第232話 掴んだその腕を

 そして、次の日。俺たちは先日、レイリアと対峙した場所に戻ってきていた。


「……本当に来るのか?」


 リアはすっかり回復していた。その回復力はさすがと言うべきだろう。


「えぇ……来ますよ」


 俺はリアの質問にそう答える。


 俺はリアに対してレイリアと取引をして、レイリアに今一度リアと決着をつけるようにということを取り決めてきたと言った。実際、俺はレイリアにそうするように言ったし、レイリアもそうするであろうことはほぼ確実だった。


 だが、そうは言っても、俺としても不安であった。本当にレイリアがやってくるのか、確かなことは言えなかったからである。


「……で、私は『リジェネレイト』の準備、しておけばいいってこと?」


 メルがいつも通り気だるそうな感じでそう訊ねる。


「え、えぇ……しかし、メル……」


「ん? 何?」


「いや……なんだか、ツヤツヤしていませんか?」


 俺は思わずメルにそう聞いてしまった。と、メルはニンマリと微笑む。


「そりゃあ、今の私にはいつもの倍以上の魔力が溜まってるからね。そりゃあ艶も出るってもんよ」


 そう言って杖を地面に突き刺すメル。


「リア!」


「え……な、なんだ?」


「私の魔力の心配はする必要はないわよ。精一杯戦いなさい!」


 メルのその言葉に最初は動揺しているリアだったが……しばらくして大きく頷いた。


 と、そんな話をしていると何者かが、こちらにやってくるのがわかった。


「……あれは」


 見ると……その人影は……間違いなくレイリアだった。


 なぜか少しフラフラとしているが……間違いなくレイリアだった。


「……来たか」


 リアはすでに戦闘準備万全といった感じで、剣を構える。


「レイリア! 今日こそ、ミラの身体返してもらうぞ!」


 リアは大声でそう言う。この声の感じ……リアは本気でレイリアに対峙しようとしているようだ。


「……五月蝿いな。まったく……妾の機嫌が今どれだけ悪いか……」


 そう言ってレイリアは苛立しげに俺のことを見る。どうやら、ミラが自身の身体に仕込んだ毒が、間違いなくレイリアのことを蝕んでいるようである。


「……まぁ、良い。とにかく、早くかかってこい」


「……うぉぉぉぉぉ!!!」


 そう言ってリアはまっすぐにレイリアに切りかかっていった。レイリアはその斬撃を……何事もなかったかのように躱す。リアはそれでも二撃、三撃と斬撃を加える。


 が……ことごとく避けられてしまう。それでも、リアは諦めようとしなかった。


「……チッ。面倒だな」


 と、レイリアは立ち止まり、リアの刃を、手で直に受け止めた。


 さすがにそんなことをされるとは予想外だったのか、リアも動きを止めてしまった。


「……お主の攻撃はスキが多い、無駄が多い……そして何より……非力すぎる!」


 そう言ってレイリアは片手で剣を弾き飛ばしてしまった。リアはなんとか体勢を整え、踏みとどまった。


「……そうかもしれない! だが、私は約束したんだ! このパーティにとって、私が……役に立つ存在であると!」


 そう言って今一度リアはレイリアに向かっていく。


「……まったく……忌々しい……あの子を見ているようだ……!」


 と、レイリアはさすがにしびれを切らしたのか、吸魂剣を引き抜く。


「うおぉぉぉぉぉ!!!」


 リアがまたも大ぶりで剣を切りつけようとすると、それをまるでめんどくさそうに避けるよ……レイリアは剣先をリアの腹部に突き刺した。


「あぁ……!」


 またしても同じ方法で……というか、レイリアはまるで妥協するつもりはないようで……協力するとは一体何だったんだ?


「……まだよ」


 と、そう言ったのは……魔法を引き続き発動中のメルだった。


「え? まだ、って、リアは……」


「……よく見なさいよ。今、リアがようやく、掴んだのよ……レイリアを倒す一手を」


 そう言われて俺は今一度リアとレイリアを見る。


「あ……」


 俺は思わず唖然としてしまった。


「くっ……お、お主! 正気か! は、離せっ!」


 見ると、レイリアの剣は間違いなくリアの腹部を貫通しているのだが……リアは倒れていなかった。


 そのままでレイリアの腕をガッツリと掴んでいたのだった。

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