第281話 崩落
破壊音とともに、岩が崩れ落ちる。
「あ、危ないから離れなさい!」
メルの声で俺は我に返った。そして、慌てて俺は、皆のもとへと向かう。
そして、しばらくすると岩の崩落も落ち着いてきた。それとともに、俺が一体何をしたのかもわかるようになってきた。
「岩が……割れてる」
リアが信じられないという顔でそう言った。しかし、現実はその通りだった。
今まで俺たちの目の前に立ちふさがっていた大岩は見事に真っ二つになっていたのだ。
そして、岩が真っ二つになった向こう側が見える。
「ちょっ……ま、不味い! もう少し離れるわよ!」
メルの言葉で俺たちはそのまま岩から離れる。
「ど……どうしたんですか?」
「ゴブリンが言ってたでしょ? この岩の先は毒の吹き溜まりだって……岩を破壊したことで毒が漏れ出してきているのよ!」
メルに言われて俺は思い出した。そうだ……そうなると、この先にいるミラを助け出すには……。
「……メル。この毒は……魔法で回復するものですか?」
「え……まぁ、一応は和らげることはできるけど……まさあ、アンタ……だ、ダメよ! アンタの今の状態では――」
メルの言葉を最後まで俺は聞かなかった。とりあえず、この毒は魔法で治癒できるかどうかだけを確認したかったのだ。
俺はそのまま岩の隙間から、向こう側へと進んでいく。
「ミラ!」
大きな声を出した瞬間、毒が身体の中に入り込んできた。
「うっ……し、しかし、耐えられない痛みでは……ない!」
そう思って周囲を見回す。
「あ!」
捜索対象はすぐに見つかった。岩陰にぐったりとした様子でミラがもたれかかっていた。
「ミラ!」
俺が近付いていくと、ミラはゆっくりと目を開く。そして、かすかに微笑む。
「アスト君……! 来てくれたんだね……」
「えぇ。さぁ、ここから出ましょう!」
俺は有無を言わさずミラを背負う。そして、岩の裂け目を抜けて今一度皆のもとへ戻ってきた。
「あ、アスト……大丈夫なのか?」
リアが俺のその姿を見て心配そうにそう言う。
「俺は大丈夫。さぁ、メル。ミラの治療を!」
メルは少し複雑そうな顔をしたが、すぐに諦めたように治癒魔法をミラに施す。
程なくしてミラの顔色は良くなり、起き上がれる程になった。
しかし、起き上がったその時であった。
パシン、と乾いた音が洞窟内に響く。
「メル……」
メルがミラの頬を叩いた音だった。
「……ごめん」
ミラは反抗することもなく、小さくそれだけ言った。それを聞くと、メルは満足そうにうなずく。
「アンタが謝るってことは、悪いことした自覚はあるってことね」
メルにそう言われるとミラは何も言えなくなってしまった。
「まぁまぁ……無事にミラも帰ってこられたわけですし……」
俺がそう言うとミラは鋭い目つきで俺を睨む。
「……アンタがそんな感じだから、この子がこういうことするの、わかる?」
「あ……すいません」
なぜか俺も謝るハメになってしまった。メルは機嫌が悪そうだった。
「あー……すいません。みなさん、お取り込み中なんですけど……」
と、そんな折に入ってきたのは……サキだった。
「何? どうしたの?」
メルに怒り気味にそう言われながらもサキは続ける。
「なんか……洞窟が……揺れているみたいなんですけど……」
サキの言葉で俺たちはようやく、洞窟全体が揺れており……崩落の危険性が迫っていることを把握したのであった。
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