第162話 戯言……?
「おいおい……誰だよ、今日はどうして僕のハーレムを邪魔する奴が多いんだ……」
と、目の前の光栄に驚いて気づかなかったが、部屋の奥には王が座る玉座があった。
そこに周りにメイド姿の女性を侍らせ、ふんぞり返っている男がいる。
それは、間違いなく、ラティアを連れて行った男……カイと名乗ったインキュバスであった。
「ん? おぉ! アスト! 遅かったな!」
と、ラティアも俺に気付いたようだった。隣のアッシュは嫌そうな顔で俺のことを見る。
「一体どうなっているんですか!?」
「見てのとおりだ! 敵に囲まれている!」
敵? この女性冒険者達は全員敵だったいうのか?
その数、この広大な部屋を埋め尽くす程であるが……百人はいるだろう。それらが全員敵?
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねよ! お前ら、さっさとソイツらを殺せ!」
と、玉座のインキュバスから怒声が響くと、女性たちの顔つきが変わる。それと同時に俺とキリの方に女性達は剣を向けてきた。
「ま、不味い……! キリ、すいません!」
「……え? ちょ、ちょっとアスト!」
俺は小柄なキリを抱きかかえると、ラティアの方までダッシュする。ラティアも俺が何を目的としていたのかわかったようで、不敵に微笑んだ。
「ラティア! お願いします!」
ラティアの直ぐ側までたどり着く。既に、大勢の女性冒険者たちが今にも俺達に襲いかかってこようとしていたその時だった。
「よかろう。皆、我から離れるなよ……『アブソリュート・ゼロ』!」
それと同時に瞬時に周囲の温度が一気に下がる。そして、今まで俺達に襲いかかろうとしていた女性冒険者たちは……まるで氷の彫像のようにその場で凍って動かなくなってしまったのだった。
「……ふむ。アスト達が来るまでは大人しくしていようと思っていたんだが、最初からこうすればよかったな」
……俺も経験したからわかるが、やはりラティアの強さは頭一つ抜けている。仲間で良かったと思うばかりである。
「なっ……なんなんだよ! お前!」
と、玉座の上から声が消えてきた。見ると、インキュバスのカイがそれこそ、青ざめた表情で俺達のことを指差している。
「……お前こそ、一体なんなんだ?」
ラティアがそう聞くと、カイは苛立たしげに顔を歪める。周囲のメイド達はおそらく冒険者ではないのだろう。戦力にはならない。
「ふ……ふざけるな! なんでお前には、僕の能力が効かないんだ!」
「当たり前だろう。我は吸血鬼。下等なインキュバスが使う心酔などに影響されるものではない」
冷たく言い放つラティアにカイはさらに顔を歪める。
「い、インキュバスだと……!? ふざけるな! 僕は魔物なんかじゃない! 僕はこの世界を救うために異世界転生してきた勇者だぞ! 僕が女神様から貰った能力は最強の能力のはずなんだ!」
……なんだ? いきなり何かとんでもないことを言い出したぞ?
異世界から転生? 女神から貰った能力? 一体何を言っているんだ?
「……えっと、すいません。今の話、本当ですか?」
俺がそう言うと、カイはさらに激昂する。
「本当に決まっているだろう! お前達モブと違って僕は主人公なんだ! 女神様にそう言われたんだ! だから、こうして立派な城を拠点として貰ったんだからな!」
……この態度。どうも嘘を言っているようには見えない。かといって、妄想を垂れ流しているようにも聞こえない。だとすると、彼は――
「もう良い。戯言は終わりだ」
と、そう言っている間に、ラティアが今一度カイの方に視線を向ける。
「ひっ……な、なんだよこれ!」
それと同時にカイの身体がみるみるうちに凍っていく。
「ふ、ふざけるな! こ、こんなの認めない! 僕は異世界転生して最強になったはずなのになんでこんな――」
最後まで言い終わらないうちに……カイは完全に氷漬けになってしまったのだった。
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