第136話 思い入れ
「うぅ……ふざけんじゃないわよ……」
「メル、大丈夫ですか?」
フラつきながらもなんとか歩くメル。悪態をつきながら、なんとか彼女の家の方に向かって歩いているという感じである。
俺はその様子を少し離れて不安げに監視している。
「……アンタはどう思ってんの?」
と、いきなりメルが立ち止まると、俺を睨みながらそう訊ねてくる。
「え? どう、とは?」
「アンタも……私より新しいヒーラーの方がいいって思っているわけ?」
「そんな……俺もミラもそんなこと思ってないですよ。リアは……なんというか、今は少し様子がおかしいだけで、このパーティのヒーラーはメル以外にあり得ない、って思っていますよ」
疑わしげな目つきで俺のことを見ているメル。無論、酔っているということもあるのだろうが……
「……前も話したけど、いろんなパーティでクビになってきたときは、別に大して何も思わなかった。なのに……なんで今はこんなにイラつくの?」
俯きながら、腹立たしげにそう言うメル。俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
「……ちょっと。何笑ってんのよ」
「あぁ、いえ……それは、つまりメルがこのパーティのことを、大事に思っているからじゃないですか?」
俺がそう言うとメルは少し顔を紅くしてからす、すぐに顔を背ける。メルは酔うとわかりやすい性格になるようだ。
「ば、馬鹿じゃないの……そりゃあ、このパーティに入ってからいろんなことがあったし……思い入れはあるけど……」
「そういうことですよ。俺だって、このパーテイがこれまでで一番好きですから」
「……アンタ、よく恥ずかしげもなくそう言えるわね」
「そうですか? 俺の本心ですから」
俺がそう言うとメルは少し酔いが冷めたのか、落ち着いた視線で俺のことを見る。
「……そういうアンタは、今の私みたいな経験はあるの?」
そう言われると……思わず俺は黙ってしまった。それは、間違いなく今の俺自身の記憶ではない。
腕輪に封じ込められている転生前の記憶……そして、俺が転生するきっかけとなった記憶……
「……えぇ。ありますよ。思い出したくないですけどね」
「思い出したくないって……アンタ、その時はどうしたの?」
メルの問いかけに……俺は笑顔で返した。メルは不満そうに俺を見る。
「一つ言えるのは、メルはその時の俺のようにはならない、ということですよ」
「……なにそれ。意味分かんない」
それからメルは足取りも落ち着きを取り戻し、俺に見送られながら、家へと戻っていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます