第244話 不死身の岩龍

「えっと……不死身って……どういうことです?」


 あまり信じたくない気持ちだったが、俺は今一度キリに訊ねてみる。


「……何度か、攻撃魔法で攻撃してみたんですが、まるで効いてないというか……まるで、そこが元に戻っているみたいで……」


 ……元に戻る。普通どんなに弱い攻撃であっても、攻撃すればその部分にダメージはあるはずだ。それなのに、それが元に戻る……どういうことだ?


「……というか、キリ。アナタ……攻撃魔法って使えたんですか?」


 思わず俺はずっと気になっていたことを聞いてしまう。と。キリはブスッとした顔で俺を見る。


「あのですね……もしかしてアストさん、私が姉様と同じ魔法しか使えないと思っていませんか?」


「あー……あはは……い、いや、この前は攻撃魔法が使えるって話はしなかったので……」


 明らかに目が泳いでしまっているのがバレてしまっているのか、キリは完全に不機嫌そうだった。


「……とにかく、実際に見てみるのが一番です。アストさん、時間、稼いでください」


 と、急にキリは何かしら呪文を唱え始める。どうやら、本当にちゃんとした攻撃魔法が使えるようである。


 そうとなれば俺は囮……と、俺がいなくなってはまずいと思い、メルとサキのことを見る。


 と思ったが……いつの間にかメルもサキもいない。どこかに隠れたのだろうか?


「アスト!」


 リアの声が聞こえた。いつの間にかリアはドラゴンゴーレムの目の前に陣取っている。


「私は囮になるぞ! 協力してくれ!」


 ……こうしてはいられない。俺もリアに協力しなければ。


 俺もリアの方に向かって駆け出す。それと同時にドラゴンゴーレムが低い唸り声を上げる。


『ギゴゴゴゴゴ……!』


 それと同時に、ドラゴンゴーレムが片手を上げる。まずい……重い一撃が来る……!


「リア、構えてください!」


 俺がそう言うと同時に、ゆっくりとドラゴンの片手が地面に下ろされる……それと同時に凄まじい地響きと、衝撃波が襲ってくる。


「う……うわぁぁぁ!」


「り、リア!?」


 と、リアが衝撃はにふっとばされて飛んでいってしまった。いやいや……それはそうだろう。明らかに俺たちが普通に相手ができるモンスターじゃない。


 俺はチラリとキリの方を見る。まだ詠唱は続いているようだ。


「……やはり、俺がやるしかないな」


 俺は剣を構えると同時に、腕輪に祈りを込める。


(……結局、俺に頼るのか?)


 ……声が聞こえてくるが、相手にしてはいけない。その通りだ。俺は頼っている。その頼る相手がどんなにクズな勇者だったとしても、俺は――


「みんなを守れるなら……存分に頼りますよ!」


 腕輪が輝くと共に俺は瞬時に移動する。


 振り下ろされた手を辿って、そのまま龍の頭部にまで移動する。


『グゴゴゴゴゴ……!』


 またしても不気味なうめき声を上げている。俺は頭部にまでたどり着くと、そのまま剣を頭部に突き立てるが……ガキン、と固い音が響くだけである。


 ……そりゃあそうだ。俺が今持っている剣は岩を砕けるようなものではない。たとえ、アキヤの力を最大まで開放しても無理だろう。そうなるとどうすれば――


「アストさん! 避けてください!」


 と、キリの声が後方から聞こえる。と、キリはこちらに向かって杖を向けていた。


「や……ヤバい……!」


 俺は慌てて龍の頭部から飛び降りる。かなりの高さであったが、なんとか無事着地する。


「……『メテオ・ショット』!」


 キリがそう叫ぶと同時に、巨大な火球が杖の先から飛び出し……そのままドラゴンの頭部に直撃した。


「お、おぉ……!」


 本当に、攻撃魔法……しかも、かなり高位な攻撃魔法を使えたようである。


 ドラゴンゴーレムの頭部からバラバラと崩れた破片が降ってくる。明らかにダメージは与えられている……と思った矢先だった。


「……え?」


 そう思った次の瞬間には、まるで時間が逆戻りするかのように、破片が頭部に戻っていき……あっという間に最初からダメージなど受けていないような状態に戻ってしまったのである。


 俺は、思わずキリの方を見る。キリはこういうことだと、言う顔で俺を見る。まさに、不死身なのだ、と。


 ……さて、どうしたものだろうか?

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