第155話 懇願
「そんなの……駄目に決まっているだろう!」
宿屋に集合した俺達だったが……作戦の内容を伝えると早速リアが反対してきた。
皆が不安そうに注目していても、リアは頑として主張を譲ろうとしない感じである。まぁ、予想はできていたが……
「リア……まぁ……そうですよね」
「当たり前だ! 姉上一人で行かせるなんて危険過ぎるだろう?」
そう言ってリアはラティアの方を見る。しかし、ラティアは別に困った顔もしておらず、いつものような涼しい顔をしている。
「でも……ウチらも隠れて見ているっていうだよ? 大丈夫じゃない?」
ミラが俺に助け舟を出してくれるが、それでもリアは納得してくれないようである。
「……ラティアは、どう思いますか?」
俺は少し卑怯だと思ったが……ラティア本人に確認してみることにした。
「我は別に構わないぞ」
……思った通りの答えが返ってきた。悲しそうな顔でリアはラティアを見る。
「姉上! 本気なのですか!?」
リアがラティアに詰め寄るが、ラティアは薄っすらと笑みを浮かべているだけである。
「リア。我が愛しい妹よ。我のことを心配してくれるのは良いが……我のことを誰だと思っている?」
「え……?」
と、ラティアの視線がにわかに鋭くなる。それは初めて氷の城で会った時かのような冷たい氷のような視線だった。
「我等が母は確かに邪悪な吸血姫であった。しかし、我とお前はその血を受け継いでいる……それがどういうことかわかるか?」
そう言ってラティアはリアの頬を優しく撫でる。リアは先程までとは違い、まるで落ち着いている。
「それは……どういうことなんですか?」
「我等は強いということだ。そこらの雑魚共では倒せる存在ではないということだ」
そう言ってラティアは俺の方に視線を向ける。
「我と戦ったお前ならわかるだろう? なぁ、アスト?」
「え……えぇ……」
……やはりラティアは仲間としては頼もしいが、どこまで氷のような強さと気高さがある。
「……わかりました。姉上がそこまで言うのなら……ですが! もし危険な状態になったら私が姉上を助けます!」
「フフッ……あぁ。そうだな、頼りにしているぞ」
ラティアがそう答えてくれたことで……どうやら、作戦は開始できるようだった。
「えっと、それじゃあ、ラティアの協力で作戦は開始できそうですが……一つだけ、確認しておきたいことがあります」
と、俺は今度は……アッシュの方を見る。アッシュは宿屋に着いても相変わらず俯いていた。
「アッシュ」
俺が呼びかけると、アッシュはゆっくりとこちらを向く。
「俺の仲間がホリアのために危険を犯して助けに行くのです。アッシュ……アナタにはそれを理解してもらえますね?」
俺がそう言うとアッシュは何も言わずに視線を伏せると……小さく頷く。
「……フッ。いつもの俺なら……アストのくせに、何偉そうなこと言ってんだ、って言っているだろうな……」
「えぇ。俺もそう思います」
と、アッシュは立ち上がり、ジッと俺の事を見る。それから、部屋の中にいる全員に視線を向ける。
「……頼む。ホリアのことを助けてくれ」
俺がパーティに所属していた時には一度も聞いたことのないアッシュの真剣な懇願が、部屋の中に響いたのだった。
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