第251話 勇者の復活

「……ったく。やれやれ。長い間閉じ込められて出てきてみりゃあ、周りは雑魚ばっかり……つまんねぇなぁ」


 そう言って、俺……の姿をした何者かはリアを引きずりながら悪態をつく。


「お前もそうだぜ? 頑丈さばっかりが取り柄でまるで弱すぎるんだ。ま、頑丈だからこそ、俺のおもちゃにはふさわしいけどな」


 そう言って何者かはリアを投げ捨てると、その頬に剣先を立てる。


「……お、お前なんかの……おもちゃなんかにはならない……」


「はぁ? クソ雑魚のくせに何言ってるわけ? あんま調子乗った発言してると、マジで顔面ぐちゃぐちゃにしちゃうよ?」


 そう言ってリアの頬を剣先で傷つける男……いや、やはりどう見ても男は俺自身だ。


 でも俺の意識はここにある。俺の意識が抜けて俺の体が勝手に動いている……じゃあ、その身体を動かしている意識は――


「……まさか」


 ……いや、可能性は一つしかない。というよりも、俺はその可能性を考えないようにしていたのだ。


 俺はふと、勝手に動いている俺自身の身体の一部分……正確には、右腕の腕輪を確認する。


「……ない」


 俺は……俺の身体は腕輪をしていなかった。転生の腕輪がない。俺の身体から外れるはずのない腕輪がない……これは一体――


「あ」


 俺はその時発見してしまった。俺から少し離れた場所に……転生の腕輪が転がっていたのだ。


「な、なんで……こんな――」


「いやぁ~、しかし、あの馬鹿が力を限界まで引き出してくれたことには感謝しなきゃなぁ~。そうでなきゃ、こうしてお前で遊ぶこともできなかったわけだし?」


 俺が混乱していると、下卑た声が聞こえてくる。


「おかげであの忌々しい腕輪とおさらばできたし? この身体は俺が完全に乗っ取ったし? あの馬鹿、さすがに哀れすぎて同情してやりたくなるよなぁ?」


 ……このゲスな喋り方、そして、態度……さらに腕輪がはずれて、地面に転がっているという事実。


 そのすべてを総合すると、今俺の身体を動かしている意識は――


「……お前なんかに……アストは負けていない……! アストは必ず……戻ってくる……!」


「……はぁ? 戻ってくる? ……そんなわけねぇだろ!」


「ぐふっ……!」


 そう言って倒れているリアの頭を思いっきり踏みつける……他人に対してこんな非道な行動をとることができる人物を俺は一人しか知らない。


 今、俺の身体に入っている意識は――


「この身体はもう俺のものなんだよ! この世界最強の勇者、アキヤ様のな! クックック……アヒャヒャヒャ!」


 リアの顔を踏みつけながら、俺の……ではなく、アキヤの邪悪な笑い声が洞窟中に響き渡っていたのだった。

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