第160話 普通の魔法使い

 階段を登っていくにつれて、わかったことがあった。


 この城の中、外見以上に広いのである。この感じではラティアとカイがどこに行ってしまったのかを探すのだけでも一苦労である。


「……あの、すいません、アスト」


 と、俺の後ろを歩いていたキリが話しかけてきた。


「どうしましたか、キリ?」


「……これって、行き先がわかっていて歩いているんですか?」


 キリの質問に俺達全員の足が止まる。


「……え? どこに行くかわからないで歩いていたんですか?」


 信じられないという顔でキリが俺達のことを見ている。


「あー……とりあえず、道なりに行けばいいかな、と……」


「……この広大な城の中で、それは難しいじゃないですか?」


 明らかにキリが怒っている。まぁ、俺としてもこんな複雑な城の中を探索するのも転生する前から考えるとかなり久しぶりだったからなぁ……


「……サキさんは、てっきり匂いを追っているのかと思ったんですが」


「あ、あはは……さっき言った通り、どうにもあのインキュバス、匂いがしないんですよね……すいません」


 申し訳無さそうにそういうサキ。


「……わ、私は、アストに付いていけばいいのだと思って……」


 リアも恥ずかしそうに自白した。どうやら、俺含め誰一人として、今自分たちがどこに向かっているのか理解していなかったようである。


 キリは大きくため息をつく。


「……リアさん。何かラティアさんが身に着けていたものとか、持っていませんか?」


「え? あ、あぁ……姉上が装備を変えるから、身につけていたアクセサリーなどは私が持っていたぞ」


 そう言って、リアは懐から、ラティアが身につけていた首飾りを取り出す。


「……それ、貸してくれませんか」


「あ、あぁ。構わないが……」


 キリに言われるままに、リアはアクセサリーを差し出す。すると、キリは、なにか呪文を唱える。それと同時にアクセサリーが宙に浮かび、フワフワと漂い出した。


「……後はこのアクセサリーが導いてくれます。行きましょう」


「え……キリ。今何を?」


「……何って『トラッキング』の魔法を使ったんですよ。ダンジョンなんかで、討伐対象のモンスターがどこにいるのか、モンスターの痕跡なんかに魔法をかけて導かせるんです」


「なるほど……キリはそういった魔法が使えるんですね」


 と、俺がそう言うとキリは少し面食らったような顔をしたあとで少し頬を紅くしながら俺のことを睨む。


「……普通ですよ。誰でも出来る魔法です」


 兎にも角にも、俺達は宙に浮いたラティアの首飾りに導かれるままに歩きだした。と、首飾りが導いた先に、大きな扉が立ちふさがる。


「この扉……開かないぞ」


 リアが扉を押したり、引いたりするが、扉はビクともしない。


「違う道を探しますか?」


 サキが提案した矢先キリが扉に向かって進み、またしても何かしら呪文を唱える。


 と……今まで完全に閉じていた扉が勝手に開いた。


「すごい……キリ、また魔法を?」


 今度は俺だけでなく、リアやサキが羨望の眼差しでキリを見る。


「……そうですよ。今のは『ピッキング』……冒険者の魔法使いなら誰でも使える普通の魔法です」


「え? でも、ミラはそう言った魔法は使ったことないですよね?」


 俺は思わずリアに確認をしてしまう。リアも同様に頷いた。


「……それは、ミラ姉様が特別だからです。逆に、私は姉様が使うような状態異常魔法、使えませんから……」


「でも、キリがいなければ行き先もわからなかったし、扉も開きませんでした……キリも充分、特別だと思いますよ」


 俺が感謝の意味でそう言うと、キリは目を丸くしたあと、不機嫌そうに俺のことを睨む。


「……アスト。アナタ、恥ずかしいことを言う人だって、よく言われません?」


「え? あー……たまに言われますが……それがなにか?」


「……もういいです。行きましょう」


 キリになぜか呆れられてしまった。俺達はそのまま浮遊する首飾りを頼りに、ラティアの居場所へと向かったのであった。

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