第171話 俺は勇者……?
『グギャァァァァァ!!!』
まるで悲鳴のような雄叫びを挙げながら、カイは触手の化け物となっていく。天井を突き破り、先程よりも巨大になって行っているようだ。
そして、それと同時に、触手が俺に襲ってくる。俺は剣を構え、触手を迎え撃つが……触手の力が予想以上に大きい。
それと同時に剣が……へし折れた。
「……これは、少々不味いですね」
触手は既にどうやら「普通」の力では対応できるレベルではないようである。そして、俺自身も今さっき剣を失ってしまった。
俺は腕輪を見る。輝きは既に限界に達そうとしている。
(ククッ……さぁ……久しぶりに暴れようじゃないか)
笑い声が聞こえてくる。嬉しそうな声。暴れたくて仕方ないという声だ。
おそらく、ここで俺が覚悟を決めなければ触手は無限に巨大化していくだろう。そうなれば町が人が世界が飲み込まれてしまう。
そして、その世界には……こんな俺を受け入れてくれたリアやメル、ミラもいる。
ここで俺が目の前の化け物を滅することが出来なければそれらがすべて失われてしまう。俺には身に余るほどの宝物である彼女たちを……俺は失いたくない。
だとすれば……選択肢は一つしかない。
「……そうですね。ですが……俺の身体はお前に渡しません」
(あぁ……別に構わないさ。お前が嫌でも、俺が奪い取ってやるからな……)
俺は腕輪に祈る。とても危険なことだ。しかし、俺は選択する。
俺自身というものが仮に失われてしまっても……俺は宝物を失いたくないからだ。
腕輪が限界まで光りだす。それは周囲を包み込むぐらいに。
『グギャァァァァァ!!!!!』
けたたましい叫び声とともに触手が襲いかかってくる。それと同時に腕輪の光が収まった。
触手の速さが……大分遅くなった。いや、遅くなったように見えるのである。
正確には、触手の動きが手にとるように見えるようになったのだ。それはまるで転生前の俺が記憶している強さと寸分たがわない反射神経だった。
俺は触手を掴むことが出来た。そして、それに少し力を込める。触手は、いとも簡単に破裂する。
『ギャァァァァァ!』
怪物が叫び声をあげる。なんだろう……先程よりも俺の神経を逆撫でする。目の前の怪物を俺は滅さなくてはいけない。
理由? 理由……確かにそんな理由があったような気がするが……そんなことはどうでもいい。
怪物、魔物……そう呼ばれる存在を俺は今まで全て倒してきた。だからこそ、今俺の目の前に存在する化け物も俺が倒さなければいけない。
「そうだ……だって、俺は……勇者なんだからな」
思わず笑みがこぼれてくる。腕輪から力が湧いてくる。触手がまだ叫び声をあげながら襲ってくる。
遅い、うるさい……邪魔だ。
俺は右手を天に向ける。
「……『
俺が呟くと同時に、触手の上空が輝き出す。そして、同時に何かが怪物に突き刺さる。
『ギャァァァァァ!』
触手が大きく身体を揺らしながら苦しんでいる。触手の身体には……黄金色に輝く剣が突き刺さっていた。
それを確認すると、俺は思わず笑ってしまう。そして、次の瞬間には剣がそれこそ、雨のように上空から降り注ぎ、怪物に突き刺さっていく。
その度に怪物はけたたましい声をあげる。もうその叫び声は不快ではない。俺にとっては心地よい声に聞こえる。
「……ハッハッハ! 見たか! 俺だ! 最強の勇者は俺なんだよ! ハッハッハ!」
無数の剣が怪物の身体に降り注ぎ、突き刺さっていく光景を見ながら、俺は高笑いをあげていた。
しかし、心のどこかでおかしな疑問が浮かぶ。
そういえば、先程から俺は自分のことを俺と言っているが……俺って一体誰のことなんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます