張らなくていいんだ……!」


 そう言ってリアは俺を安心させるために、無理やり微笑んだ。


 ……あぁ。そうか。もういいんだ。リアが笑っている。俺は……勝ったのだ。


「……まったく。本当に、似ているな、あの不出来な妹に……まさしく、血は争えない、というヤツだな」


 そう言って呆れる様子のレイリアの声を最後に、俺の意識は途絶えたのだった。

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