第124話 躊躇
「アスト君!」
ミラが慌てて駆け寄って来ようとするが俺は首を横にふる。
「なんですか、今のは。まさかとは思いますが……私を斬るのを躊躇った、のではありませんよね?」
……ヤトの言葉を否定できない。俺は……明らかに躊躇した。
それは、ヤトがレイリアのような明らかな悪ではない……そもそも、ミヤやキリの姉だからだ。
だから、心のどこかで、少しでも追い詰めれば勝負は終わる……そう思ってしまっていたのだ。
だが、そう思ってはいけなかった。腹部の痛みが俺にそれを思い知らせてくる。
ヤトは……本気で望まなければ駄目だ。おそらく、レイリアと同様の……それ以上の覚悟で望まなければ逆に殺される。
俺は立ち上がり、今一度剣を構える。
もっと力を出さなければならない……レイリアの時ほどではないにせよ、それに近い程の力を出さなければ……
腕輪の光が強くなるにつれて、身体中に力が巡っていくのが分かった。
「ほぉ。やる気になりましたか」
ヤトの表情が少し変化する。どうやら、ヤトもやる気になったようだ。
「では……今度はこちらから」
またしてもヤトの姿が消える。しかし……気配はわかる。
ヤトの姿が現れる……そして、今度はナイフで斬りかかってきた。俺は剣でその斬撃を受け止める。
「……おや。見えるのですか?」
「えぇ……見えています」
それを聞いてヤトも俺との距離をとる。
「……そうですか。では、私も手加減しなくても良さそうですね」
そう言うとヤトは、どこに隠していたのか、その両手にそれぞれナイフを装備する。
「では、行きます」
またしてもヤトの姿が消える。
気配はわかるが……目で追うのがやっとだ。
おまけにヤトは移動中にナイフを飛ばしてくる。俺は飛んできたナイフを避けながらも、ヤトの姿を追う。
「……なるほど。一応は私の姿が見えているようですね」
ヤトの動きが止まる。
……見えていると言っても本当にギリギリだ。それに、避けるのに精一杯でかなり披露してしまっている。
ミラとキリも不安そうに俺を見ている……どうにかしなければならない。
これが延々と続くと俺は……さらなる力を解放しなければならないかもしれない。
「ですが、反撃することはできない。貴方様の限界はその程度のようですね」
「……えぇ。今の俺の限界は……ここまで、ですね……」
俺がそう言うと、ヤトが眉間をピクリと動かす。ヤトの逆鱗に触れたようだった。
「そうですか……しかし、私は一瞬で勝負を決める主義です。貴方様の限界がその程度ならば……そろそろ終わりにしましょう」
そう言うと同時にヤトはいきなり何かを地面に叩きつける。それと同時に……辺り一面が一瞬にして煙に覆われたのであった。
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