第159話 二手に分かれて
城門は閉ざされておらず、むしろ、まるで俺達を招いているかのように開かれていた。そのことに不気味さを感じながらも俺達はそのまま城の敷地内に突入する。
「あ、あれ……アッシュは……?」
と、城の内部へと続くであろう扉の前で……リアが立ち止まっていた。
「アスト……すまない。さすがに私はこのまま突っ込むのは不味いと思い直したんだが……あの男、私が止めたのに一人で行ってしまったぞ」
どうやらアッシュは一人で城に乗り込んでしまったらしい。まぁ、昔から無鉄砲なところはあったが、ホリアがいなくなって冷静さがなくなってしまっているんだろう。
「わかりました。では、俺達も行きましょう」
「一つ、提案があるんだけど……いいかな?」
と、そこでいきなりミラがそう言ってきた。
「え、えぇ……なんでしょうか?」
「ここからは……二手に分かれる方がいいと思う」
ミラの表情が真剣になる。どうやら、今の発言は本気のようだ。
「分かれる……この危険な城を前にして、ですか」
「うん。だって、あの街での話だと、若い女の人達がこの城のどこかにいる……おそらく、あのインキュバスがそんな大勢の女の人達が自由に歩き回らせておくはずがない」
「つまり……どこかに閉じ込めているというわけですか」
ミラが腕を組んで大きく頷く。確かにその通りだ。この大きな城なら、人を閉じ込めておくスペースも存在するだろう。
「とりあえず、心酔への耐性が弱いウチとメル、そして、勇者サマはその閉じ込められた人たちを助けるってことで――」
「ま、待ってくれ! 私はアストと行く!」
と、ミラが言い終わらないうちに、リアがそう叫んだ。
「え……だって、勇者サマ……」
「姉上が危険を冒して囮になっているんだ! もしものときは私が姉上を助けたい!」
リアの気持ちはわかる。実際、どんなに強い氷の魔法の使い手で、吸血鬼だとわかっていても、俺だってラティアのことが心配だ。妹のリアの心配はより強いだろう。
「……そうだね。ウチもキリちゃんが囮になっていたら、たぶんアスト君に着いていっただろうからね」
と、妹がめの前にいるミラは快諾してくれた。こうして、俺、キリ、サキ、そして、リアがラティアとカイを捜索、メルとミラが閉じ込められている人たちを助けることになった。
「わかっていると思うけどウチがかけた『ステルス』の魔法は基本的に絶対に気づかれないけど、一度存在を認識されてしまうと意味がない。くれぐれも、決定的なチャンスが訪れるまで決して相手に存在を悟らせないように」
ミラにそう言われ俺達は深く頷く。
「じゃあ……アスト君。大丈夫だと思うけど、キリちゃんのこと、よろしくね」
言われたキリの方は子供扱いするなとばかりにミラのことを睨んでいたが。
そして、いよいよ、俺達は内部へと続くであろう扉を開ける。
扉を開けた先には、別れを象徴するかのように、上へ向かう階段と、下へ向かう階段があった。
「ウチらは下、アスト君達は上だね」
「えぇ……二人共、くれぐれも気を付けて」
笑顔で頷いた二人はそのまま階段を降りていった。
「……では、俺達も行きましょう」
細心の注意を払いながら、俺達も階段を登り始めたのであった。
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