第294話 真なる力

「……なんですか。まだ、話があるのですか?」


 俺がそう尋ねると、レイリアはクックックと嬉しそうに笑う。


「お主は、妾の能力が少しばかり早く動けることと、少しばかり強い力が出せるだけと思っているのか?」


「……違うんですか?」


 馬鹿にしたつもりで強がってみせるが……レイリアにも流石にわかってしまっているらしい。


「フッ……無礼も今は許す。とにかく、妾の能力はそんなものではない。『真なる吸血鬼』の名前、伊達ではないことを証明してやろう」


「……どうやって?」


「剣を掴め、アストよ」


 俺は目の前の地面に落ちている吸魂の剣を見る。未だに帯電していてバチバチと電撃を放っている。


「……見てわかりませんか? 無理です」


「いいから、今から妾の言う通りにせよ」


 俺はちらりとライカの方を見る。


「どうした? 降参か? ま、降参するんなら、お前も仲間もここで消し炭になってもらうけどな」


 そう言ってバチバチと電撃を放つライカ。選択肢は……一つしかないようだった。


 俺はゆっくりと吸魂の剣に近づいていく。放たれる電撃は強さを増していく。


「拾おうなんて考えない方がいいぞ? 握ったりしたらそれこそ、勝負あり、だからな」


 余裕の表情でそういうライカ。俺はそれでも剣に近づいていった。


 そして、電撃が今にも襲いかかってくるほどの距離まで近づいた。俺は剣に手を伸ばす。


「良いか、アスト」


 と、レイリアの声が聞こえてくる。


「剣を握り、意識が保つ間に……自身を貫け」


「……は? なんですって?」


「一瞬で良い。魂を吸わせるのが目的ではないからだ」


 レイリアはそう言う。これは……罠ではないのか? 俺の身体を乗っとろうとしているだけではないのか?


 剣は相変わらずバチバチと電撃を放っている。しかし、この剣以外に今俺には武器がない。


 そして、レイリアの言葉以外に、今俺には……勝利のための道筋がない。


「……わかりました。アナタを信じるわけではありません。皆のためです」


 そう言って俺は剣に手を伸ばし……一気にそれを握った。


 バチバチ! と剣から電撃が身体に流れてくる。


「ぐっ……がっ……!」


 身体が焦げるのがわかる。意識がそのまま飛びそうになる。


「刺せ! アスト!」


 レイリアの声でなんとか意識が保てた。俺は剣を思いっきり腹に突き刺した。


 瞬間、周囲に血しぶきが撒き散らされる。電撃を放つ剣を俺はそのまま引き抜き、さらに血があたりに飛び散った。


「……なんだ? 自殺する気か? それで、仲間だけは助けてほしいってか?」


 ライカがつまらなそうな顔でそう尋ねる。俺自身も今の行動に説明がつかない。


「よくやったな、アスト。さぁ……『真なる吸血鬼』の血を支配する力……存分に扱うが良い」


 大量に血液を失っているはずなのに、意識ははっきりとしていた。それどころか、自身の血液総てに意識が行き渡っているのがわかる。


 俺は理解した。これが……これがレイリアの……『真なる吸血鬼』の力だとうことを。


 そのまま俺は、ライカに向かって手のひらを向ける。


「なんだ? 血を失いすぎておかしくなって――」


「……血雨ブラッド・レイン


 そうつぶやくと同時に、周囲に散らばっていた血液がまるで生き物のようにひとりでに浮かび上がり、鋭い形状へと変化した。


「……ほぉ。面白いじゃねぇか」


 ニヤリと微笑んだライカに向かって、無数の血液で出来た刃物達は、一気にライカに向かって飛びかかっていったのだった。

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