第282話 解放感

「……はぁ……はぁ……なんとか……出ることができましたね……」


 背後では轟音を立てて、岩が崩れていく。そして、洞窟は完全に塞がってしまった。


「まったく……流石に今回ばかりはダメと思ったわね……」


 メルも肩を大きく上下させてそう言う。他のメンバーも同様に疲労しきっていた。


「あ、あはは……それにしても……ホント……良かった……で、す……」


 そして、それを確認した瞬間……俺は全身の力が抜けていくのを感じた。


 それと同時に青空が目の前に見える。


「あ、アスト!? 大丈夫!?」


 メルの声が聞こえる。その時に、俺はようやく、自分自身が転倒してしまったことを理解したのだった。


「……レディームの魔法がかかったままで何時間もいれば、体力の限界が来るのは当たり前だね」


 ミラの声も聞こえる。


「……じゃあ、さっさとアンタがその魔法を解除してやらないといけないんじゃないの?」


 メルに言われると、ミラが俺に杖を向ける。それと同時に身体が信じられない程軽くなった。


 俺は即座に起き上がることが出来た。


「え……アスト、アンタ……大丈夫なの?」


「え、えぇ……むしろ、今までの状態が嘘みたいで……」


 心配するメルを他所に、俺の身体は絶好調であった。


 まるで今まで鎧を着ていたかのような重さがあったが、今は……身体そのものが重さがなくなってしまったかのような解放感が全身を覆ってくれていた。


「どうだい? すごいだろ?」


 ミラは得意げな顔でそう言う。


「……もしかして、ミラ。最初から、これを狙って……?」


「あぁ、そうさ。これで君は腕輪をつけていた時に近い動きをすることができるはずだ。剣を持ってごらん」


 ミラに言われるままに、俺は剣を手にしてみる。剣を手にするといっても……剣自体に重さを感じない。まるで剣が自分の身体の一部になったかのようだ。


「そうだな……そこの木、試し切りしてみたらどうだい? 一瞬で切り倒せるはずだよ」


 ミラが指差すのは、近くにあった木であった。それなりの太さで、斧でなければ切り倒すのは、普通は無理であろう。


 そう。普通、ならば。


「……アンタねぇ。いくらアストでも、あの木を切り倒すなんてことは――」


 メルが最後まで言い終わらないうちに、俺は木に向かって剣戟を放った。


 それと同時に、明確に木を切った感触があった。


 そして、そのままそこにあった木が大きく傾いたかと思うと……そのまま前方に向かって音を立てて倒れ込んでしまったのであった。


「……斬れました」


 俺自身も驚いてしまっていた。リアも、メルも、サキも唖然として俺のことを見ている。


「そりゃあ、ウチが命を賭けたんだ。それくらいできるようになってないと困るよね」


 唯一、先程まですまなそうな表情をしていたミラが、まるで水を得た魚のように、得意げで満足そうな表情で、俺が一瞬で切り倒した木のことを見ていたのであった。

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