第218話 残酷な取引

「……なるほど。魔王の城、か」


 レイリアは、俺たちが事の顛末と事情を話し、質問を始めると先程までの暴れぶりはどこにいってしまったのか、大人しくなった。


「そう。で、アンタは行き方、しっているわけ?」


 いくらアイテムで自由を奪っているとはいえ、ミラはまるでレイリアを前にしているとは思えないくらいの態度でそう尋ねる。


 すると、レイリアはムッとした顔をしながらも、俺とミラのことを見る。


「妾が知らないわけがないだろう。先代の魔王様の時代には魔王の城には何度も行ったことがあるからな」


「へぇ。じゃあ、どうすれば行けるの?」


「それはもちろん、魔法に決まっているだろう?」


 バカにした調子でそういうレイリア。今度はミラがムッとした顔でレイリアを見る。


「……だから、その魔法がわからないからアンタに聞いているんだけど」


「はぁ……やれやれ。まぁ、お主達のような低級な冒険者では知らないのも無理はないか」


 レイリアがそう言うと明らかにミラが杖を構えて何か呪文をかけようとしたので、俺は「リアの身体です!」といってなんとかミラを抑えた。


 その様子を満足そうにみながら、レイリアはもったいぶった表情で俺のことを見る。


「まぁ……アストは妾のお気に入りだ。お主に免じて、教えてやっても良いぞ?」


「え? いいんですか?」


「うむ。ただし、条件がある」


 ……無論、ただで教えてくれるとは思っていなかったので、予想通りだ。問題は……レイリアが一体何を要求してくるのか、ということである。


「……その条件とは?」


「簡単なことだ。この身体……つまり、リアの身体を妾に寄越せ」


 ……どことなく予想はできたが……やはり、レイリアはとんでもないことを要求してきた。


「……俺がその条件を呑むと思いますか?」


「思わんな。だが、お主達は今困った状況にいる。そして、その状況を打開するには妾に頼る以外にない……そうだろう?」


 ニヤニヤとした邪悪な笑みを浮かべながらそういうレイリア。


「アンタ……さっきも行ったけど、氷漬けになっているの、アンタの娘なのよ」


「あぁ、そうだな。あぁ、ラティア、哀れな娘だ……人間を守るために自ら氷漬けになるとはなんと哀れで……間抜けな娘だ。妾の娘とは思えないくらいに」


 わざとらしく悲しげな顔をしてそう言うレイリア。ミラは苛立たしげにレイリアを睨んでいる。


「……わかりました」


「え? ちょ……アスト君! 本気なの!?」


 俺は慌てるミラを静止して先を続ける。


「ですが……リアと最後に話をさせてくれませんか?」


 俺がそう言うとレイリアは最初意外そうな顔をしていたが、さも俺をバカにした幼な顔で見てくる。


「まぁ、人間というのは事情が悪くなると仲間であろうと簡単に切り捨てるものだな。リアもこんな奴らの仲間になって可哀想になぁ。いいだろう。哀れな娘のために、最後にお前と話をさせてやろう」


 そう言うとガクッとレイリアは頭が垂れる。そして、しばらくすると、ゆっくりと顔をあげた。


「……一体どうなったんだ?」


 顔を上げた時には既に邪悪な気迫はなく、見ただけで俺たちはリアが戻ってきたのだと理解した。


 もっとも……リアに対してこれから残酷な内容を告げなければならなかったのだが。

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